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第三章 5月‐結
お姉さま、体育祭の昼食です! 6
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「ち、違うよ!」
「違うとすると、春野さんの好きの方程式がよく分からないのだけど」
明智さんは、?が飛び回っているような様子だ。
幸→沢城先輩が好きの理由が美味しいものを教えてくれる、だけだとは柚鈴だって思っていない。
その理由はどこか幸も分かっていないようで、困った顔をしているのを見て、柚鈴は苦笑した。
「明智さんはどうして、それが知りたいの?」
「そういうのをきちんと理解出来れば、私自身が助言者を作る助けになりそうな気がするの」
「助け?」
「どういう人とペアになればより正解なのか。ずっと考えているのだけど、良く分からなくて」
その言葉に、幸は興味深々と言った様子で口開いた。
「明智さんはどんな人がいい、とかないの?」
「あるといえばあるんだけど…」
言いよどむ明智さんに、柚鈴は不思議に思った。
「あれ?優秀な人と組みたいって前言ってなかったっけ?」
「ええ、そのつもりだったんだけど」
明智さんは物憂げにため息をついた。
「自分より優秀な人って中々難しいものね」
「…」
「…」
これには思わず、柚鈴も幸も沈黙してしまう。
…確かに学年主席の明智さんより優秀な先輩というと限られてしまうだろう。
何人いるんだろうか、そんな人。
上手い言葉が出てこない。
そう思っていると、明智さんは妙に押し黙った二人に気付いて、珍しく焦ったようだった。
「ち、違うわよ。成績の話をしているわけじゃないわ」
「え?そうなの?」
「ああ、ええと。勿論成績のことも最初は考えていたのだけど、学業については生徒会でも先輩方でも助けてもらえるし、助言者に求めなくてもいいのではないかって思えてもきて。長所を伸ばすのも良いけれど、いっそ短所に目を向けてみてはどうかと思うようになったの」
「短所?」
つまり。
明智さんは自分の短所に向き合ってくれる助言者が欲しい、と。
そういうことなのだろうか。
そう考えつくと、柚鈴は思わずう~んと唸った。
自分の短所と向き合って、それを指導してくれるに相応しい相手を探す。
なんだか難しいのも分かる気がする。
柚鈴自身の短所は、自分が素直になれなかったり、考え込んでしまう所だと思っている。
それはコンプレックスでもあるし、他人に急に指摘されても、じゃあ改善します、とすぐにはいかないだろう。
そこを敢えて頼める相手なんて、何を基準に探せばいいと言うのか。
さっぱり分からない。
そう悩みそうになっていると。
「ただ、好きな人でもいいんじゃないかな」
幸はふわりと笑って、どこか思慮深く見える瞳見せて、口を開いた。
「好きな人?」
「うん。信頼できる人。だって今すぐ作ったら2年近くお世話になることになるんでしょう?人の弱い所だけ向き合うとお互い疲れてしまったりしそうだもん。お互い元気を交換出来て、一緒に頑張れる人じゃないと私は難しいんじゃないかな、なんて思うんだ」
「…シンプルな考え方ね」
「基本と王道はシンプルなものだと思うよ!」
キラキラと目を輝かせた幸はどこか堂々としている。
明智さんは少し戸惑ったように目を伏せたが、やがて小さく頷いた。
「そうね」
その表情が少し柔らかく笑みを浮かべたように見えて、柚鈴にも笑みが浮かぶ。
探していた答えではないけれど、自分の立ち位置を思い出したんだと思う。
どこか幼い幸だけど、こういう所は少し見習いたい。
ただ、好きな人。
この人をお姉さまにしたいと思う人。
そういう相手を助言者とするのが正解だと言うのなら。
柚鈴はなんとなく答えのヒントを貰ったような気持ちになった。
そう柚鈴は、常葉学園で助言者は作らないと決めたのだ。
志奈さんと向き合って姉妹になるために。
そう改めて気づいて、借り物競争でどうすべきか、見えて来たような気がした。
「違うとすると、春野さんの好きの方程式がよく分からないのだけど」
明智さんは、?が飛び回っているような様子だ。
幸→沢城先輩が好きの理由が美味しいものを教えてくれる、だけだとは柚鈴だって思っていない。
その理由はどこか幸も分かっていないようで、困った顔をしているのを見て、柚鈴は苦笑した。
「明智さんはどうして、それが知りたいの?」
「そういうのをきちんと理解出来れば、私自身が助言者を作る助けになりそうな気がするの」
「助け?」
「どういう人とペアになればより正解なのか。ずっと考えているのだけど、良く分からなくて」
その言葉に、幸は興味深々と言った様子で口開いた。
「明智さんはどんな人がいい、とかないの?」
「あるといえばあるんだけど…」
言いよどむ明智さんに、柚鈴は不思議に思った。
「あれ?優秀な人と組みたいって前言ってなかったっけ?」
「ええ、そのつもりだったんだけど」
明智さんは物憂げにため息をついた。
「自分より優秀な人って中々難しいものね」
「…」
「…」
これには思わず、柚鈴も幸も沈黙してしまう。
…確かに学年主席の明智さんより優秀な先輩というと限られてしまうだろう。
何人いるんだろうか、そんな人。
上手い言葉が出てこない。
そう思っていると、明智さんは妙に押し黙った二人に気付いて、珍しく焦ったようだった。
「ち、違うわよ。成績の話をしているわけじゃないわ」
「え?そうなの?」
「ああ、ええと。勿論成績のことも最初は考えていたのだけど、学業については生徒会でも先輩方でも助けてもらえるし、助言者に求めなくてもいいのではないかって思えてもきて。長所を伸ばすのも良いけれど、いっそ短所に目を向けてみてはどうかと思うようになったの」
「短所?」
つまり。
明智さんは自分の短所に向き合ってくれる助言者が欲しい、と。
そういうことなのだろうか。
そう考えつくと、柚鈴は思わずう~んと唸った。
自分の短所と向き合って、それを指導してくれるに相応しい相手を探す。
なんだか難しいのも分かる気がする。
柚鈴自身の短所は、自分が素直になれなかったり、考え込んでしまう所だと思っている。
それはコンプレックスでもあるし、他人に急に指摘されても、じゃあ改善します、とすぐにはいかないだろう。
そこを敢えて頼める相手なんて、何を基準に探せばいいと言うのか。
さっぱり分からない。
そう悩みそうになっていると。
「ただ、好きな人でもいいんじゃないかな」
幸はふわりと笑って、どこか思慮深く見える瞳見せて、口を開いた。
「好きな人?」
「うん。信頼できる人。だって今すぐ作ったら2年近くお世話になることになるんでしょう?人の弱い所だけ向き合うとお互い疲れてしまったりしそうだもん。お互い元気を交換出来て、一緒に頑張れる人じゃないと私は難しいんじゃないかな、なんて思うんだ」
「…シンプルな考え方ね」
「基本と王道はシンプルなものだと思うよ!」
キラキラと目を輝かせた幸はどこか堂々としている。
明智さんは少し戸惑ったように目を伏せたが、やがて小さく頷いた。
「そうね」
その表情が少し柔らかく笑みを浮かべたように見えて、柚鈴にも笑みが浮かぶ。
探していた答えではないけれど、自分の立ち位置を思い出したんだと思う。
どこか幼い幸だけど、こういう所は少し見習いたい。
ただ、好きな人。
この人をお姉さまにしたいと思う人。
そういう相手を助言者とするのが正解だと言うのなら。
柚鈴はなんとなく答えのヒントを貰ったような気持ちになった。
そう柚鈴は、常葉学園で助言者は作らないと決めたのだ。
志奈さんと向き合って姉妹になるために。
そう改めて気づいて、借り物競争でどうすべきか、見えて来たような気がした。
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