散華へのモラトリアム

一華

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第三章

風雅なる訪れ 1

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華屋本社にて、瑞華は百貨店華屋グループの社長である父と一緒に風人の訪問を出迎えることになった。
仰々しくならないようにと、大通りに面した表玄関ではなく、社員専用駐車場からの重役専用裏口の方で。

九条からの車は、黒塗りのVIP車(大型高級車)が来たのですぐに分かった。
要人移動でよく使用される車は勿論、九条グループの物だ。
わざわざその車に乗ってきたのか…と瑞華は、その華々しさに密かに眉を顰めた。一歩前に出て、待ち受ける父の背中がなんとも華やいだ空気になったのを見つつ、大正解な選択だと、小さく吐息する。

今日お迎えするのは、九条グループのご子息である『九条風人』
もはや大学生だと言うことは、父の頭の中に残っていない気がする。

運転手が扉を開ければ、スーツ姿の九条風人がただ車から降りるだけなのに、華やかに風情すら感じる様子で登場した。
これには瑞華も、思わず目が惹かれた。
大学では、Tシャツにジーンズなどのラフな格好しか見たことがなかったので、ギャップがある。
恐らくフルオーダーの一級品のスーツは、美しいスタイルラインをしっかりと失わせず、良家の間で『風雅公』と呼ばれる風人の魅力をしっかりと見せている。
髪は普段通り遊ばせているだけだが、少しセットが違うのだろう、艶があり、育ちの良さを感じる。
そして着ているものに負けないぐらい優雅に、そして柔らかで華やいだ空気を纏わせて、瑞華の父の前に立った。

「本日はお時間を作って頂き、ありがとうございます」
「いやいや、わざわざと言うのはこちらの方で」

テンションが随分上がったのだろう、それはもう嬉しそうに歓迎して、父は中へと案内するため先導するように歩き出した。
自然、後を追う瑞華の隣に風人はごく自然に沿う。
「セッティング、ご苦労さん」
「いえ」

本人はそのつもりはなかったのだろうが、風人のねぎらいの言葉で、つい瑞華は先日のことを思い出してしまった。



あの後、九条家から帰宅すると両親から話の内容を聞かれ。
その説明が思いのほか、難しいことに気付いてしまった。

九条風人が瑞華に懸想、つまりは恋をしていて、しかも欲しいと言われた。
華屋でその実力を試させてほしい。そして認めた時には、鷹羽氏と縁を切って、そして……

『一緒に家に行って、挨拶がてらに説明しようか?』
そう満面の笑みで聞いた風人氏を断ったのは誰でもない瑞華だ。
目の前でこの男に、そんなことを言われた日には、自分がどんな反応をするのか、全く自信がなかった。
さぞや上手くやってくれるだろうが、あまり見たい光景ではない。

だが。
その時は想像もしなかったがこれを自分の口から両親に。
年頃の娘が自分で、懸想されていますなどと言うのは、羞恥以外の何物でもなかった。
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