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第三章 5月‐結
お姉さま、デートの時間です 13
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その様子はまるで、今年の体育祭の競技に、借り物競争が入っているなどと思っていなかったようでもある。
何を考えているんだろう。
疑問に思いつつ、柚鈴は目の前の美味しそうな食事の誘惑に負けた。
まだ食べていないメインがどでんと存在感を持って待っているのだ。
とうとうロコモコを大きめに一口分、スプーンにとって口に運ぶ。
そうしてとうとう口にしたランチは。
お腹が減っていた、ということを思い出すような料理ではないか。
うん、これは美味しい!
『美味しいご飯の前には、大概の問題は小さなことだよ!』と食事をしていると幸が幸せそうに言ったりするけど、その気持ちもちょっと分かる気がする。
感動をそこまで表に出すことのない柚鈴だって、舌で味わって、そのまま胃袋まで美味しさを感じるようだ。
続けて2口目を食べて、美味しさを堪能する。
うん、これは美味しい。
いつもはそっけない柚鈴が、こうして美味しいものを食べている時には年齢相応に反応が良く、表情がほぐれる。
それを知っていた志奈さんは、考えるのを一度中断して嬉しそうな表情で柚鈴見つめた。
瞬間。柚鈴が気配を察知して顔を上げると、慌てて高いところに目線を逸らして、誤魔化すように口を開いた。
「えっと。つまり体育祭では今年もペア推進目的の借り物競争があるのね?」
要領を得ない言葉だ。
柚鈴は不思議に思って、眉をひそめた。
「去年もあったんですよね?」
「ええ。去年は確かにあったわ。一昨年もね」
「…だから恒例の行事なんでしょう?」
志奈さんが言いたい事が分からず、柚鈴が質問を重ねると。
珍しく迷うような表情で視線を彷徨わせた。
「恒例と言うか…普通の、いろんなお題が入ってる借り物競争、ということなら多分、前々からあったんじゃないかしら」
「はあ」
「つまり、長谷川凛子が、『ペアになりたい人』がお題の借り物競争が今年もあるって言ったのよね?」
「ええ、まあ」
「そう…」
柚鈴の相槌に、志奈さんはどこか納得したように、大きなため息をついた。
どうやら考える、という作業には一段落ついたらしい。
だとしたら、是非結論を聞いておきたい。
どうやら催促しなければ口を開きそうにないので、促してみることにする。
「あの、どういうことですか?」
「まさか、今年もそのお題の借り物競争をやるなんて、思ってもいなかったの」
「はあ…」
「あのね、柚鈴ちゃん」
困ったような表情で、それでもちゃんと話そうと思ったのだろう。志奈さんは姿勢を正す。
つられて、食事の手を止めて柚鈴も姿勢を正した。
「借り物競争がそのお題を使うようになったのは、一昨年からなのよ」
「え?」
一昨年、の言葉に意味が分からずに、目を瞬かせる。
すると、次に志奈さんが言い出したのは、思いも寄らない言葉だった。
「それを言い出したのは私なの」
「……」
「だからまさか、私が卒業した後も続く競技になっているとは全く考えてなかったのよ」
この言葉には、唖然としてしまう。
どういう意味か、なんて聞くまでもないのだろう。
体育祭の面倒な競技は、目の前のこの人が考えて実行したもの。
そう、昨年の生徒会長であるこの志奈さんが、だ。
まさか卒業後に、自分の義妹の悩みや問題事がそのことで増えるとは思いもせずに。
全校生徒の注目の的となる借り物競争を作り出したと。
「志奈さんが…」
柚鈴はがっくりと力が抜けた。
この人のすることやることは、どうしてこういつもいつも、私を振り回してくれるんだろう。
そう思えてしまって。つい、合わせて愚痴も漏れる。
「どうして…そんなに面倒なことを思いついたんですか」
「そ、それは。私の頃は、助言者制度を根付かせることが、生徒会の一番の課題だったのよ。そのために4月から5月っていうのはとても重要な時期だったんだもの。…仕方ないでしょう?」
珍しく。自分のしでかしたことに、申し訳なさそうな志奈さんの表情を見ると柚鈴は少々意地悪な気持ちになってくる。
ちょっと、楽しいかもしれない、と。
心の中で小悪魔のようなものが、黒い羽根を持って生まれた気がした。
何を考えているんだろう。
疑問に思いつつ、柚鈴は目の前の美味しそうな食事の誘惑に負けた。
まだ食べていないメインがどでんと存在感を持って待っているのだ。
とうとうロコモコを大きめに一口分、スプーンにとって口に運ぶ。
そうしてとうとう口にしたランチは。
お腹が減っていた、ということを思い出すような料理ではないか。
うん、これは美味しい!
『美味しいご飯の前には、大概の問題は小さなことだよ!』と食事をしていると幸が幸せそうに言ったりするけど、その気持ちもちょっと分かる気がする。
感動をそこまで表に出すことのない柚鈴だって、舌で味わって、そのまま胃袋まで美味しさを感じるようだ。
続けて2口目を食べて、美味しさを堪能する。
うん、これは美味しい。
いつもはそっけない柚鈴が、こうして美味しいものを食べている時には年齢相応に反応が良く、表情がほぐれる。
それを知っていた志奈さんは、考えるのを一度中断して嬉しそうな表情で柚鈴見つめた。
瞬間。柚鈴が気配を察知して顔を上げると、慌てて高いところに目線を逸らして、誤魔化すように口を開いた。
「えっと。つまり体育祭では今年もペア推進目的の借り物競争があるのね?」
要領を得ない言葉だ。
柚鈴は不思議に思って、眉をひそめた。
「去年もあったんですよね?」
「ええ。去年は確かにあったわ。一昨年もね」
「…だから恒例の行事なんでしょう?」
志奈さんが言いたい事が分からず、柚鈴が質問を重ねると。
珍しく迷うような表情で視線を彷徨わせた。
「恒例と言うか…普通の、いろんなお題が入ってる借り物競争、ということなら多分、前々からあったんじゃないかしら」
「はあ」
「つまり、長谷川凛子が、『ペアになりたい人』がお題の借り物競争が今年もあるって言ったのよね?」
「ええ、まあ」
「そう…」
柚鈴の相槌に、志奈さんはどこか納得したように、大きなため息をついた。
どうやら考える、という作業には一段落ついたらしい。
だとしたら、是非結論を聞いておきたい。
どうやら催促しなければ口を開きそうにないので、促してみることにする。
「あの、どういうことですか?」
「まさか、今年もそのお題の借り物競争をやるなんて、思ってもいなかったの」
「はあ…」
「あのね、柚鈴ちゃん」
困ったような表情で、それでもちゃんと話そうと思ったのだろう。志奈さんは姿勢を正す。
つられて、食事の手を止めて柚鈴も姿勢を正した。
「借り物競争がそのお題を使うようになったのは、一昨年からなのよ」
「え?」
一昨年、の言葉に意味が分からずに、目を瞬かせる。
すると、次に志奈さんが言い出したのは、思いも寄らない言葉だった。
「それを言い出したのは私なの」
「……」
「だからまさか、私が卒業した後も続く競技になっているとは全く考えてなかったのよ」
この言葉には、唖然としてしまう。
どういう意味か、なんて聞くまでもないのだろう。
体育祭の面倒な競技は、目の前のこの人が考えて実行したもの。
そう、昨年の生徒会長であるこの志奈さんが、だ。
まさか卒業後に、自分の義妹の悩みや問題事がそのことで増えるとは思いもせずに。
全校生徒の注目の的となる借り物競争を作り出したと。
「志奈さんが…」
柚鈴はがっくりと力が抜けた。
この人のすることやることは、どうしてこういつもいつも、私を振り回してくれるんだろう。
そう思えてしまって。つい、合わせて愚痴も漏れる。
「どうして…そんなに面倒なことを思いついたんですか」
「そ、それは。私の頃は、助言者制度を根付かせることが、生徒会の一番の課題だったのよ。そのために4月から5月っていうのはとても重要な時期だったんだもの。…仕方ないでしょう?」
珍しく。自分のしでかしたことに、申し訳なさそうな志奈さんの表情を見ると柚鈴は少々意地悪な気持ちになってくる。
ちょっと、楽しいかもしれない、と。
心の中で小悪魔のようなものが、黒い羽根を持って生まれた気がした。
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