拝啓、お姉さまへ

一華

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第三章 5月‐結

お姉さま、茶道部のお誘いを受けました 1

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中間考査最終日の最後の試験時間が終了して。
なんとかやり遂げた柚鈴は、静かに息を吐いた。
とりあえず解答用紙は埋めることが出来たし、時間も有効に使えた気がする。
見直しの際にひっかけ問題に気付いた時には焦らされたが、どうにか解きなおしたし、もう終わってしまった以上、あとは祈るしかない気がする。
選択が間違っていませんように、と。

回収された答案用紙を、担当の先生が持って行ってしまえば、後は帰宅するだけだ。
ふと幸の様子を見れば、疲れたように机に突っ伏していた。

「幸ちゃん、どうだった?」
「やれることはやったよぉ。もう、頭空っぽだよ~」
頭だけ持ち上げて見上げる幸は、生まれたての子犬のようで、一瞬よしよしと頭を撫でたくなってしまう。だが幸はあまり頭を撫でられるのは好きではないらしい。
薫がたまに我慢しかねて頭を撫でるのを、本気で嫌がってる様子だ。我慢することにした。

帰ろうか、と声を掛けたようとした所で、クラスメイトから「小鳥遊さん」と声が掛かった。
声の方を向けば、教室の出入り口の方。しかもそこに立っていたのは東郷先輩であれば、柚鈴とすれば顔が引き攣るが仕方ない。
こんなにも素早くお呼び出しとは。
2年生の教室と1年生の教室はそこそこ距離があるにも関わらず、試験が終わってすぐここに向かってきたのだろう。しっかり意思を決めていなければ出来ないことだ。

事情を知らない幸は、柚鈴と出入り口の東郷先輩を見て、少し考えてから力なく項垂れた。
「柚鈴ちゃん。私ここで待ってるから、お話終わったら一緒に帰ろうね」

そのまま机に突っ伏してしまい、フェードアウト状態。東郷先輩と柚鈴の問題事を何も話してなかったので、それが最善と思ったらしい。

私も連れていってほしい…
一瞬バカなことを考えながら、上級生をいつまでも待たせるわけにもいかず、柚鈴は東郷先輩の元へ向かった。

「こんにちは、小鳥遊さん。中間考査も終わったから来たわ」
一部の隙もないような、堂々とした態度で言った東郷先輩の態度から、恐らく試験はいつも通りにはこなせたのだろう。もしかしたらいつもより出来は良かったのかもしれないと思える位だ。

「今日は改めて、小鳥遊さんのお時間を頂きたくてきたの」
私が了解しなくても、今この時間は頂かれておりますが…

逃げたい気持ちでそう思った。
今日は近くにセコンド代わりのような遥先輩もいない。どうにか躱せるだろうか多少不安になりつつ、柚鈴は話を切り出した。

「あの、以前にもお話した通り、私ペアを作る気はあまりなくて…」
「小鳥遊さん、それは上級生に対して失礼じゃないかしら?」
きっぱりと東郷先輩は出鼻の断り文句を跳ね除けて、強気な態度で来た。
「失礼…?」
「あなたは助言者メンター制度を活用したこともないのでしょう?それではその制度がどんなものかも分からない。多少なりとも時間を掛けて試して、それで作る気がないというのならまだしも、頭からペアを作らないと決めてるなんて。そこに大した理由があるとは思えないわ。何か先入観や思い込み、勘違いがあるとしか思えないわ」

……
……

え~と……

あまりにもきっぱりと言い切った東郷先輩は自信満々だ。
その態度こそ、柚鈴にとっては理解できないものなのだが、こんなにも強気で一方的な態度に触れたことがなかった柚鈴は絶句してしまう。
志奈さんも、大概たいがい我儘じゃないかと思っていたが、どこかふんわりした雰囲気で「私はこうしてほしい」という自分の欲求と理解した上での発言だったからか(それも問題なのだけど)柚鈴は冷静になることで言い返すくらいは出来ていた。

しかしこれではあまりにも一方的。
柚鈴は柚鈴の事情でペアを作りたくないのだが、東郷先輩は柚鈴にペア作りに向かい合うべきで、向い合わないのが失礼だと言っているのだ。
そんなバカなとは思うが、あまりに堂々と言われてしまうと、もしかして私、失礼なの?と思えてしまう。
多分、そんなことはない筈、なのだけど。
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