散華へのモラトリアム

一華

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第四章

華は友愛に力を借りて 2

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まさか、九条風人との時間を充実感を持って過ごすことがあるとは思ってなかったが、相手は「経済学部の王子様」と呼ばれる人だ。
こちら側の態度も悪く、相手からも全く異性として感じて貰えてなかったとしても。
そう、少しくらい瑞華が意識してしまっても、仕方ないのかもしれない。

ほんの少し認めて、それでもほんの少し。
本当に全然男性に免疫がない。こんなに動揺するのはひたすら、恋愛経験や異性との交遊が皆無で生きてきたからだろうと自己完結して、反省することしきりだ。

やがて美沙の演奏が終わり、食事をしていたお客様方から拍手を受けると、美沙はピアノの前で一礼してほほ笑んだ。
それから瑞華の隣にやってくると、腕を組んで、瑞華を横から覗きこんだ。
「忙しい忙しいって全然音沙汰なかったけど、そこそこ元気そうね」
「あはは…ごめん」
「心配してたんだから。今日は色々聞いてやらないとね」
詰め寄る勢いの美沙に、ぱっと目を逸らした。
言い逃れできる気も、見逃してもらえるとも思っていないのだけど、その言い方には逃げたくなる。

「お聞かせするようなことなんて」
「なかったとは言わせないわよ?さっきもここで一人百面相してたでしょ!?ピアノ途中で弾くのやめて問いただしたいって何度思ったことか!」
「見てたの!?」
「しかもニヤニヤしてたでしょう」
「してない、してないよ?」
慌てて首を振ると、美沙は疑わし気に瑞華を見つめる。
それから、意地悪な顔で笑ってみせた。

「少しばかりはネタがあがってるんだから。瑞華、あなた。40代バツイチと結婚するかもしれない上に、おんなじ大学の先輩からも言い寄られてるんですって!?何なのよ、その面白そうな話は!」
これには驚いたのは瑞華の方だ。
全然連絡も取っていなかったのに、瑞華が隠したいと思っていたことを、おおよそ知られているのは納得がいかない。
この際、『面白そうな話』などと軽く言われたことはどうでもいい。
「…なんで、そこまで知ってるの?」
「花宮のおじ様とおば様には、昔から瑞華についてはよくよく頼まれてるのよ。情報提供はあなたのご両親なんだからしらばっくれるんじゃないわよ?」
「とりあえず座ってよ…」
周りの視線が気になりつつ、美沙を座らせると、待ち構えていたようにお店のウエイターが美沙と瑞華の前の食事を運んでくれた。そのことも少々恥ずかしい。
今日の日替わりランチはビーフシチュー。香ばしい香りが漂うが、料理が運ばれている間、瑞華は羞恥で小さくなっていた。
お店の人は美沙の知り合いだから彼女は気にしないが、瑞華とすればあまり大きな声で話してほしい内容ではない。
だが、そこはプロなのだろう。
料理を運んでしまえば何事もなかったように、そして話の邪魔にならないように距離を取ってくれる。
瑞華はこの店の、そんな気の利いた空気も好きだった。

「で?」
今度は美沙も状況が整うまでと待ってくれていたらしい。
食事が運ばれるまでは口を閉ざしていたが、瑞華の表情がほぐれたのを見て、再度口を開いた。
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