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第三章 5月‐結
お姉さまの細やかな企み 1
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常葉学園大学部。
敷地内の学食の隣には、テラスレストランもある。
平日のランチタイムと休日の夜には、音楽科の生徒がローテーションで演奏することでも知られていて混雑するが、ティータイム時には静かな場所になる。
その時間帯に、小鳥遊志奈はお気に入りのハーブティーを頼んで、本を開いていた。
いつもであれば友人や知人が見つけて近寄るが、今は読書を楽しんでいるのだろうと思われ、誰も声をかけない。
静かな時間だ。
だが、よく見れば、その視線が字面を追っておらず、どこか宙を見つめていることが分かるだろう。
ぼんやりと考えことをしているのだ。
たまたま通りかかった笹原真美子は、その姿に気付いて一瞬そのまま行ってしまおうかと思ってから、立ち止まった。
少しばかり考えてからため息をつく。
ここ最近の志奈の様子から、それが読書をしているのではないということは、観察してみなくても分かる。
理由も分かっているのだから、正直気にしなければならない問題があるとも思わなかった。
会話による新しい展開など、物事にそうそうあるわけはずもない。
そもそも話せばスッキリする、などというエネルギーの循環のための行為は真美子はあまり好きではない。
自分の感情くらい自分でコントロールしろ、という程度の感想しかなく、そんな自分が今、おそらくは友人の類である小鳥遊志奈の傍によって何かできるとも思えなかった。
思えないのではあるが。
立ち止まってしまった事実がここにあるのは、やはり気になるから、なのだろう。
『情けは人の為ならず』
思い浮かんだ言葉に真美子は言い訳を探すことにした。
そう、全ての行動は自分に返ってくるのだ。
この言葉の意味を最近では良く理解できてきた。
立ち去るということを選びたくないという気持ちが今、ここにある。
素直な考え方でないのは百も承知だが。
自分の為なら、仕方ない。
それぐらいの感情でなければ、小鳥遊志奈の為に笹原真美子が動くことは難しい。我ながら些か残念だけれど。
とにかく自分に言い訳をしつつ、真美子は仕方なしにテラスに足を踏み入れた。
そのまま黙って、志奈と真向いの椅子に座ると、ウエイトレスが注文を聞きにくる。
「あら、真美子」
すぐに気づいて、きょとんとした顔でこちらを見た志奈に挨拶もせず、アイスティーを注文。
それから志奈の開いていた本を見た。
どういう基準で選んだのか、絵本。
これはそれなりに理由があったのだろうか?正直謎だが、残念ながら他の人が見れば、それなりに『志奈さん流石』と思うらしいので世の中謎だらけだ。
真美子が冷たく見える目線を本に注いでいることに気付いたのか、志奈はふふっと笑って本を閉じた。
「絵本なら、ゆっくり眺めていてもいいかと思って」
「そういうものなの?」
「だって絵を見るための本でしょう?」
何か不思議かしら?と言った様子で首を傾げた志奈に、そういうものなのかと渋々、真美子は納得した。
アイスティーが来たので一口飲むと、澄んだ味が口の中に広がる。
僅かだが笑みが浮かんだ真美子を、志奈はクスリと笑って見つめた。
「なに?」
思わず癖のように、真美子から理由を問いただす言葉がでる。志奈は小首を傾げた。
「え?」
「今、笑ったでしょう?」
「あら、私が笑っているのはいつも通りでしょう?」
「…まあ、確かに」
真美子が認めると志奈はふふっと笑った。
いつだったか、この友人にそれを指摘したことがあった。
いつまでもその時の事を覚えている志奈にも、その時の迂闊すぎた自分にも、多少文句を言いたい気持ちになる。だが、今はここに座った本題に触れた。
敷地内の学食の隣には、テラスレストランもある。
平日のランチタイムと休日の夜には、音楽科の生徒がローテーションで演奏することでも知られていて混雑するが、ティータイム時には静かな場所になる。
その時間帯に、小鳥遊志奈はお気に入りのハーブティーを頼んで、本を開いていた。
いつもであれば友人や知人が見つけて近寄るが、今は読書を楽しんでいるのだろうと思われ、誰も声をかけない。
静かな時間だ。
だが、よく見れば、その視線が字面を追っておらず、どこか宙を見つめていることが分かるだろう。
ぼんやりと考えことをしているのだ。
たまたま通りかかった笹原真美子は、その姿に気付いて一瞬そのまま行ってしまおうかと思ってから、立ち止まった。
少しばかり考えてからため息をつく。
ここ最近の志奈の様子から、それが読書をしているのではないということは、観察してみなくても分かる。
理由も分かっているのだから、正直気にしなければならない問題があるとも思わなかった。
会話による新しい展開など、物事にそうそうあるわけはずもない。
そもそも話せばスッキリする、などというエネルギーの循環のための行為は真美子はあまり好きではない。
自分の感情くらい自分でコントロールしろ、という程度の感想しかなく、そんな自分が今、おそらくは友人の類である小鳥遊志奈の傍によって何かできるとも思えなかった。
思えないのではあるが。
立ち止まってしまった事実がここにあるのは、やはり気になるから、なのだろう。
『情けは人の為ならず』
思い浮かんだ言葉に真美子は言い訳を探すことにした。
そう、全ての行動は自分に返ってくるのだ。
この言葉の意味を最近では良く理解できてきた。
立ち去るということを選びたくないという気持ちが今、ここにある。
素直な考え方でないのは百も承知だが。
自分の為なら、仕方ない。
それぐらいの感情でなければ、小鳥遊志奈の為に笹原真美子が動くことは難しい。我ながら些か残念だけれど。
とにかく自分に言い訳をしつつ、真美子は仕方なしにテラスに足を踏み入れた。
そのまま黙って、志奈と真向いの椅子に座ると、ウエイトレスが注文を聞きにくる。
「あら、真美子」
すぐに気づいて、きょとんとした顔でこちらを見た志奈に挨拶もせず、アイスティーを注文。
それから志奈の開いていた本を見た。
どういう基準で選んだのか、絵本。
これはそれなりに理由があったのだろうか?正直謎だが、残念ながら他の人が見れば、それなりに『志奈さん流石』と思うらしいので世の中謎だらけだ。
真美子が冷たく見える目線を本に注いでいることに気付いたのか、志奈はふふっと笑って本を閉じた。
「絵本なら、ゆっくり眺めていてもいいかと思って」
「そういうものなの?」
「だって絵を見るための本でしょう?」
何か不思議かしら?と言った様子で首を傾げた志奈に、そういうものなのかと渋々、真美子は納得した。
アイスティーが来たので一口飲むと、澄んだ味が口の中に広がる。
僅かだが笑みが浮かんだ真美子を、志奈はクスリと笑って見つめた。
「なに?」
思わず癖のように、真美子から理由を問いただす言葉がでる。志奈は小首を傾げた。
「え?」
「今、笑ったでしょう?」
「あら、私が笑っているのはいつも通りでしょう?」
「…まあ、確かに」
真美子が認めると志奈はふふっと笑った。
いつだったか、この友人にそれを指摘したことがあった。
いつまでもその時の事を覚えている志奈にも、その時の迂闊すぎた自分にも、多少文句を言いたい気持ちになる。だが、今はここに座った本題に触れた。
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