拝啓、お姉さまへ

一華

文字の大きさ
12 / 282
第一章 4月

お姉さまは有名人? ★5★

しおりを挟む
「とりあえず柚鈴さんも、先に自己紹介をどうぞ」
困惑するが促されて、自己紹介する。
「は、はい。小鳥遊柚鈴です。どうぞよろしくお願いします」
「え?小鳥遊さん?去年の有名な卒業生と同じ名前ですねぇ」
花奏さんもやはり苗字で引っかかったようで、しかし市原寮長とは違い、目を丸くして明らかに驚いている。
今回は志奈を指すと思われる言葉もついて来るのだから、原因は間違いない。

しかし、『有名な』卒業生?
昨年まで中等部学生だった花奏さんにまで知られてる『有名』とはどういうことなんだろう。
つい口ごもっていると、花奏さんはうーんと眉間に考えるように人差し指を添えつつ、視線を宙に舞わせる。

「でもあちらの小鳥遊様は、同い年くらいの親戚は従兄の男性だけだったはずですねぇ」
「あら、良く知ってるわね」
「去年の高等部文芸部写真部合同出版の『憧れのあの人神7かみセブン』見せてもらいましたもん」

憧れのあの人、神7!?
なんだ、それ?

その存在は市原寮長も知っているらしく、なるほどと相槌を打った。
「あら、そうなの。でも、そうね。こちらの小鳥遊柚鈴さんは中学はこの辺りの地域の公立だったみたいだし、お住まいも違うし、苗字が一緒なのはたまたまみたいね」
「そうなんですか?凄いねぇ、小鳥遊さん」
あぁ、2人の話がどんどん進んでいく。柚鈴は焦るが、花奏さんは気付かず、ふわふわとした笑みを浮かべている。
「す、すごい?」
「去年卒業された小鳥遊先輩というのは、常葉学園ではとーっても有名人なんだよ。多分、色んな人に名前で驚かれちゃうねぇ」
「へ、へぇ」
「私も恐れ多いので、同級生のよしみで小鳥遊さんではなく、柚鈴ちゃんと呼んでもいい?」
「ど、どうぞ」
「じゃあ、よろしく。柚鈴ちゃん」
私のことは花奏と呼んでね、とにっこり天真爛漫な笑顔を見せられた。

あぁ、もう頭が働かない。取り敢えず頷いてしまう。
えっと、呼び方?
呼び方は花奏、ちゃんでいいのかな?
それくらいしか頭でまとまらない。

「呼び方については、柚鈴さん。寮では寮生同士はなるべく下の名前で呼び合うことにしているの。同じ生活を送ることになる家族みたいなものだから、と何代か前の寮長の決め事でね。特に問題なければ、そのようにお願いするわ」
「あ、はい。えと市原寮長のことはなんと呼べば?」
「私のことも遥と下の名前で良いわ。寮長と呼ばれても学園で困るから、先輩でもさん付けでもお好きによろしくてよ」
よろしくてよ、の言葉に、聞きなれず一瞬考えてしまうが、続いて柔らかく笑われれば、受け入れてしまう。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...