拝啓、お姉さまへ

一華

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第一章 4月

お姉さま、事件です ★5★

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話を聞いた遥先輩は、なんとも言えない表情で肩を竦めた。
「それで、あなた帰ってきたの?」
薫は気まずそうに顔を歪めて、軽く頷いた。
「有沢部長と前田先輩、どちらとペアになっても、解決する段階でもないし。その気もないから、逃げました。あの場にいて出来ることが思いつかなかったもので」

遥先輩は少し黙ってから、薫の顔をみると安心させるように、ふふっと笑った。
「私は中々好ましく感じるけど。確かに問題は解決していないけれど、なりたくないのにその場しのぎにペアになってもねぇ」
そう言って意見を問うように凛子先輩に目線をずらす。
凛子先輩は苦笑してみせた。
「そうね。そこで距離を取れる勇気は、私にもないだろうから尊敬に値する気がするわ」
「そんな偉いもんでもないですが」
薫は疲れたようにため息をついた。
「女性に泣かれるのは苦手なんですよね。そこまで思い詰めるような話だとも思ってなかったんで」
そういって薫は物憂げにテーブルで頬杖をついた。
助言者メンター制度って、なんか怖いですね」
思わず柚鈴が言うと、幸はその意見には納得いかないという風に唸った。
「助言者制度が怖いわけじゃないと思うんだよ。本来は先輩に一対一で相談に乗ってもらったり、教えてもらったりする制度だもの。なんていうか結局はペアの2人が一緒に成長しましょうってことでしょう」
何を言い出すのかと、凛子先輩や遥先輩まで幸を見る。
「幸さんは、今回のことどう思っているということ?」
「私はただ、前田先輩が今スランプなんだったら、有沢部長はとことん付き合って2人で問題を解決した方が良かったと思うんです。それが助言者メンター制度ですよね?」
幸の真っ直ぐな目は迷いがなく、遥先輩も柔らかく微笑んだ。

幸の言うことには一理ある、と思った。
助言者メンターは指導する側だが、指導することでの学びも当然あるだろう。
一緒に成長しましょう、とは言い方は幼く聞こえるかもしれないが、そもそもの目的に合ってるような気がする。
有沢部長の立場からすれば、悩みに悩んだ結論だったのかもしれないが、その判断が正解だったか。
そういう風に考えることも必要なのかもしれない。

凛子先輩も一度頷いてみせた。
「陸上部の部長も、ペアの2年生も大分行き詰まっているみたいね。とすると明日には、顧問の先生が出てきて仲裁でしょうね」
「陸上部の顧問の先生?」
「そう。そして2年生の前田さんと薫さんがペアになるように指導されるんじゃないかしら?」
「なるほど。あり得るわね」
遥先輩は頷いた。
先生が出てくると、余計薫の主張は通らなくなるということらしい。

「それで?どうするの」
「一先ず、少しでも有沢さんと前田さんの2人が冷静になる時間が欲しいわね。そして、少なくともその期間は、陸上部顧問の先生にも指導はせず、見守ってもらわないと」
凛子先輩の提案は問題解決をしようというもので、遥先輩も当然のようにそれを受け止めている。

な、なんか頼もしい。
一年生のトラブルのために、こんなにも上級生が真面目に考えてくれることが、なんだか嬉しくも思えた。
そして。
志奈さんも、こんな上級生だったのかな?
そんなことを考えが一瞬よぎって、今はそんなことを考えている場合じゃないと頭を振った。
そう、今は薫の話だ。
志奈さんなんて今はどうでもいい。
と言い聞かせる。
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