拝啓、お姉さまへ

一華

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第三章 5月‐結

お姉さま、デートの時間です 7 ★幸の時間

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どうしても一つ確認、というか確かめておきたいことがあったのだ。
「ちょっと伺いたいんですけど…」
「はい?なんでしょうか?」
改まった幸に、不思議そうな反応が返った。

「どうして、沢城先輩はいつも後輩の私に、そんなに丁寧な言葉使いなのでしょうか?」
「え?」
「前から気になってたんです」
「ああ、これは特に意味はないんですけど、クセのようなものでして。気になりますか?」
沢城先輩の困ったような表情に、幸は改めて少し考えてみた。
癖、ということは誰にでもそうということなんだろうか?
もしそういうことなら先輩らしい言葉使いをお願いするということは、難しいのかもしれない。
別段、幸からするとその言葉使いが困るわけではないのだ。
後輩なのに、先輩にこんなに丁寧に話しかけてもらっていいのかな、とちょっと気にはなるという程度。
そう思い至って口を開いた。

「気にはなります、けど。そのほうが楽ならそのままで大丈夫です。もちろんこれから話していて、自然と砕けた話し方になっても全然かまいません」
「ふふ。ありがとうございます。他の方にも言われるのですが、中々クセが抜けなくて。勿論努力はしますけど、気長に待っていただけると助かります」
にこにこと笑って。それから思いついたように手を叩いた。

「では、こうしましょう。この言葉使いは急には辞めれませんけど、春野さんが気にされているのなら、私も努力はしたいと思います。ですから、まずは呼び方から変えても良いでしょうか?」
「呼び方ですか?」
「はい。春野さんとお呼びするのを変えれば、ちょっと感じも変わるのではないかと。例えば…幸さんと呼んでもいいですか?」
「ああ、なるほど」
幸は沢城先輩の言う言葉に納得した。
確かに、呼び方が変われば、同じように丁寧な話し方をされても、なんだか親しい間柄になったような気がする。

だけど、幸さん、か。
もちろん、寮の先輩方もそう呼んでいるのだけど、それでいいのだろうか?
もう一声、とすべきか否か。
念のため尋ねてみることにする。
「さん付けで良いのですか?」

沢城先輩はその言葉に悩むように黙り込んだ。
それからこちらの反応を伺うように言葉を足した。
「では…幸ちゃん、でもよろしいでしょうか?」
「もちろんです」
幸はにっこり笑った。
聞いてみるものだ。それだとぐっと親近感がわく。
そう思いつつ、幸はお返しの提案をした。
「じゃあ、私も悠先輩と呼んでも良いでしょうか?」
「……」
沢城先輩はにっこりと笑顔のまま。

沈黙した。

……
……
そのまましばらく時間がたち、意味が分からず一緒に沈黙していた幸が先に根を上げた。

「あの、この間はなんでしょうか?」
「待っていたら、もしかしたら他の案もでるかもしれないと思いまして」
思いのほか、あっけらかんとした返事が返って来て、幸は顔を引きつらせた。

他の案待ち、とは如何に?
それから恐る恐る聞いてみる。
「悠先輩、具体的にどんなご不満があるのでしょうか?」
「いえ。不満なんてとんでもないです。でも、もしかしたら、の可能性も一応試しておこうかと思いまして」
沢城先輩は変わらない笑顔を見せる。
そしてまた沈黙。

「…」
「…」

……
……
…………
…………

埒があかない。もう一声、されているということなのだろうか。

「…ええと」
他の案などない、というのもアリなんだろうけど。
これはチャレンジした方がいいのだろうか。
幸は仕方なく答えを探した。

「先輩にどうかとも思うのですが、そうですね…。例えば悠さん、とかでしょうか?」
「いいですね。それでお願いします」
恐る恐る提案してみた言葉の撤回のチャンスもないほどに。
聞いた瞬間に沢城先輩は、その雰囲気からはあり得ないほどに即座に頷いた。

これはやっぱり、確信犯ではなかろうか。
思わず疑念の気持ちが湧いてしまう。

だが嬉しそうな表情を隠さない沢城悠先輩に、幸は、ま、いいかと思うことにした。

この後のデザートに、信じられないくらい美味しそうなプリン・ア・ラ・モードが来てしまえば。
歓声を上げ夢中になり、もはやそれ以外のことは忘れてしまう。

輝くツヤのあるプリン本体と、カラメルの上品な美しさ。
全てを包み込むような優しい生クリームの包容力と、可愛らしいフルーツの彩り。
絶妙なバランスを持った完成されたデザートの前で、他に気になることなどあるはずはない。
今日はこのデザートに出会えたことで特別な日になってしまったのだから、全てがささやかなこと。

花より団子、ではないけれど。
本心から幸はそう思ってしまったのだった。
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