散華へのモラトリアム

一華

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第三章

風雅なる訪れ 5

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「いい子だね、瑞華。その調子で鷹羽氏にも陥落したりしないでくれよ」
「当たり前でしょう!?」
「どうかねえ。大人の魅力に惑わされない保証なんてないデショ?こっちが頑張ってる間に、瑞華さんが心変わりして婚約が早まりました。俺必要なくなりましたじゃあ、流石に目も当てられないからね」
「保証もなにも、本当にあり得ませんから」
言い返す瑞華に、風人はクスリと笑う。
「本当にそうならありがたいね。俺の一晩も断ってるんだし?」
 そういって、気を引くような目線を送られれば。

かあっと顔が熱くなり、赤くなってるのが自分でも分かる。 
言葉で遊ばれるのには本当に免疫がなく、自分でも呆れてしまうが、これ以上揶揄からかわれても困る。
瑞華は思わず、後ずさりした。 
「私…今日は失礼します!」 
声を高らかに言うと、どうぞどうぞと言わんばかりに、にこやかに手を振られる。

感じ悪っ 
瑞華はムッとしてから、ふんっと顔を反らして部屋を出ていった。


それを見送って。
「ようやく一人になれたねぇ」
やれやれ、と声が零れた。

部屋で一人残った風人は、何事もなかったように椅子に掛け直す。
先ほどまで、揶揄からかう為に浮かべていた笑顔は消してしまい、パソコンの中のデータに集中して、何か思考に耽るように頬杖をつく。
見たこともない会社のデータだと言うのに、慣れたように幾つものデータを開いては見比べ、たまに考えこむように止まってから、再度新しい情報を確認していく。
やがて、ふうむ、と首を傾げた。

「やっぱ、分かりにくいねぇ。良く確認しておきたいんだけど」
一人ごちて、しばらくすると確認を続けていた手を、とうとう止める。
考え込むようにデータを見つめて、瑞華の出て行った扉を一度眺めた。
もちろん、そこには誰の気配もない。


「さあ、てと。となるとやっぱり、これかねぇ」
スーツの胸ポケットから、USBメモリを取り出して。
何気なくといった様子で高々と一度、宙に投げ、受け止めてからパソコンに刺す。

メモリの中のデータを展開させながら、しばらくは中の情報を確認してから。
またガラリと印象を変えて、実に絵になる、満足そうな笑みを浮かべた。
「さあ、て。何から始めますかね」

誰に聞かせるわけでもなく、どこか挑戦的な楽しそうな声が。

その静かな部屋に響いた。
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