59 / 282
第一章 4月
お姉さまが欲しかったもの ★9★
しおりを挟む
「対外的にはそう思われているようですけど、違います」
それからたっぷりと間を持たせて、今田さんを諭すように言った。
「緋村さんが生徒会に非協力的だったのは、今田先輩が生徒会役員をしていて、その為に助言者の役割をきちんと果たさなかったからです」
「ええ!?」
何を言われてるか分からない、というような声に、志奈さんは穏やかな表情のままつづける。
「緋村さんは、随分今田先輩を慕っていました。だから、今田先輩が生徒会役員になって、陸上部部長の役割を疎かにしている間、文句一つ言わなかったはずです。緋村さんが部長になった後、後輩育成に専念していたのは、今田先輩を反面教師にしていたからに他ありません」
「は、反面教師って」
「助言者に指導されなかった陸上部員が、後輩に熱心に教えるなんて、その助言者を模範にしてるなんて考える方がおかしいでしょう?」
そう言うと、今田さんは目を丸くして傷付いたような顔をしてから、考え込むように黙った。
「今田先輩。例えば卒業式くらい、緋村さんに何か言われませんでしたか?」
志奈さんが問いかけると、今田さんははっとして顔を上げた。
「まさか、あれってそういう意味だったの?」
小さく呟いた様子には心当たりがあるらしい。
その様子には志奈さんは呆れたようにため息をついた。
「緋村さんは、そもそも生徒会に良い思い出がないんです。大切なペアを取られた象徴ですから。だから、今田先輩卒業後の生徒会には非協力的だったし、今の生徒会長が今回の件を頼んでも了承してくれなかったはずです」
志奈さんは淡々と言うと、今田先輩は腕を組んで不満そうな顔をした。
「そんな話、楓に聞かなきゃ、本当にそうか分からないわ」
「そうでしょう?」
志奈さんは頷いて同意した。
それからにっこりと笑う。
「ですから、今田先輩には緋村さんと今回お話して頂きたいんです。私の言ったことが本当かどうか確かめてください」
「あー」
実に嫌そうになるほどね、と今田さんは目を泳がせる。
「つまりお嬢の思った通りなら、私が楓の気持ちを聞きだして整理することで、結果的に楓が高等部の陸上部に口を出すことになるってわけね」
「はい。その通りです」
志奈さんがにっこり笑う。
その自信ありの表情が今田さんは納得いかないんだろう。
腕を組んで、不満そうな表情を崩さない。
「どうしても承諾頂けなければ、仕方ありません。緋村さんには好かれていないと評されている私が高等部に出向きましょう。それで有沢さんと話をして、今回の件での過ちが何か教え諭して、話を納めます」
志奈さんが言えば、それまで黙っていた真美子さんが冷静な眼差しを今田さんに向けた。
「ですが、後輩を育成することに情熱を注いでいた緋村さんのことですから、本当は今回の件、自分で有沢さんの指導をしたいでしょうね」
「緋村さん、可哀想に。本当は自分が指導したいだろうに、助言者が原因で生徒会にわだかまりがあるばかりに、素直にそれができないなんて」
志奈さんが憐れむような声で、ため息まじりに畳みかける。
今田さんはむうっと唸って顔色を変えた。
それから大きくため息をつく。
「もう。分かったわよ、一度楓と話してみるわよ。でも、楓が本当に私のせいで生徒会にわだかまりがあるならともかく、そうじゃなかったら知らないわよ。私は楓に陸上部に関わるようになんて指導しないからね」
「それに関しては間違いないので問題ありません」
志奈さんは自信たっぷりに言うと、真美子さんも合わせたように小さく微笑んだ。
二人の息の合った様子に、今田さんはしばらく沈黙してから、にいっと笑った。
「もう、お嬢ったら相変わらず良い性格してるわ。真美子も揃って、嫌な感じ。私は練習があるから、もう行くからね。終わったら速攻、楓に会いに行かなきゃならないんだから」
切り替えたように、大きく口を開けて笑ってから、今田さんはこちらに背を向けた。
「はい。頑張ってくださいね」
「おうよ。今度の大会、応援しに来なさいよ」
大きく手を振って、今田さんは走って行った。
それからたっぷりと間を持たせて、今田さんを諭すように言った。
「緋村さんが生徒会に非協力的だったのは、今田先輩が生徒会役員をしていて、その為に助言者の役割をきちんと果たさなかったからです」
「ええ!?」
何を言われてるか分からない、というような声に、志奈さんは穏やかな表情のままつづける。
「緋村さんは、随分今田先輩を慕っていました。だから、今田先輩が生徒会役員になって、陸上部部長の役割を疎かにしている間、文句一つ言わなかったはずです。緋村さんが部長になった後、後輩育成に専念していたのは、今田先輩を反面教師にしていたからに他ありません」
「は、反面教師って」
「助言者に指導されなかった陸上部員が、後輩に熱心に教えるなんて、その助言者を模範にしてるなんて考える方がおかしいでしょう?」
そう言うと、今田さんは目を丸くして傷付いたような顔をしてから、考え込むように黙った。
「今田先輩。例えば卒業式くらい、緋村さんに何か言われませんでしたか?」
志奈さんが問いかけると、今田さんははっとして顔を上げた。
「まさか、あれってそういう意味だったの?」
小さく呟いた様子には心当たりがあるらしい。
その様子には志奈さんは呆れたようにため息をついた。
「緋村さんは、そもそも生徒会に良い思い出がないんです。大切なペアを取られた象徴ですから。だから、今田先輩卒業後の生徒会には非協力的だったし、今の生徒会長が今回の件を頼んでも了承してくれなかったはずです」
志奈さんは淡々と言うと、今田先輩は腕を組んで不満そうな顔をした。
「そんな話、楓に聞かなきゃ、本当にそうか分からないわ」
「そうでしょう?」
志奈さんは頷いて同意した。
それからにっこりと笑う。
「ですから、今田先輩には緋村さんと今回お話して頂きたいんです。私の言ったことが本当かどうか確かめてください」
「あー」
実に嫌そうになるほどね、と今田さんは目を泳がせる。
「つまりお嬢の思った通りなら、私が楓の気持ちを聞きだして整理することで、結果的に楓が高等部の陸上部に口を出すことになるってわけね」
「はい。その通りです」
志奈さんがにっこり笑う。
その自信ありの表情が今田さんは納得いかないんだろう。
腕を組んで、不満そうな表情を崩さない。
「どうしても承諾頂けなければ、仕方ありません。緋村さんには好かれていないと評されている私が高等部に出向きましょう。それで有沢さんと話をして、今回の件での過ちが何か教え諭して、話を納めます」
志奈さんが言えば、それまで黙っていた真美子さんが冷静な眼差しを今田さんに向けた。
「ですが、後輩を育成することに情熱を注いでいた緋村さんのことですから、本当は今回の件、自分で有沢さんの指導をしたいでしょうね」
「緋村さん、可哀想に。本当は自分が指導したいだろうに、助言者が原因で生徒会にわだかまりがあるばかりに、素直にそれができないなんて」
志奈さんが憐れむような声で、ため息まじりに畳みかける。
今田さんはむうっと唸って顔色を変えた。
それから大きくため息をつく。
「もう。分かったわよ、一度楓と話してみるわよ。でも、楓が本当に私のせいで生徒会にわだかまりがあるならともかく、そうじゃなかったら知らないわよ。私は楓に陸上部に関わるようになんて指導しないからね」
「それに関しては間違いないので問題ありません」
志奈さんは自信たっぷりに言うと、真美子さんも合わせたように小さく微笑んだ。
二人の息の合った様子に、今田さんはしばらく沈黙してから、にいっと笑った。
「もう、お嬢ったら相変わらず良い性格してるわ。真美子も揃って、嫌な感じ。私は練習があるから、もう行くからね。終わったら速攻、楓に会いに行かなきゃならないんだから」
切り替えたように、大きく口を開けて笑ってから、今田さんはこちらに背を向けた。
「はい。頑張ってくださいね」
「おうよ。今度の大会、応援しに来なさいよ」
大きく手を振って、今田さんは走って行った。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
光のもとで2
葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、
新たな気持ちで新学期を迎える。
好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。
少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。
それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。
この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。
何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい――
(10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる