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第三章 5月‐結
お姉さま、体育祭の昼食です! 3 ~相原花蓮~
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岬紫乃舞といえば、昨年の在校生では知らない人もいないだろう、有名な料亭の一人娘だ。
そうそう腕を振るうこともないが、紫乃舞自身も料理上手という噂もある。
そしてなにより味覚が素晴らしく、調理部主催の味覚コンテストで悠々一位に輝いたこともあるのだ。
一口食べれば、料理を構成する材料が一つ残らず分かり、隠し味なんてものは存在しない味覚マスター
その肩書きがあるからこそ上から目線でのコメントに周りは喜ぶが、花蓮はそうはいかない。
本当に嫌な人!
人を読み、掌握して動かし、楽しむのだから、性質が悪いとしか言いようのない。
不機嫌が増していく花蓮に、追い打ちをかけるように紫乃舞は、目を細めてほくそ笑んだ。
「それで?花蓮は今年も『借り物競争』に出るのかい?」
「…出ませんわ」
「そうだよね。今日ここに、私はいないはずだったわけだし」
まるで花蓮の封印したい記憶をつつくような言い方だ。剣呑な雰囲気に自分が陥るのを感じた。
「紫乃舞様がいらっしゃると分かっていても、今年はもう出ませんでしたわ」
「おや、今度こそ一緒に走ってあげたかもしれないのに」
「ご冗談を」
冷え冷えとした声が漏れる。
昨年の体育祭、自分こそが茶道部次期部長として紫乃舞のメンティとなるべく、花蓮は借り物競争に参加した。
もちろん、お題として紫乃舞を捕まえ、公式の場で観念させるためだ。
誰ともペアを組まない岬紫乃舞。
しかし、その手を取るのにふさわしいのは自分である。
そう花蓮は確信していた。
『いいよ。もし、私を捕まえられたら、大人しく助言者になってあげるよ』
前もって宣戦布告した花蓮に、心底楽しそうな顔で、予想通り受けて立つ姿勢を見せたのが紫乃舞だ。もともと勝負事も嫌いじゃない性格である。先に勝負を申し込めば逃げはすまいという花蓮の予想通り。
その当日のため、花蓮は一か月も前から走り込み等の体力作りを始めた。当日のグラウンド、各テント等の配置を確認し作戦だって立てた。
基本的に競技中、選手とその標的を他の生徒が直接的な邪魔をしてはいけないルールになっている。
だから間接的に紫乃舞の退路の進路妨害をする生徒も用意して、完全勝利を目指したのだ。
そういった頭脳戦は得意なのだ。
にも関わらず。
岬紫乃舞は当日、借り物競争の直前に姿を消した。
自分の順番が来て、スタートを切り、障害を幾つかクリアした後にお題を手にするまでにその姿を探したが、見つからない。
岬紫乃舞が勝負に勝つために逃げるなんて考えられなかった。
絶対に勝つために準備をして、確信をして自信を持って勝負に挑む花蓮を真正面から受けておいて、結局勝ちを攫ってしまう。そんなやり方を好むはずだ。そんな人だと分かっていた上での作戦である。
そしてそれで負けたのであれば、花蓮も納得しないわけにはいかない。
恐らくは全校生徒の中で誰よりも、この岬紫乃舞のマイペースで突拍子もない行動に呆れつつ、理解し、そして憧れているのは、自分だと思っているから。
だからこそ、次期茶道部部長は自分がするべきで、そしてペアの座も自分が得るべきなのだ。
どうして、いないんです?
立ち尽くしてしまった花蓮の様子に気付いた生徒たちが、協力するように紫乃舞を探し出すが、誰も発見することもない。
走り出すことも出来ずに途方にくれてしまう。
受けて立つどころか相手に逃げられてしまうなんて、と悲しくなり体が冷え冷えとしてしまう。
そうしてお題を手にしたまま、動けなくなってしまったことこそ、花蓮の昨年最大の屈辱的な嫌な思い出だ。
『花蓮さん』
優しい穏やかな声が聞こえるまでは。
そうそう腕を振るうこともないが、紫乃舞自身も料理上手という噂もある。
そしてなにより味覚が素晴らしく、調理部主催の味覚コンテストで悠々一位に輝いたこともあるのだ。
一口食べれば、料理を構成する材料が一つ残らず分かり、隠し味なんてものは存在しない味覚マスター
その肩書きがあるからこそ上から目線でのコメントに周りは喜ぶが、花蓮はそうはいかない。
本当に嫌な人!
人を読み、掌握して動かし、楽しむのだから、性質が悪いとしか言いようのない。
不機嫌が増していく花蓮に、追い打ちをかけるように紫乃舞は、目を細めてほくそ笑んだ。
「それで?花蓮は今年も『借り物競争』に出るのかい?」
「…出ませんわ」
「そうだよね。今日ここに、私はいないはずだったわけだし」
まるで花蓮の封印したい記憶をつつくような言い方だ。剣呑な雰囲気に自分が陥るのを感じた。
「紫乃舞様がいらっしゃると分かっていても、今年はもう出ませんでしたわ」
「おや、今度こそ一緒に走ってあげたかもしれないのに」
「ご冗談を」
冷え冷えとした声が漏れる。
昨年の体育祭、自分こそが茶道部次期部長として紫乃舞のメンティとなるべく、花蓮は借り物競争に参加した。
もちろん、お題として紫乃舞を捕まえ、公式の場で観念させるためだ。
誰ともペアを組まない岬紫乃舞。
しかし、その手を取るのにふさわしいのは自分である。
そう花蓮は確信していた。
『いいよ。もし、私を捕まえられたら、大人しく助言者になってあげるよ』
前もって宣戦布告した花蓮に、心底楽しそうな顔で、予想通り受けて立つ姿勢を見せたのが紫乃舞だ。もともと勝負事も嫌いじゃない性格である。先に勝負を申し込めば逃げはすまいという花蓮の予想通り。
その当日のため、花蓮は一か月も前から走り込み等の体力作りを始めた。当日のグラウンド、各テント等の配置を確認し作戦だって立てた。
基本的に競技中、選手とその標的を他の生徒が直接的な邪魔をしてはいけないルールになっている。
だから間接的に紫乃舞の退路の進路妨害をする生徒も用意して、完全勝利を目指したのだ。
そういった頭脳戦は得意なのだ。
にも関わらず。
岬紫乃舞は当日、借り物競争の直前に姿を消した。
自分の順番が来て、スタートを切り、障害を幾つかクリアした後にお題を手にするまでにその姿を探したが、見つからない。
岬紫乃舞が勝負に勝つために逃げるなんて考えられなかった。
絶対に勝つために準備をして、確信をして自信を持って勝負に挑む花蓮を真正面から受けておいて、結局勝ちを攫ってしまう。そんなやり方を好むはずだ。そんな人だと分かっていた上での作戦である。
そしてそれで負けたのであれば、花蓮も納得しないわけにはいかない。
恐らくは全校生徒の中で誰よりも、この岬紫乃舞のマイペースで突拍子もない行動に呆れつつ、理解し、そして憧れているのは、自分だと思っているから。
だからこそ、次期茶道部部長は自分がするべきで、そしてペアの座も自分が得るべきなのだ。
どうして、いないんです?
立ち尽くしてしまった花蓮の様子に気付いた生徒たちが、協力するように紫乃舞を探し出すが、誰も発見することもない。
走り出すことも出来ずに途方にくれてしまう。
受けて立つどころか相手に逃げられてしまうなんて、と悲しくなり体が冷え冷えとしてしまう。
そうしてお題を手にしたまま、動けなくなってしまったことこそ、花蓮の昨年最大の屈辱的な嫌な思い出だ。
『花蓮さん』
優しい穏やかな声が聞こえるまでは。
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