拝啓、お姉さまへ

一華

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第一章 4月

お姉さま、入学式です ★7★

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喫茶店を出ると、帽子とサングラスをした志奈さんが常葉学園の方を見て、名残惜しそうにしている。
懐かしい場所だから、離れがたいのかな?
お母さんも同じことを思ったようで、志奈さんに声をかけた。
「志奈ちゃん、どうしたの?」

「校門で、柚鈴ちゃんを真ん中に、家族写真撮りたかったなぁと」
なんとも切なそうに出てきた言葉に、は?っと固まってしまう。
この人、わざわざ戻って写真を撮ろうとかおっしゃいました?
あり得ないと首を振ろうとすると、
「あら良いじゃない。撮りましょう。どうせ、すぐそこなんだし」
お母さんが嬉しそうに同意した。
「いいんですか?」

私は慌てたが、2人の勢いには全く勝ない。あっという間に校門まで戻されてしまった。
お母さんはいそいそと携帯電話のカメラを用意しながら、近くにいる人に撮影をお願いしている。
入学式に参加していたのだろうか、携帯を受け取ったのはスーツを着たスラリとして背の高い女性だった。
全クラスの記念写真撮影の時間はもう終わっているようだった。
幸いなことに、帰宅のピークも過ぎたようで周りにセーラー服連れの親子の姿はまばらで、こちらのことを気にしているひとはほとんどいない。

今のうちに撮ってしまえば、大丈夫かもしれない。
諦めて大人しくなった柚鈴を真ん中に、サングラスを取った志奈さんとお母さんが並ぶ。

カメラを向けている人は、なんというか随分ずいぶん熱心な人で、携帯電話のカメラなのに距離や角度までしっかり考えてとってくれる。
熱心なのはいいんだけど、やたら周りの空気から、浮いているというか目立ってしまってる気がして気が気ではない。
まあ、今日は入学式で在校生もいないわけなのだから、志奈さんに気付く人はいないかもしれないけれど。

落ち着かない。

ようやく撮り終わって、携帯を返してもらう頃にはすごく疲れた気分になっていた。
「わぁ、なんか凄く良い写真ね」
感心するお母さんの声に見てみると、確かに携帯で撮ったとは思えないくらいの仕上がりだ。
光の当たり方や、体の角度や、笑顔の入り方がすごく綺麗なのだ。

確かに、携帯のカメラなのに、すごくキレイ。
柚鈴もつい感心してしまった。

なので、
「良かったら、私のカメラで写真撮りましょうか?」
スーツの女性が、続いて言い出した言葉に、咄嗟とっさに反応が遅れてしまった。

女性が慣れたように大きなカバンから取り出して見せたのは、柚鈴が見ても良いカメラなんだろうと分かる一眼レフだ。
どうやら凄くカメラが好きな人のようだった。
遠慮するお母さんに、まぁまぁと気安く笑いかける。
「私も一年生の子の保護者で来たんですけど、せっかくカメラも持ってきたし。もし良ければ、後日データをうちの子に持たせますよ」
スラリとした、どこかネコ科の生き物を思わせるキレイな女性は、むしろ写真を撮るのが好きなんです、と言い切り、お母さんの説得を始めた。
断るための口を挟む隙が、すでにない。

保護者とは言うが、女性は親世代には見えない。社会人だとは思うけど、もしかしたら志奈さんのように、新入生のお姉さんなのかも知れない。

「良いんですか?お願いします」
柚鈴が困りつつ、様子を見守っていると、志奈さんは目を輝かせてお願いしてしまった。

頼んでしまうんですか、志奈さん。そうですよね。頼んじゃいますよね、志奈さんなら。
うきうきした姿に心の中だけで呟く。
「柚鈴」
そんな柚鈴に気づいたのか、お母さんから、気を使うような視線がきた。
写真は断ろうか?という視線だとすぐに分かった。
携帯での写真も撮ったし、お母さんの中では一区切りついたのかもしれない。
志奈さんが乗り気なのに、こちらを優先してくれたお母さんに少し嬉しく思ってしまった。

思わず、気にしないで、とお母さんに笑顔を送ってしまう。
お母さん相手に良い子をしたくなるのは、柚鈴の悪いクセだ。
結局、大人しく並んで写真に収まってしまう。
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