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第二章 5月‐序
オトウサンとのお出かけ ★7★
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「百合さんとこの人なんかいいなと思ったのは、本当に百合さんが『お母さん』だったからなんだよね」
「え?」
「僕が結婚する人は、志奈のお母さんになれる人だから。結婚しようと思ったのは、百合さんが何よりもまずは『柚鈴ちゃんのお母さん』でいる女性だったからだよ」
「お母さんであることが、好きになった理由なんですか?」
「うん。百合さんはいつでも、女性である前に社会人で、その前に母親だった」
オトウサンは目を細めて、小さく笑った。どこか冷たく。
「やっぱりほとんどの女性はね、例え母であっても恋をしたときは、母親であるよりもまずは女性としてありたいと思うみたいで。僕が志奈の母になる再婚相手として紹介されたのは、そういう人ばかりだった。まあ結婚する以上、好き同士がした方が良いわけだし、女性が女性としてまず愛されたいというのは、正解なんだけど。僕にとってはそれは限りなく不正解だったんだみたいで、全然結婚したいと思わなかった」
その冷めた表情に、オトウサンの本音が詰まっているみたいで、柚鈴は言葉が見つからない。
だけど、そんな柚鈴の表情に気づくと、オトウサンは目を瞬かせてから、にっこり笑った。
それはいつもどおりで、釣られて柚鈴も小さく笑みを浮かべた。
改めて言葉を探して。
オトウサンはお母さんと結婚したわけだから、お母さんの何が『正解』だったんだろうと不思議に感じて口を開いた。
「お母さんとは仕事で会ったんですよね」
「そうだね」
「結婚相手としてじゃなくて会ったのが良かったということですか?」
オトウサンは、柚鈴の聞きたいことが分かったように頷いた。
「うん。確かにそれが良かったのかもしれないね。ちょっとしたきっかけで仲良く話すようになったけど、別に女性を捨てたように仕事をしてるわけでもなく、母親として娘のことを一番に考えているのが伝わってきて、ああ、こんな人もいるんだなって思ったのが最初のきっかけだったよ」
「……」
「こういう人と結婚するなら結婚したいなって、思ってね。それで興味を持って女性として見てみたら好きになった」
「そ、そうですか。あ、あのもういいです」
相槌を打ってから、これ以上の言葉が出ないようにしっかり止めた。
幸せそうに笑うオトウサンの姿は、惚気ているとしか言えない。
これ以上はもう聞かなくても良い気がして。というか、娘としては聞きたくない気もして、何かまだ言いたそうなオトウサンの表情に念押しのように首を振った。
本当は同時にどこかほっとしたような気持ちにもなっていた。
お母さんがこの人は好きで、私がいても好きなんだということが、どこかで柚鈴が持っていた不安を解消してくれたから。
「そういえばこの近くに美味しい洋菓子やさんがあるんだ。志奈にお土産でも買ってかえろうか」
続きを拒否されたオトウサンはパッと話を変え立ち上がって、車に戻るように歩き出した。
その様子に油断してついていき、助手席のドアを開けてくれたオトウサンに完全に油断して、乗り込むと覗き込むようににっこり笑われる。
「僕は柚鈴ちゃんには感謝してるよ」
「は?」
「うん。百合さんと結婚したいと思ったのは、柚鈴ちゃんが今まで守ってくれたから素敵なお母さんだったとも思うから」
油断していたところに、そんなことを言われて固まってしまう。
不意打ちだ。
不意打ちで、オトウサンは言いたいことを言い出した。
ズルイ。
「今は娘として好きというよりも、そう言った感謝の方が強いかな。まあ、その辺は少しずつ親子になろうね」
「……」
正直すぎる言葉だと思った。
柚鈴だって急に家族として愛おしいと言われても嘘だろうと思う。
だからオトウサンの言葉は嫌じゃなかった。
ただ、聞かされてズルイと思っただけ。
その感情の意味を聞かれても、今は言えそうになかった。
「あの、もうその話はお腹いっぱいです」
「そう?」
「はい。なんか良いお話で、なるほどとか良かったなという気持ちですけど。聞いていてどうも居た堪れないくらいお腹いっぱいな気持ちです。もう、別の話に。あ、志奈さんの話に戻りましょう」
そうだったね、とオトウサンは笑った。
ちょっと柚鈴の反応に楽しそうにしてる様にも見えたが、これは気のせいと思うことにする。
それこそタチが悪い。
オトウサンは助手席のドアを閉めてから、運転席に乗り込んでシートベルトを閉めると、エンジンを掛け、駐車場から道路へと進みながら、再度口を開いた。
「え?」
「僕が結婚する人は、志奈のお母さんになれる人だから。結婚しようと思ったのは、百合さんが何よりもまずは『柚鈴ちゃんのお母さん』でいる女性だったからだよ」
「お母さんであることが、好きになった理由なんですか?」
「うん。百合さんはいつでも、女性である前に社会人で、その前に母親だった」
オトウサンは目を細めて、小さく笑った。どこか冷たく。
「やっぱりほとんどの女性はね、例え母であっても恋をしたときは、母親であるよりもまずは女性としてありたいと思うみたいで。僕が志奈の母になる再婚相手として紹介されたのは、そういう人ばかりだった。まあ結婚する以上、好き同士がした方が良いわけだし、女性が女性としてまず愛されたいというのは、正解なんだけど。僕にとってはそれは限りなく不正解だったんだみたいで、全然結婚したいと思わなかった」
その冷めた表情に、オトウサンの本音が詰まっているみたいで、柚鈴は言葉が見つからない。
だけど、そんな柚鈴の表情に気づくと、オトウサンは目を瞬かせてから、にっこり笑った。
それはいつもどおりで、釣られて柚鈴も小さく笑みを浮かべた。
改めて言葉を探して。
オトウサンはお母さんと結婚したわけだから、お母さんの何が『正解』だったんだろうと不思議に感じて口を開いた。
「お母さんとは仕事で会ったんですよね」
「そうだね」
「結婚相手としてじゃなくて会ったのが良かったということですか?」
オトウサンは、柚鈴の聞きたいことが分かったように頷いた。
「うん。確かにそれが良かったのかもしれないね。ちょっとしたきっかけで仲良く話すようになったけど、別に女性を捨てたように仕事をしてるわけでもなく、母親として娘のことを一番に考えているのが伝わってきて、ああ、こんな人もいるんだなって思ったのが最初のきっかけだったよ」
「……」
「こういう人と結婚するなら結婚したいなって、思ってね。それで興味を持って女性として見てみたら好きになった」
「そ、そうですか。あ、あのもういいです」
相槌を打ってから、これ以上の言葉が出ないようにしっかり止めた。
幸せそうに笑うオトウサンの姿は、惚気ているとしか言えない。
これ以上はもう聞かなくても良い気がして。というか、娘としては聞きたくない気もして、何かまだ言いたそうなオトウサンの表情に念押しのように首を振った。
本当は同時にどこかほっとしたような気持ちにもなっていた。
お母さんがこの人は好きで、私がいても好きなんだということが、どこかで柚鈴が持っていた不安を解消してくれたから。
「そういえばこの近くに美味しい洋菓子やさんがあるんだ。志奈にお土産でも買ってかえろうか」
続きを拒否されたオトウサンはパッと話を変え立ち上がって、車に戻るように歩き出した。
その様子に油断してついていき、助手席のドアを開けてくれたオトウサンに完全に油断して、乗り込むと覗き込むようににっこり笑われる。
「僕は柚鈴ちゃんには感謝してるよ」
「は?」
「うん。百合さんと結婚したいと思ったのは、柚鈴ちゃんが今まで守ってくれたから素敵なお母さんだったとも思うから」
油断していたところに、そんなことを言われて固まってしまう。
不意打ちだ。
不意打ちで、オトウサンは言いたいことを言い出した。
ズルイ。
「今は娘として好きというよりも、そう言った感謝の方が強いかな。まあ、その辺は少しずつ親子になろうね」
「……」
正直すぎる言葉だと思った。
柚鈴だって急に家族として愛おしいと言われても嘘だろうと思う。
だからオトウサンの言葉は嫌じゃなかった。
ただ、聞かされてズルイと思っただけ。
その感情の意味を聞かれても、今は言えそうになかった。
「あの、もうその話はお腹いっぱいです」
「そう?」
「はい。なんか良いお話で、なるほどとか良かったなという気持ちですけど。聞いていてどうも居た堪れないくらいお腹いっぱいな気持ちです。もう、別の話に。あ、志奈さんの話に戻りましょう」
そうだったね、とオトウサンは笑った。
ちょっと柚鈴の反応に楽しそうにしてる様にも見えたが、これは気のせいと思うことにする。
それこそタチが悪い。
オトウサンは助手席のドアを閉めてから、運転席に乗り込んでシートベルトを閉めると、エンジンを掛け、駐車場から道路へと進みながら、再度口を開いた。
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