拝啓、お姉さまへ

一華

文字の大きさ
84 / 282
第二章 5月‐序

GWに待っているもの ★9★

しおりを挟む
「すみません。聞こえてなくて」
「良いのよ。真美子も勉強しだすとそんな感じだもの」
志奈さんは特別なことでもないという感じで、柚鈴を手招いた。
「ご飯出来たから一緒に食べましょう」
「あ、ありがとうございます」
そう言えばお腹がすいた気がして、柚鈴は頷いた。
しかし、真美子さんのような人と一緒にされるのは、申し訳ない気がする。

「今日のお昼は親子丼とお味噌汁です」
志奈さんが満面の笑みで笑った。
食事をするための部屋に移動し、ダイビングテーブルに進むと良い香りがした。
並べられた料理がとても見栄えがよくて、驚いてしまう。
「志奈さん、料理上手なんですね」
「料理は全然したことなかったわ。今日のは本当に特訓したの」
そう志奈さんが力を込めて言うと、オトウサンは何かを思い出したかのように小さく笑った。
志奈さんはその様子に肩を竦めた。
「この家は、昔から通いの家政婦さんが料理を作ってくれてたし、高等部に入ったら寮でしょう?休みに帰っても、家政婦さんが心配だからって料理を作り置きしてくれて、包丁なんて授業くらいしか握ったことなかったわ。この春のお父様たちの結婚がきっかけで、家でも料理をすることになったでしょう?全然出来ないんだって改めて気づいたのよ。だからわたしの当番の日は友達に教えてもらいながら作ってるの」
それでも、と志奈さんは付け足す。
「一番作ってくれてるのは、お母さん。その次がお父様なの。それくらいまだまだ役になってないのよ。今日は柚鈴ちゃんが帰ってくる日だから、色々頑張ったんだから」

その言葉に志奈さんの妙な気迫が伝わってくる。
更にふと疑問が湧いた。
「あ、あの。もしかして、私がご飯を作る日って」
「そんな日はないわ」
はっきりと志奈さんが言い切った。
「そもそも柚鈴ちゃんは、料理は得意だって聞いているもの。もう少しくらいは姉として、私が自信がつくまではここは譲ることが出来ないの」

その言葉に柚鈴は多少、眩暈を覚えた。
まさかここで『姉の意地』とも取れる言葉が出てくるとは思ってもいなかった。
この様子だと志奈さんは手伝わせてくれなさそうだ。オトウサンはどうだろうか?
休みの日に当番制にするなら、是非仲間に入れてほしいのだが。
最後の希望はお母さんではあるが、それこそ志奈さんが料理の勉強のために手伝いそうな気がする。

まさか、休みに家でやることがないのではないかと多少不安を覚えつつ。
せっかくの昼食が冷めないうちにと手を合わせた。
「頂きます」
志奈さんとオトウサンも、その様子にそれぞれ合掌して食事を始める。
料理経験が全くないというのは嘘ではないらしく、勉強している間に随分時間もたっていたので多少卵の焼きむらを感じるが、良い出汁の香りがした。
麺つゆじゃないんだ、とすぐ分かる舌触り。
親子丼が、麺つゆで簡単に出来ることは、お母さんが教えてくれたので知っている。夏の素麺が終わる頃、残った麺つゆでの定番メニュー。

だが、志奈さんが作ってくれた親子丼は、きちんと出汁をとった味。お母さんの出汁の味とも違うことがすぐ分かった。
「美味しいです。手間が掛かった味ですね」
そういうとオトウサンはなるほどねぇと笑って柚鈴を見た。
「百合さんのいう通り、柚鈴ちゃんは舌が敏感なんだね」
「え?」
「手を抜くと、嫌がりはしないけどすぐ分かるって言ってたよ」
楽しそうな笑顔に、柚鈴の方が慌ててしまう。
お、お母さん、何の話をしているんだ。
少々居心地が悪くなって、誤魔化すように志奈さんの方を見た。
「料理が好きな友達が誰かいるんですか?真美子さんのイメージではないですけど」
「そうね。確かに真美子じゃないわ。真美子は料理も出来なくはないみたいだけど、そもそも食に興味がないみたい。今回は、同級生の料理好きな子に指導を頂いたの。その子の家で、何回も作らせて貰ったから、大分上手になったわ」
「何回も?それ大丈夫なんですか?」
「その点は抜かりないわ。その子の家は料亭で、親子丼はその日の賄いだったんだもの」
つまり、下手くそな仕上がり分の親子丼も、誰か料理人の口に入ったという事だろうか。
それは迷惑な、と思ったが、志奈さんの麗しい笑顔に少し考える。

料理人の方が男性ばかりなら、意外と喜ばれたのかもしれない。

浮かんだ考えに、我ながらどうかとも思う。
これは確認するのが怖いのでやめておく。うん、知らない方が却っていい。
とにかく親子丼は回数こなしただけにとても美味しく、志奈さんの手作りお昼ご飯をしっかりと堪能させてもらった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。 卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。 理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。 …と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。 全二話で完結します、予約投稿済み

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

処理中です...