散華へのモラトリアム

一華

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第一章 

その華は風にさらされて 4

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いつの間にか、目の前のカウンターの向こう側のテーブルに、見慣れた一団がいたのだ。
つまり同じ大学の男子生徒のグループ。それだけでも血の気が引く思いだが、中心に輝き光るような存在を発見するのは次の瞬間。 
瑞華にとっては、憎くさ羨ましさのあまり、そのシルエットだけでも間違い様のない人物。

九条風人!!!
九条風人が悠々、笑顔で座っていたのだ!


さっと俯き、一気にお酒が頭に巡るのを感じた。 
色んなものが溢れて沸騰しそうになる。


え!?いつ?いつからいたの!?

考えてみたが思い当たる節はなく、勿論思い当たってもあんまり意味はない。
向こうに気付かれていないことを、ただひたすら祈るだけだ。
九条風人は、さぞやどうでもいいだろうが、こんな姿を見られた日には、敗北感しか感じないことは間違いない。
そんな生き地獄はまっぴらごめんだ。

すぐにも店を出たいが、一団の席は入口レジのすぐ近くだ。
その横で会計するなんて考えたくもなかった。 

まさかこんな格好で気付かれるとは思わない、思わないが。
万が一があったらどうすればいいの!?

心底、近寄りたくない。 

喉から胃が出そうな気持ちで、息を飲んだ。ついでにウーロン茶を飲み干した。 
混乱はMAXになっている。

神経が研ぎ澄まされている瑞華には、ある程度遠いのに、一団がたわいのない話に花咲かせてる声が妙にリアルに聞こえてくる。 
いや、実際そこにいるのだから、リアルなのは当たり前か。 

はは、と自嘲して笑ってから、頭を抱えると一団の中の一人が急にとんでもないことを言い出した。 

「うちの大学で一番可愛いのって、やっぱり花宮瑞華かな?」 

急に自分の名前が聞こえてきて、瑞華は硬直した。

はいぃ…!? 
大丈夫かこの人達。正気を疑うんだけど?
 

いや、実際はさっと顔が赤くなり、火を噴きそうなだけだけど。 
普段は清楚系で通していて、素がこんなとは言え、恋愛事には無縁で生きてきた瑞華はこう言った酒の肴代わりの会話など本当に免疫がない。
合コンなんてものにも行ったことがない。
ましてや自分の男受けなんて考えたこともなかった。
立派な淑女に見えれば良いとは思っていたけれど、それがイコールどうなるなんて考えたこともない。

本当に勘弁してほしい、と小さく羞恥に震えてしまう。
別の学生が答えた。 

「ちょっと敷居が高いからな。俺は一年に入ってきたテニスサークルの子がいいな」 

よしよし、話がそがれた、と息をつくと 

「まあ、瑞華は別格じゃね?」 

と付け足される。
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