204 / 282
第三章 5月‐結
お姉さま、体育祭の昼食です! 6
しおりを挟む
「ち、違うよ!」
「違うとすると、春野さんの好きの方程式がよく分からないのだけど」
明智さんは、?が飛び回っているような様子だ。
幸→沢城先輩が好きの理由が美味しいものを教えてくれる、だけだとは柚鈴だって思っていない。
その理由はどこか幸も分かっていないようで、困った顔をしているのを見て、柚鈴は苦笑した。
「明智さんはどうして、それが知りたいの?」
「そういうのをきちんと理解出来れば、私自身が助言者を作る助けになりそうな気がするの」
「助け?」
「どういう人とペアになればより正解なのか。ずっと考えているのだけど、良く分からなくて」
その言葉に、幸は興味深々と言った様子で口開いた。
「明智さんはどんな人がいい、とかないの?」
「あるといえばあるんだけど…」
言いよどむ明智さんに、柚鈴は不思議に思った。
「あれ?優秀な人と組みたいって前言ってなかったっけ?」
「ええ、そのつもりだったんだけど」
明智さんは物憂げにため息をついた。
「自分より優秀な人って中々難しいものね」
「…」
「…」
これには思わず、柚鈴も幸も沈黙してしまう。
…確かに学年主席の明智さんより優秀な先輩というと限られてしまうだろう。
何人いるんだろうか、そんな人。
上手い言葉が出てこない。
そう思っていると、明智さんは妙に押し黙った二人に気付いて、珍しく焦ったようだった。
「ち、違うわよ。成績の話をしているわけじゃないわ」
「え?そうなの?」
「ああ、ええと。勿論成績のことも最初は考えていたのだけど、学業については生徒会でも先輩方でも助けてもらえるし、助言者に求めなくてもいいのではないかって思えてもきて。長所を伸ばすのも良いけれど、いっそ短所に目を向けてみてはどうかと思うようになったの」
「短所?」
つまり。
明智さんは自分の短所に向き合ってくれる助言者が欲しい、と。
そういうことなのだろうか。
そう考えつくと、柚鈴は思わずう~んと唸った。
自分の短所と向き合って、それを指導してくれるに相応しい相手を探す。
なんだか難しいのも分かる気がする。
柚鈴自身の短所は、自分が素直になれなかったり、考え込んでしまう所だと思っている。
それはコンプレックスでもあるし、他人に急に指摘されても、じゃあ改善します、とすぐにはいかないだろう。
そこを敢えて頼める相手なんて、何を基準に探せばいいと言うのか。
さっぱり分からない。
そう悩みそうになっていると。
「ただ、好きな人でもいいんじゃないかな」
幸はふわりと笑って、どこか思慮深く見える瞳見せて、口を開いた。
「好きな人?」
「うん。信頼できる人。だって今すぐ作ったら2年近くお世話になることになるんでしょう?人の弱い所だけ向き合うとお互い疲れてしまったりしそうだもん。お互い元気を交換出来て、一緒に頑張れる人じゃないと私は難しいんじゃないかな、なんて思うんだ」
「…シンプルな考え方ね」
「基本と王道はシンプルなものだと思うよ!」
キラキラと目を輝かせた幸はどこか堂々としている。
明智さんは少し戸惑ったように目を伏せたが、やがて小さく頷いた。
「そうね」
その表情が少し柔らかく笑みを浮かべたように見えて、柚鈴にも笑みが浮かぶ。
探していた答えではないけれど、自分の立ち位置を思い出したんだと思う。
どこか幼い幸だけど、こういう所は少し見習いたい。
ただ、好きな人。
この人をお姉さまにしたいと思う人。
そういう相手を助言者とするのが正解だと言うのなら。
柚鈴はなんとなく答えのヒントを貰ったような気持ちになった。
そう柚鈴は、常葉学園で助言者は作らないと決めたのだ。
志奈さんと向き合って姉妹になるために。
そう改めて気づいて、借り物競争でどうすべきか、見えて来たような気がした。
「違うとすると、春野さんの好きの方程式がよく分からないのだけど」
明智さんは、?が飛び回っているような様子だ。
幸→沢城先輩が好きの理由が美味しいものを教えてくれる、だけだとは柚鈴だって思っていない。
その理由はどこか幸も分かっていないようで、困った顔をしているのを見て、柚鈴は苦笑した。
「明智さんはどうして、それが知りたいの?」
「そういうのをきちんと理解出来れば、私自身が助言者を作る助けになりそうな気がするの」
「助け?」
「どういう人とペアになればより正解なのか。ずっと考えているのだけど、良く分からなくて」
その言葉に、幸は興味深々と言った様子で口開いた。
「明智さんはどんな人がいい、とかないの?」
「あるといえばあるんだけど…」
言いよどむ明智さんに、柚鈴は不思議に思った。
「あれ?優秀な人と組みたいって前言ってなかったっけ?」
「ええ、そのつもりだったんだけど」
明智さんは物憂げにため息をついた。
「自分より優秀な人って中々難しいものね」
「…」
「…」
これには思わず、柚鈴も幸も沈黙してしまう。
…確かに学年主席の明智さんより優秀な先輩というと限られてしまうだろう。
何人いるんだろうか、そんな人。
上手い言葉が出てこない。
そう思っていると、明智さんは妙に押し黙った二人に気付いて、珍しく焦ったようだった。
「ち、違うわよ。成績の話をしているわけじゃないわ」
「え?そうなの?」
「ああ、ええと。勿論成績のことも最初は考えていたのだけど、学業については生徒会でも先輩方でも助けてもらえるし、助言者に求めなくてもいいのではないかって思えてもきて。長所を伸ばすのも良いけれど、いっそ短所に目を向けてみてはどうかと思うようになったの」
「短所?」
つまり。
明智さんは自分の短所に向き合ってくれる助言者が欲しい、と。
そういうことなのだろうか。
そう考えつくと、柚鈴は思わずう~んと唸った。
自分の短所と向き合って、それを指導してくれるに相応しい相手を探す。
なんだか難しいのも分かる気がする。
柚鈴自身の短所は、自分が素直になれなかったり、考え込んでしまう所だと思っている。
それはコンプレックスでもあるし、他人に急に指摘されても、じゃあ改善します、とすぐにはいかないだろう。
そこを敢えて頼める相手なんて、何を基準に探せばいいと言うのか。
さっぱり分からない。
そう悩みそうになっていると。
「ただ、好きな人でもいいんじゃないかな」
幸はふわりと笑って、どこか思慮深く見える瞳見せて、口を開いた。
「好きな人?」
「うん。信頼できる人。だって今すぐ作ったら2年近くお世話になることになるんでしょう?人の弱い所だけ向き合うとお互い疲れてしまったりしそうだもん。お互い元気を交換出来て、一緒に頑張れる人じゃないと私は難しいんじゃないかな、なんて思うんだ」
「…シンプルな考え方ね」
「基本と王道はシンプルなものだと思うよ!」
キラキラと目を輝かせた幸はどこか堂々としている。
明智さんは少し戸惑ったように目を伏せたが、やがて小さく頷いた。
「そうね」
その表情が少し柔らかく笑みを浮かべたように見えて、柚鈴にも笑みが浮かぶ。
探していた答えではないけれど、自分の立ち位置を思い出したんだと思う。
どこか幼い幸だけど、こういう所は少し見習いたい。
ただ、好きな人。
この人をお姉さまにしたいと思う人。
そういう相手を助言者とするのが正解だと言うのなら。
柚鈴はなんとなく答えのヒントを貰ったような気持ちになった。
そう柚鈴は、常葉学園で助言者は作らないと決めたのだ。
志奈さんと向き合って姉妹になるために。
そう改めて気づいて、借り物競争でどうすべきか、見えて来たような気がした。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
光のもとで2
葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、
新たな気持ちで新学期を迎える。
好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。
少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。
それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。
この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。
何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい――
(10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる