57 / 282
第一章 4月
お姉さまが欲しかったもの ★7★
しおりを挟む
「遥ちゃんがわざわざ常葉学園に来た理由かぁ」
理由を聞き終わると、志奈さんは思慮深く考えこんだ。
それから真美子さんと目を合わせる。
まるで答え合わせでもするように。
「やっぱり、陸上部の家系を頼って、よねぇ」
「でも元部長の緋村先輩は、常葉学園にはいないと聞きましたけど」
志奈さんの言葉に、柚鈴が反応すると、あっさり肯定された。
「確かに大学部1年に、緋村さんはいないわ。陸上部の強い大学に誘われたって聞いたわ。私の言う『常葉学園にいる陸上部の家系』と言えば、2年生にいる方よ」
「緋村さんの助言者だった今田先輩か」
真美子さんは成る程、と頷いた。
今の陸上部部長の助言者である緋村楓さん。そしてその更に上の助言者の今田智子さん。
そもそも助言者制度自体、ピンときてない柚鈴には遠い遠い存在にしか思えなかったが、志奈さんと真美子さん的には間違いないらしい。
お互いに微笑みあってから、話を先に進める。
「でも今田先輩の性格から考えて、家系だからって口出しはしないでしょうね」
「そうね」
「そんな」
それじゃ困ると声を上げた柚鈴に対して、志奈さんはだって、と言葉を足した。
「今田先輩は、陸上部の家系の縛りを実にめんどくさがっていたもの。古い慣習を自分の代で少しでも変えたいって言ってたわ。遥ちゃんだって、何か手は考えてきたとは思うけど、簡単には手を貸してくれないでしょうね」
そう言ってから、志奈さんは思考を巡らせるように視線を動かした。
「ねぇ、真美子」
「はいはい」
「今田先輩、緋村さん、有沢さんどこを動かすのが一番なのかしら?」
志奈さんは、ゲームの答えを聞くかのように軽く真美子さんに問いかける。
真美子さんは少しだけ間を置いて答えた。
「そうねぇ。今田先輩じゃない?緋村さんは私たちの頃の生徒会でも手を焼いていたじゃない」
「あら、緋村さんでも説得は出来ると思うのよ」
「説得?」
真美子さんは、冷笑とも取れる笑い方をした。
「その場合は脅迫の間違いでしょう?」
「失礼ね。説得よ」
真美子さんの物騒な言い方を志奈さんは不満そうに訂正してから、本題に戻った。
「でもそうね。今田先輩が一番よね。あの人には一度きちんと言っておいた方が良いとは思っていたの」
どうも志奈さんの言葉は、一つ一つ穏やかではない。
柚鈴の知っている志奈さんは、どこまでもおっとりした天然な人だったのだが、何かが違う。
「あ、あの。志奈さん?」
「柚鈴ちゃんのお友達の心配事を解決しに行きましょうか」
状況が分からなくなりそうで、声をかけた柚鈴に。
志奈さんは「問題ない」とでも言わんばかりに柔らかく笑ってみせた。
理由を聞き終わると、志奈さんは思慮深く考えこんだ。
それから真美子さんと目を合わせる。
まるで答え合わせでもするように。
「やっぱり、陸上部の家系を頼って、よねぇ」
「でも元部長の緋村先輩は、常葉学園にはいないと聞きましたけど」
志奈さんの言葉に、柚鈴が反応すると、あっさり肯定された。
「確かに大学部1年に、緋村さんはいないわ。陸上部の強い大学に誘われたって聞いたわ。私の言う『常葉学園にいる陸上部の家系』と言えば、2年生にいる方よ」
「緋村さんの助言者だった今田先輩か」
真美子さんは成る程、と頷いた。
今の陸上部部長の助言者である緋村楓さん。そしてその更に上の助言者の今田智子さん。
そもそも助言者制度自体、ピンときてない柚鈴には遠い遠い存在にしか思えなかったが、志奈さんと真美子さん的には間違いないらしい。
お互いに微笑みあってから、話を先に進める。
「でも今田先輩の性格から考えて、家系だからって口出しはしないでしょうね」
「そうね」
「そんな」
それじゃ困ると声を上げた柚鈴に対して、志奈さんはだって、と言葉を足した。
「今田先輩は、陸上部の家系の縛りを実にめんどくさがっていたもの。古い慣習を自分の代で少しでも変えたいって言ってたわ。遥ちゃんだって、何か手は考えてきたとは思うけど、簡単には手を貸してくれないでしょうね」
そう言ってから、志奈さんは思考を巡らせるように視線を動かした。
「ねぇ、真美子」
「はいはい」
「今田先輩、緋村さん、有沢さんどこを動かすのが一番なのかしら?」
志奈さんは、ゲームの答えを聞くかのように軽く真美子さんに問いかける。
真美子さんは少しだけ間を置いて答えた。
「そうねぇ。今田先輩じゃない?緋村さんは私たちの頃の生徒会でも手を焼いていたじゃない」
「あら、緋村さんでも説得は出来ると思うのよ」
「説得?」
真美子さんは、冷笑とも取れる笑い方をした。
「その場合は脅迫の間違いでしょう?」
「失礼ね。説得よ」
真美子さんの物騒な言い方を志奈さんは不満そうに訂正してから、本題に戻った。
「でもそうね。今田先輩が一番よね。あの人には一度きちんと言っておいた方が良いとは思っていたの」
どうも志奈さんの言葉は、一つ一つ穏やかではない。
柚鈴の知っている志奈さんは、どこまでもおっとりした天然な人だったのだが、何かが違う。
「あ、あの。志奈さん?」
「柚鈴ちゃんのお友達の心配事を解決しに行きましょうか」
状況が分からなくなりそうで、声をかけた柚鈴に。
志奈さんは「問題ない」とでも言わんばかりに柔らかく笑ってみせた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
光のもとで2
葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、
新たな気持ちで新学期を迎える。
好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。
少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。
それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。
この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。
何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい――
(10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる