拝啓、お姉さまへ

一華

文字の大きさ
85 / 282
第二章 5月‐序

オトウサンとのお出かけ ★1★

しおりを挟む
食事が終わると、オトウサンが真っ直ぐ柚鈴の方を見てにっこり笑った。
「僕はこれから、柚鈴ちゃんとのドライブを希望します」
「え?」
きょとんとした顔で見上げると、志奈さんも驚いたように目を見開いた。
その表情に、オトウサンは一息先に言葉を発した。
「志奈はこれから片付けするだろうし、夕飯の準備だってするんだろう?だったら、暇同士ということで柚鈴ちゃんとドライブに行ってこようと思うんだよ」
愛想の良く説明するオトウサンに、志奈さんは不満そうに眉をひそめた。
少し遅れて、柚鈴も状況を理解する。
ドライブにオトウサンは柚鈴と二人だけで行こうと提案しているのだ、と。
突然の提案に驚いてしまうのだが、その驚きもつかの間、オトウサンと志奈さんの二人で攻防を初めてしまった。
「だからってお父様と2人でなんて」
「親子の時間を連休中に欲しいと言うのは我儘かな?」
「時と状況によっては我儘だと思うわ」
「ええ、酷いなあ。2人で姉妹らしいことをする時にはどうせ僕が放っておかれることになるんだし、少しくらいは良いじゃないか」
「少しくらいって。この場合、気にしないといけないのは別のことじゃないかしら?」
「どういうことだい?」
志奈さんはおっとりとした話し方はいつも通りながら、嫌そうな空気をにじませている。
オトウサンはどこまでも穏やかだけど、志奈さんの雰囲気に何を言い出すのかと柚鈴も内心ハラハラせずにはいられなかった。

「考えてもみて?お父様。ついこの間まで他人だった中年男性と女子高生をドライブなんて、柚鈴ちゃんが可哀想じゃない!」
ええ!?
そ、そんな言い方しちゃうんですか?
不安が的中してしまった、以上の発言に、柚鈴は絶句してしまう。
「可哀想って志奈。お前、そこまで言うのか」
「事実、そうじゃない。何か間違っているかしら」
父親には遠慮がない、ということなのか。呆れたととも憤りとも見える表情の志奈さんに対してなんとも情けない顔を見せたオトウサン。
何か間違っているかと問われれば、確かにオトウサンに反論の余地はない。
つい最近まで他人だったのも事実であれば、残念ながらオトウサンが中年男性の部類に入るのも事実である。
しかしこれには柚鈴の方がオトウサンが可哀想な気持ちになってくる。

ついこの間まで他人だった女子高生に、姉妹として仲良くしようとしている「志奈さん」という女子大生だっているというのに。
いや、「志奈さん」はただの女子大生ではなく、高校時代は「全校生徒のお姉さま」と呼ばれ、どこに出しても理想的な可愛い女子大生だから許されるのだろうか?
そう考えると、この姉妹ごっこに関して一般的に問題に思われるのは、「平凡な女子校生でありながら、急に出来た美人なお姉さんを両手を上げて歓迎しない」柚鈴の方なのだろうか。
いやいやいや。
バカな考えが浮かんで、今は本題が違うと首を振った。
そう、本題はオトウサンの方だ。

そもそもオトウサンは、決して娘に毛嫌いされるようなタイプの男性ではない。
父親という存在が、柚鈴には今までの人生では、ほとんどあり得たことがないので、その点に関しては偉そうなことは言えないのだが。
清潔感もあり、いつも穏やかで笑顔を浮かべて、笑いジワが刻まれた表情は、男性としても魅力があると言われることの方が多いはずだ。
もちろん格好いいと感じるかは好みの分かれ目ではあるが、少なくとも嫌われるタイプでないことは確かだ。
体型はどちらかと言えば痩せ型。身長も男性としては平均的な高さで、スーツを着こなして、澄ました表情を作れれば(作るのかどうかは疑問もあるけど)見た目は頼りになる上司タイプにもなるだろう。実際気も効く方で、話し方や行動もスマートな方だ。とにかく中年男性などという言い方をされることはほとんど無いと思う。

このオトウサンに、その言い様は少々可哀想すぎる。
その気持ちがとうとう、柚鈴に二人の話を割って入らせた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...