散華へのモラトリアム

一華

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第三章

風雅なる訪れ 3

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会社の一室、専務取締役用の部屋を九条風人にはあてがわれることになった。 
専務取締役は現在不在である。 
鷹羽氏の提案で新しく代表取締役が何名か増え、特別な役職は減っているのだ。
名目は経費削減。実質にはワンマンを減らし個性はないが、纏まった会社作りの為。 

昔ながらの縦社会の形式を変えるため、と言う話だが・・・・・・ 

「結局、抑制されただけじゃない?」 
会社の現状を伝えた時。
くすっと黒い笑みを浮かべ、風人さんが言い放った一言は忘れられない。

だが、実際そう。 
縦社会で発言権の強かった華屋の参謀クラスが、鷹羽氏によってどんどんと立場を無くし、会社を追われ、いなくなった。
そうして気がつけば、鷹羽氏なしでは立ち居かない会社に仕上がって来ている。 

瑞華には、口だしさせて貰えない経営に在学中になんとか参加し、経営を立て直す目論みもあった。 
だが。たった一年の間にみるみる会社は鷹羽氏なしでは成り立たない状態に変わってしまい、半年ほど前からは、瑞華は本社の立ち入りさえ出来なくなっていた。
今日ここに来たのも実に久しぶりだ。

『妻となる人間が、夫の仕事にあまり口を出すものではない』
にこやかに鷹羽氏に牽制され、両親も同意したのだ。

以前、華屋では中々厳しい数字が上がっているが、それでも大分マシ。 
ただの援助の段階でここまでになるとは、鷹羽氏の華屋への取り込み方は、少々恐ろしいものがある。 
そして結局、瑞華に取っては逃げ場が無くなって行っていた。



風人を部屋に案内すると、父に言われて瑞華はお茶を用意するために退席させられた。
その間に、その部屋にあるパソコンの使い方や、九条風人が企画した案を直接父が受け取り、自分の案として会社に通す、という流れを話しているはずだ。

あの部屋のパソコンには、社長室と同じように、華屋全体の数字は全て見れるようになっている。
瑞華が見ることは許されていないが、九条風人には許されたわけだ。

瑞華の表情は、すっと冷たく抜け落ちたようになり、次の瞬間には悲しみに暮れていた。 


お茶を用意して部屋に戻ると、既に父はいなかった。
ずっと張り付いていそうな雰囲気があったのに、なんと言って席を外させたのだろう。
そう思いつつ、専務用の大きなデスクにお茶を出しつつ、 早速パソコンを開いて数字を眺めている九条風人を見た。
スプリングの聞いた椅子に座り、厭味いやみな程長い足を組み、またその姿が様になっている。 
だがまた見惚れなどと思われても悔しい。
瑞華はむりやり視線をはずした。
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