拝啓、お姉さまへ

一華

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第三章 5月‐結

お姉さま、体育祭の昼食です! 7 ~長谷川凛子~

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体育部対抗リレーは、当然ながら陸上部の圧勝に終わった。
どの部でも南組を中心とした選りすぐりの選手が出場していたのだから、当然というのはおかしいのかもしれないが、しかし陸上部に限っては当然。死守しなくてはならない勝利だ。
なんせ、ここ最近は鬼OGである緋村楓が定期的に練習を見に来ているのだ。

『分かってるでしょうけど、1位以外の報告は聞くつもりがないから』
念押しのように、満面の笑みで告げられた言葉に、凍り付いた部員も少なくない。
ちなみにこの恐怖に麻痺しているのか、メンティであった有沢部長と、じゃんけんの勝利の喜びに震える前田光希、真逆でじゃんけんの敗北で打ちひしがれる高村薫はその中に入らない。

鉄の精神なのかなんなのか。
どこか平和そうな3人の様子に無言の視線が送られることになった。

何にせよ、万が一にも負けてしまっては、連帯責任のお仕置きが待っていることには間違いがない。
そんなわけで恐怖に震えた、前田光希以外のメンバーは、この日一番の会心の走りを見せた。
そうして大きくついたリードを、少々お疲れの走りである前田光希が守り抜き、一位でのゴールを決めたのである。

「なんともまあ、面白みに欠ける結果だねえ」
皮肉げに口を歪ませて、あちこち寄り道しつつ勝負を見届けた岬紫乃舞は呟いた。
つまらないものを見た、とでも言いたげで、陸上部の心なんてお構いなしである。

そして悠々と、同窓会のテントを訪ねた。
入口に生徒会長である長谷川凛子が立っていて、紫乃舞の姿を見つけると表情を変えることもなく出迎えた。

「これは今年度の生徒会長殿。どうも、ごきげんよう」
「こんにちは、岬先輩。本当にいらしたんですね」
まるで来ることは予測していたと言わんばかりの凛子の様子に、紫乃舞はにっこり笑った。
「まあ、ね」

誰から聞いてたなんていうことは、紫乃舞は口にしなくても分かっている。
野暮なことを聞くつもりにはならなかった。

「同窓会会長様が中にいらっしゃるんだろう?差し入れをお持ちしたから入っても構わないかな?」
「岬先輩の差し入れですか。それは喜ばれるでしょうね」
風呂敷に包まれた重箱に頷いて道を譲った。

毎年楽しみだと言う『体育祭弁当』は既に届けてあるが、同窓会会長である御仁は昨年よりも体育祭がつまらない、と不満を口にし始めた所である。
昨年までの、お気に入りである小鳥遊志奈さんのいた体育祭と比べられているのだ。
あの人がいるだけでご機嫌な御仁なのだから、どんなに努力しても適うこともないだろうが、そもそも凛子はアイデアが豊富な方でもない。体育祭も例年のものをほとんど使いまわしたのも事実だから、言い訳のしようもない。

しかし、ここに岬紫乃舞さんが昼食を持ってきたのは吉報にしかならない。
恐らく重箱の中身は、料理が得意とされる岬先輩の手作り。
そしておそらくは、中身は和食。

御仁は和食を好む人なので、きっと岬先輩の用意した重箱の中身に機嫌を良くするだろう。
これはありがたい。ほっとする。
思わず顔がにやけてしまう。
その様子に目ざとく気付いた紫乃舞は口元を歪ませて笑みを浮かべた。

「あんたは素直な子だね」
「…精進が足らず、申し訳ありません」
言われた言葉は、間違いなく凛子を揶揄っているのだろう。
少々所在がなくなり、凛子は頭を下げた。

「別に?可愛げがあるんじゃないの?荷が重いものを進んで背負ったり、マゾだなあとも思うけどね」
「…」

マゾ…。
言われ慣れない言葉だが、思い当たる節もある。
それだけに少々ムッとした表情を凛子が浮かべてしまうと、紫乃舞はクスクスと笑った。
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