拝啓、お姉さまへ

一華

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第三章 5月‐結

お姉さま、体育祭の昼食です! 8 ~長谷川凛子~

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「私には物足りないけどね。じゃあ、お邪魔します、と」
「あ、岬先輩」
そのまま笑って中に進もうとする岬先輩はを、凛子はふと思い出して呼び止めた。

テントの中は食事タイムの同窓会メンバーの為、風避けに仕切りを四方に置き、一度入ってしまえばわざわざ呼びかけるには遠慮がある。
伝えるなら、今だろう。

「小鳥遊柚鈴さんが岬先輩は探していたようですよ」
「柚鈴ちゃんが?」
興味をそそられた様子で、岬先輩は目を見開くと思案するように少し考え込んだ。
柚鈴ちゃん、と呼ぶほどに仲が良いのだろうか?と凛子は心の中で疑問を持つ。
だとしたら、柚鈴さんも大変ねと、少々同情的な気持ちだ。
柚鈴本人は岬先輩に好意的かもしれないが問題の話ではない。
特殊な人の側にいるということはそれだけで大変なのだ。凛子自身も好んでそうしたりするので思うのだ。
何を好きこのんで自ら苦労を背負い込むのかと。
同病あい憐れむという感情に近い。

そして凛子は特に岬先輩のファンでもなく、その破天荒な性格に呆れている方である。
別に嫌いなわけではないが、好意的に受け入れる生徒達の気持ちはさっぱり分からない。

美人でカリスマがあって、面白みがあるのだから、ファンが多いのは当たり前なのだが、それに騒ぐには凛子は少々地味で面白みのない思考をしているのかもしれない。
そんなことを自嘲するように考えながら言葉を足した。

「午前の競技の時と、先ほど昼食に行く前にも覗きに来ていたようです」
先ほどの話は、その時テントにいた生徒会メンバーに聞いたのだが、一応伝えた方が良いだろう。

岬先輩からは、ふうん、と相槌なのか微妙な返事を返された。
もしかして興味がないのかと様子を伺うと、その瞳が真っ直ぐに凛子を見つめた。

「柚鈴ちゃんは、借り物競争に出るんだよね?」
「よくご存じですね」
「仲良しだからさぁ」

さも本人から聞きました、と言った様子で答えてくるが、どうも信用がならない。
どんな人とでも「仲良し」と言い切ってしまえる図々しい所のある人だ。
どこで仕入れた情報なのか、きな臭いことこの上ない。

「生徒会長さん、あんたも昼食行くんでしょう?もし柚鈴ちゃんがいたら『ここに来てる』って教えてあげてよ」
「え?でも私は」
「ご機嫌取りなら、私がしとくからさ」
無理やり体を反転させられ、さあさ、と背中を押されてしまう。

少々強引ではあったが、これはお使いを頼まれたということなのだろう。
応援合戦が始まる前に昼食も確かに取らなくてならないところで、例の御仁の機嫌が悪くなりこまっていた所でもある。
凛子は生徒会メンバーとして、応援合戦前に早めに生徒会席にいなくてはならないのだ。
ぐずぐずしていると食事を食べ損ねてしまう。

だからこれは渡りに船とも言える。
代わってくれるというなら助かる。
それに岬紫乃舞であれば、代理としてまったく問題ない。
礼儀作法に煩いあの人が相手でも、老舗料理屋の一人娘として、普段はどうであれ所作や礼儀は完璧に叩き込まれ、その気になれば文句ひとつ言わせることはないだろう。
面白みもあり、退屈させることもない。
そして何より美味しいお弁当まで持参である。


そうね、そうしようかしら。
急に体育祭の疲労を感じてしまい、凛子の気持ちに急速に傾いた。
「それにほら早くしないと」
駄目だしとばかりに。紫乃舞は内緒話をするように、凛子の耳元で、何事か呟いた。
その内容に、凛子は明らかに動揺する。
目線を彷徨わせて、分かりやすい反応に、紫乃舞は面白そうに目を細めた。

「だからほら、早く行っておいで」
「…そう、ですね」

この人の言うことを聞くには少々癪な気もするけど、意地を張って食事を取り損ねては午後が持たない。
それに、言っていることが本当だと言うなら。

動揺から、期待めいたものが生まれつつ、結局凛子は申し出を受けることにした。
よろしくお願いします、と頭を下げて、小走りに食事に向かったのである。
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