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第三章 5月‐結
お姉さま、デートの時間です 8
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その試験休みの日。
幸が美味しいオムライスを堪能している時に、柚鈴は常葉学園大学部近くのカフェに来ていた。
高い天井。程よく日差しが注ぎ込む店内。ぶら下げられた大きなウィンが3つ、ゆったりとした動きで回り店内の空気は循環している。
南国をイメージしている店内には沢山の観葉植物が飾ってある。そんな窓際の一席。
当然ながら目の前にいるのは、にこにこ機嫌の良い志奈さんだ。
「話なら電話でも良かったんですけど…」
唸るように呟いた柚鈴は、ここに呼び出した張本人の志奈に苦情を申し立てる気分だ。
凛子先輩と話した後、色々報告をしようと思って電話した柚鈴に、それ以上は決して話を続けさせないという勢いで誘い出されたのを思い出せば、笑顔にはなれない。
「柚鈴ちゃん、明日は休みじゃない?休みよね?じゃあ会ってお話出来るのよね?」
歓喜、という言葉は、今あの瞬間の志奈さんにあるのではないかと思うくらいの喜びように、お断りがどうしても出来なかった。そうしてここまで来たわけだから、せめて苦情くらいは言わせてほしいのだ。
もちろんそんな柚鈴の態度を気にするような相手ではない。
「だって、柚鈴ちゃんはせっかくの試験休みでしょう?しかも私と話したかったんでしょう?そんなことを言われたら電話でなんかじゃ我慢できないわ。ランチくらい一緒にしたいじゃない」
「…確かに言いましたけど」
出来ればそのまま電話で済まさせてほしかったです、と心の中で呟いた。
妙に姉妹として仲良くしたがることには、だいぶ慣れてきたとは思うのだけど。やっぱり志奈さんは、間近で見ると美人すぎて、全く落ち着かない。
本人は無自覚だけど、やたらキラキラしていて、一緒にいるのが心底辛い。
例えば水族館で泳ぐ魚のように。もしくは美術館で見る絵画の様に。
どこか遠目で観賞用にさせてもらってこそ、価値を見出せる気がする。特に柚鈴のように、その他大勢で生きていくタイプには。
なんてことを口にしてしまったら、とびきりの不満顔をされるのは分かっているので言わないけれど、まだまだ柚鈴の本音はそんな感じだ。
向い席の志奈さんは、そんな心情などお構いなしに、るんるんとした様子で、どこまでもマイペースに楽しそうだ。
「柚鈴ちゃん、何食べる?ここはランチプレートのパンケーキも美味しいのよ」
メニュー表を可愛らしい仕草で開いて、人差し指をくるくる動かしつつ考えている姿は絵になっている。
その仕草に、うっかり柚鈴でさえ可愛いと微笑ましく思えてしまうのだから恐ろしいものだ。
緩みかけた頬にハッとして、慌てて意識をメニューに移した。
「甘くなさそうなので」
「そうよね。甘くないメニューと言ったらどれかしら」
話に乗って来た柚鈴を嬉しそうに見つめた視線には気づかず。
しばらく二人でメニューを眺めた。
店内の雰囲気に合った、南国を意識しているメニューはどれも美味しそうで、しかも可愛く盛り付けされている。
料理の写真を見るだけでも、思わず楽しい気持ちになってしまう。
時間をかけて柚鈴はランチメニューからロコモコを選び、志奈さんはサンドイッチセットを頼んだ。
注文してしまうと、改めて志奈さんは目を細めて優しく促した。
「それで、お話があるんだったわよね」
「はい」
実は電話でも本題には触れたはずなのだが、志奈さんはほとんど聞いていなかったように思う。
というか、今日この日の誘い出しに夢中だったみたいで。
だから今、どうぞ話して、といわんばかりの好奇心に満ちた視線には、多少は呆れた気持ちを抱きつつ柚鈴は口を開いた。
「あの、ご報告なんですけど。茶道部のお茶会に参加することにしました」
幸が美味しいオムライスを堪能している時に、柚鈴は常葉学園大学部近くのカフェに来ていた。
高い天井。程よく日差しが注ぎ込む店内。ぶら下げられた大きなウィンが3つ、ゆったりとした動きで回り店内の空気は循環している。
南国をイメージしている店内には沢山の観葉植物が飾ってある。そんな窓際の一席。
当然ながら目の前にいるのは、にこにこ機嫌の良い志奈さんだ。
「話なら電話でも良かったんですけど…」
唸るように呟いた柚鈴は、ここに呼び出した張本人の志奈に苦情を申し立てる気分だ。
凛子先輩と話した後、色々報告をしようと思って電話した柚鈴に、それ以上は決して話を続けさせないという勢いで誘い出されたのを思い出せば、笑顔にはなれない。
「柚鈴ちゃん、明日は休みじゃない?休みよね?じゃあ会ってお話出来るのよね?」
歓喜、という言葉は、今あの瞬間の志奈さんにあるのではないかと思うくらいの喜びように、お断りがどうしても出来なかった。そうしてここまで来たわけだから、せめて苦情くらいは言わせてほしいのだ。
もちろんそんな柚鈴の態度を気にするような相手ではない。
「だって、柚鈴ちゃんはせっかくの試験休みでしょう?しかも私と話したかったんでしょう?そんなことを言われたら電話でなんかじゃ我慢できないわ。ランチくらい一緒にしたいじゃない」
「…確かに言いましたけど」
出来ればそのまま電話で済まさせてほしかったです、と心の中で呟いた。
妙に姉妹として仲良くしたがることには、だいぶ慣れてきたとは思うのだけど。やっぱり志奈さんは、間近で見ると美人すぎて、全く落ち着かない。
本人は無自覚だけど、やたらキラキラしていて、一緒にいるのが心底辛い。
例えば水族館で泳ぐ魚のように。もしくは美術館で見る絵画の様に。
どこか遠目で観賞用にさせてもらってこそ、価値を見出せる気がする。特に柚鈴のように、その他大勢で生きていくタイプには。
なんてことを口にしてしまったら、とびきりの不満顔をされるのは分かっているので言わないけれど、まだまだ柚鈴の本音はそんな感じだ。
向い席の志奈さんは、そんな心情などお構いなしに、るんるんとした様子で、どこまでもマイペースに楽しそうだ。
「柚鈴ちゃん、何食べる?ここはランチプレートのパンケーキも美味しいのよ」
メニュー表を可愛らしい仕草で開いて、人差し指をくるくる動かしつつ考えている姿は絵になっている。
その仕草に、うっかり柚鈴でさえ可愛いと微笑ましく思えてしまうのだから恐ろしいものだ。
緩みかけた頬にハッとして、慌てて意識をメニューに移した。
「甘くなさそうなので」
「そうよね。甘くないメニューと言ったらどれかしら」
話に乗って来た柚鈴を嬉しそうに見つめた視線には気づかず。
しばらく二人でメニューを眺めた。
店内の雰囲気に合った、南国を意識しているメニューはどれも美味しそうで、しかも可愛く盛り付けされている。
料理の写真を見るだけでも、思わず楽しい気持ちになってしまう。
時間をかけて柚鈴はランチメニューからロコモコを選び、志奈さんはサンドイッチセットを頼んだ。
注文してしまうと、改めて志奈さんは目を細めて優しく促した。
「それで、お話があるんだったわよね」
「はい」
実は電話でも本題には触れたはずなのだが、志奈さんはほとんど聞いていなかったように思う。
というか、今日この日の誘い出しに夢中だったみたいで。
だから今、どうぞ話して、といわんばかりの好奇心に満ちた視線には、多少は呆れた気持ちを抱きつつ柚鈴は口を開いた。
「あの、ご報告なんですけど。茶道部のお茶会に参加することにしました」
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