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第三章 5月‐結
お姉さまの細やかな企み 2
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「高等部が気になるんでしょう?」
「あら」
切り出した真美子に、志奈は大げさに驚いて見せた。
「気にしているのは真美子の方じゃないの?」
そう言われてみれば、それも事実である。
昨年まで高校生活の間は、生徒会業務で年間通して慌ただしかった。だが大学に進学した今は、勉学だけに専念していればいいのだ。
3年間、その行事毎にスケジュール管理しつつ生活を送っていたのだから、空いてしまった体と脳みそは、余計なことを勝手に気にしてしまう。
「そうね。否定はしないわ」
「でしょう」
そういうと、志奈は再度、絵本をペラリとめくって、その絵を眺めた。
「でも、志奈も気にしているでしょう?」
「そうね」
今度は否定しない。
ゴールデンウィーク明けにポツリと『柚鈴ちゃん、助言者のペアを持たないって言ってくれたの』と、どこか困ったような表情で言ったのは印象的だった。
本人がそれを望んでいたくせに、いざそう言われてみて色々心配事が出て来たのだろう。
常葉学園は『優秀な生徒がペアを作らない』ということに、あまり容易い場所ではない。
というよりも、二人こそペア作りを推進し、そういった状況を作り上げて卒業した生徒会メンバーだった。
志奈の義理の妹である、小鳥遊柚鈴は東組の限られた特待生。
恰好の人材が放っておかれることはないだろう。
そしてそのことが現状、小鳥遊志奈の憂鬱に繋がるのだ。
傍にいれば、志奈のことだ。どうとでも出来るだろうが、今は傍にいれない。
同じ常葉学園といえども、大学部と高等部では全く違う空間。
歯がゆく感じてもどうしようもない。
「ふふ…」
何故か急に笑い出した志奈に、真美子は奇妙に思い首を傾げた。
「なによ」
「ふふ。だって。真美子が神妙な顔してるんだもん」
「……」
茶化されてしまえば、真美子も面白くはない。そもそも誰のために神妙な顔をしているというのだ。
冷めた眼差しを友人に向ければ、志奈はにっこり笑った。
「今まで、真美子の様子を見て不思議だったのよね、私」
「何のことよ」
「そんなに高等部が気になるなら、どうして高等部まで押しかけないのかって」
「……」
自分が志奈を思って考えていたことと、全く逆のことを言いだされ、真美子は眉を顰めた。
その冷たい目線に志奈は、ますます楽しそうにする。
「だって、あなたがそうすることで誰が迷惑だと思うのかしら?却って喜びそうなものでしょう?」
真美子が高等部に押し掛けることで、却って喜ばれるはずなどない。
そう思いつつ、その言葉に反論してみても、水掛け論で終わることが分かっている。
一先ず反論は飲み込んで、真美子はなるべく冷静に言葉を選んだ。
「それでは、誰も成長しないわ」
「あら?成長しなくてはならない理由は何なのかしら」
首を傾げて、真美子からすると不可解にしか思えないほど大胆で不敵な空気を纏った志奈は笑った。
「そもそも成長というものは、周りに与えられるものではなく、本人が自分の意思でするものよ。本人にその意思があるのなら、問題なくどんな環境でも成長すると思わない?甘えられる環境だから成長出来ないなんて、結局言い訳じゃないかしら?日当たり良好の場所で成長出来ない植物があるとすれば、それはそもそもそういう種類なんではない?」
「…志奈、あなた」
実に堂々と自分を正当化するものだと思う。
それっぽくいっている分、言い返すのが面倒になりそうな理屈だ。だが志奈本人も言葉遊びのようなものだと分かっていて本気でもない。
つまり屁理屈の類であるが、志奈はこういった論じ方が実に上手いのだ。
もしかしたらそうなのかもしれない、と思わず思ってしまうような流れを作る。
下手に突っこんでも、煙に巻かれるのが分かっているので苦々しい。
憮然とした顔を真美子がすると、志奈は肩を竦めて絵本を閉じた。
「あら」
切り出した真美子に、志奈は大げさに驚いて見せた。
「気にしているのは真美子の方じゃないの?」
そう言われてみれば、それも事実である。
昨年まで高校生活の間は、生徒会業務で年間通して慌ただしかった。だが大学に進学した今は、勉学だけに専念していればいいのだ。
3年間、その行事毎にスケジュール管理しつつ生活を送っていたのだから、空いてしまった体と脳みそは、余計なことを勝手に気にしてしまう。
「そうね。否定はしないわ」
「でしょう」
そういうと、志奈は再度、絵本をペラリとめくって、その絵を眺めた。
「でも、志奈も気にしているでしょう?」
「そうね」
今度は否定しない。
ゴールデンウィーク明けにポツリと『柚鈴ちゃん、助言者のペアを持たないって言ってくれたの』と、どこか困ったような表情で言ったのは印象的だった。
本人がそれを望んでいたくせに、いざそう言われてみて色々心配事が出て来たのだろう。
常葉学園は『優秀な生徒がペアを作らない』ということに、あまり容易い場所ではない。
というよりも、二人こそペア作りを推進し、そういった状況を作り上げて卒業した生徒会メンバーだった。
志奈の義理の妹である、小鳥遊柚鈴は東組の限られた特待生。
恰好の人材が放っておかれることはないだろう。
そしてそのことが現状、小鳥遊志奈の憂鬱に繋がるのだ。
傍にいれば、志奈のことだ。どうとでも出来るだろうが、今は傍にいれない。
同じ常葉学園といえども、大学部と高等部では全く違う空間。
歯がゆく感じてもどうしようもない。
「ふふ…」
何故か急に笑い出した志奈に、真美子は奇妙に思い首を傾げた。
「なによ」
「ふふ。だって。真美子が神妙な顔してるんだもん」
「……」
茶化されてしまえば、真美子も面白くはない。そもそも誰のために神妙な顔をしているというのだ。
冷めた眼差しを友人に向ければ、志奈はにっこり笑った。
「今まで、真美子の様子を見て不思議だったのよね、私」
「何のことよ」
「そんなに高等部が気になるなら、どうして高等部まで押しかけないのかって」
「……」
自分が志奈を思って考えていたことと、全く逆のことを言いだされ、真美子は眉を顰めた。
その冷たい目線に志奈は、ますます楽しそうにする。
「だって、あなたがそうすることで誰が迷惑だと思うのかしら?却って喜びそうなものでしょう?」
真美子が高等部に押し掛けることで、却って喜ばれるはずなどない。
そう思いつつ、その言葉に反論してみても、水掛け論で終わることが分かっている。
一先ず反論は飲み込んで、真美子はなるべく冷静に言葉を選んだ。
「それでは、誰も成長しないわ」
「あら?成長しなくてはならない理由は何なのかしら」
首を傾げて、真美子からすると不可解にしか思えないほど大胆で不敵な空気を纏った志奈は笑った。
「そもそも成長というものは、周りに与えられるものではなく、本人が自分の意思でするものよ。本人にその意思があるのなら、問題なくどんな環境でも成長すると思わない?甘えられる環境だから成長出来ないなんて、結局言い訳じゃないかしら?日当たり良好の場所で成長出来ない植物があるとすれば、それはそもそもそういう種類なんではない?」
「…志奈、あなた」
実に堂々と自分を正当化するものだと思う。
それっぽくいっている分、言い返すのが面倒になりそうな理屈だ。だが志奈本人も言葉遊びのようなものだと分かっていて本気でもない。
つまり屁理屈の類であるが、志奈はこういった論じ方が実に上手いのだ。
もしかしたらそうなのかもしれない、と思わず思ってしまうような流れを作る。
下手に突っこんでも、煙に巻かれるのが分かっているので苦々しい。
憮然とした顔を真美子がすると、志奈は肩を竦めて絵本を閉じた。
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