138 / 282
第三章 5月‐結
お姉さま、茶道部のお誘いを受けました 7
しおりを挟む
薫は機嫌の良いまま、幸と戯れるのを止めない。
「幸さあ、オムライス食べるなら、汚れてもいい服装の方が良いんじゃないの?」
「な、なんで?私、こぼしたりしないよ」
「いや、万が一のこともあるでしょうが」
動揺する幸に、もっともらしく薫は付け足した。
「せっかくのデートなのに、失態おかして、助言者候補がいなくなりましたじゃあ、可哀想だしね」
「そんなへましません!というか、別にその人は助言者候補じゃないもん」
「そうなの?」
柚鈴が聞くと、幸はあっさり頷いた。
「GWの時に、偶然学校で会って飴をあげたの。そのお礼だって」
「ふ、ふうん」
飴のお礼に、オムライス…?
幸の説明が予想外で、柚鈴は分かるような分からないような返事を返す。薫の方は残念だったなと、肩を叩いてる。
幸は二人の反応に首を傾げた。
「残念がってないよ。助言者になる相手じゃなくなって仲良く出来れば嬉しいもの」
にっこりと笑う顔が可愛らしくて、柚鈴も釣られて笑みが漏れた。
「可愛いと思うよ、ワンピース」
「本当?」
「うん。オムライス美味しかったら教えてね?というか後日、一緒に連れていってね」
「うん。勿論だよ」
人懐こい幸が、親しい上級生が出来るのは当然だろうと思っていたが、食べ物効果なのか、よっぽど良い先輩なのか、この機嫌の良さ。
自分が抱えている東郷先輩の問題を思うと、羨ましいを超えて清々しい。
楽しんできてね、と心から思わずにはいられなかった。
「柚鈴は?そっちの関係はどう?」
「そっちって助言者?」
「そそ」
ニヤリと笑った薫の姿は、大変だった自分のようなことになっていないかと揶揄する様子で、柚鈴は思わず口を尖らせた。
「薫のその楽しそうな顔…」
「お、その顔は何かあったね?」
「なんかやな感じ」
今度はこちらが拗ねた顔をする番のようだ。
おもわず目線を逸らす。そこに幸が加わった。
「柚鈴ちゃんはね、今日二人の先輩に声を掛けられていたんだよ」
その言葉に。
思わず柚鈴は疲れ切ったため息を漏らす。薫は悟ったような顔で頷いた。
「ちゃんと相談には乗ってやるから、そんな顔をしなさんな」
「薫は楽しそうだから、言いたくないなあ…」
「私が楽しそうだろうがなんだろうが、柚鈴の苦労が変わるわけじゃないんだから、気にしなくて大丈夫」
「苦労が変わらなくても、気分が変わります!」
もうっと言い返すと、あははと笑って、薫は立ち上がってきて柚鈴の頭をガシガシと撫でた。
勿論、髪型はくしゃくしゃになり、あっという間に幸の二の舞だ。
髪を押さえて、薫の手から逃れると、今度は幸と二人でベットに腰かけて、さあ話をしてくださいと言わんばかりに待たれていた。
なんか大型犬と小型犬みたい…
ちゃんと話す出すの待っているよという、行儀の良さを見せるところが尚更だ。
こんなときに、二人で気が合うのだから本当に迷惑だ。
柚鈴は小さくため息をついて、椅子に座りなおした。
どうせ凛子先輩に相談するつもりだったのだ。
今更話す相手が増えても、志奈さんのことを知っている二人なら良いかと思いなおすことにした。
GWに、助言者を作らないと決めたことから初めて、2年東組の東郷先輩の申し込みから3年の茶道部の誘いまで合わせて話すと、薫は口笛を吹いた。
「もてるねえ」
「も、モテてるのかな?」
その言葉には頷き難い。
志奈さんは、柚鈴自身がどうこうというより、義理の妹になったことで柚鈴に熱心なんだし。
東郷先輩は妙な思い込みで動いている気がする。
茶道部の部長、相原先輩に関しては、そもそも茶会の出欠確認に来ただけだし、それだって別に柚鈴を評価してというわけでもなさそうだ。
身に余る、といえる事態ばかりで、余るだけに全く状況についていけてない気がする。
幸がその人柄で、食事に誘われていることの方がよっぽど「もてる」状況に思える。
しかも本人も楽しんでいるので羨ましい、の一言だ。
身の丈にあった出来事というのがやっぱり一番、ということだろうか?
「幸さあ、オムライス食べるなら、汚れてもいい服装の方が良いんじゃないの?」
「な、なんで?私、こぼしたりしないよ」
「いや、万が一のこともあるでしょうが」
動揺する幸に、もっともらしく薫は付け足した。
「せっかくのデートなのに、失態おかして、助言者候補がいなくなりましたじゃあ、可哀想だしね」
「そんなへましません!というか、別にその人は助言者候補じゃないもん」
「そうなの?」
柚鈴が聞くと、幸はあっさり頷いた。
「GWの時に、偶然学校で会って飴をあげたの。そのお礼だって」
「ふ、ふうん」
飴のお礼に、オムライス…?
幸の説明が予想外で、柚鈴は分かるような分からないような返事を返す。薫の方は残念だったなと、肩を叩いてる。
幸は二人の反応に首を傾げた。
「残念がってないよ。助言者になる相手じゃなくなって仲良く出来れば嬉しいもの」
にっこりと笑う顔が可愛らしくて、柚鈴も釣られて笑みが漏れた。
「可愛いと思うよ、ワンピース」
「本当?」
「うん。オムライス美味しかったら教えてね?というか後日、一緒に連れていってね」
「うん。勿論だよ」
人懐こい幸が、親しい上級生が出来るのは当然だろうと思っていたが、食べ物効果なのか、よっぽど良い先輩なのか、この機嫌の良さ。
自分が抱えている東郷先輩の問題を思うと、羨ましいを超えて清々しい。
楽しんできてね、と心から思わずにはいられなかった。
「柚鈴は?そっちの関係はどう?」
「そっちって助言者?」
「そそ」
ニヤリと笑った薫の姿は、大変だった自分のようなことになっていないかと揶揄する様子で、柚鈴は思わず口を尖らせた。
「薫のその楽しそうな顔…」
「お、その顔は何かあったね?」
「なんかやな感じ」
今度はこちらが拗ねた顔をする番のようだ。
おもわず目線を逸らす。そこに幸が加わった。
「柚鈴ちゃんはね、今日二人の先輩に声を掛けられていたんだよ」
その言葉に。
思わず柚鈴は疲れ切ったため息を漏らす。薫は悟ったような顔で頷いた。
「ちゃんと相談には乗ってやるから、そんな顔をしなさんな」
「薫は楽しそうだから、言いたくないなあ…」
「私が楽しそうだろうがなんだろうが、柚鈴の苦労が変わるわけじゃないんだから、気にしなくて大丈夫」
「苦労が変わらなくても、気分が変わります!」
もうっと言い返すと、あははと笑って、薫は立ち上がってきて柚鈴の頭をガシガシと撫でた。
勿論、髪型はくしゃくしゃになり、あっという間に幸の二の舞だ。
髪を押さえて、薫の手から逃れると、今度は幸と二人でベットに腰かけて、さあ話をしてくださいと言わんばかりに待たれていた。
なんか大型犬と小型犬みたい…
ちゃんと話す出すの待っているよという、行儀の良さを見せるところが尚更だ。
こんなときに、二人で気が合うのだから本当に迷惑だ。
柚鈴は小さくため息をついて、椅子に座りなおした。
どうせ凛子先輩に相談するつもりだったのだ。
今更話す相手が増えても、志奈さんのことを知っている二人なら良いかと思いなおすことにした。
GWに、助言者を作らないと決めたことから初めて、2年東組の東郷先輩の申し込みから3年の茶道部の誘いまで合わせて話すと、薫は口笛を吹いた。
「もてるねえ」
「も、モテてるのかな?」
その言葉には頷き難い。
志奈さんは、柚鈴自身がどうこうというより、義理の妹になったことで柚鈴に熱心なんだし。
東郷先輩は妙な思い込みで動いている気がする。
茶道部の部長、相原先輩に関しては、そもそも茶会の出欠確認に来ただけだし、それだって別に柚鈴を評価してというわけでもなさそうだ。
身に余る、といえる事態ばかりで、余るだけに全く状況についていけてない気がする。
幸がその人柄で、食事に誘われていることの方がよっぽど「もてる」状況に思える。
しかも本人も楽しんでいるので羨ましい、の一言だ。
身の丈にあった出来事というのがやっぱり一番、ということだろうか?
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
光のもとで2
葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、
新たな気持ちで新学期を迎える。
好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。
少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。
それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。
この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。
何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい――
(10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる