拝啓、お姉さまへ

一華

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第三章 5月‐結

お姉さま、午後の部がスタートしました! 1

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柚鈴と明智さんが昼食から白組の待機場所に戻ったのは、応援合戦と3年生の創作ダンスの準備が必要な生徒が既に抜けた後だった。
応援合戦は、白組、赤組、黄組の順で行われる。
まず生徒会会長と副会長が応援合戦のスタートを宣言し、主賓席近くの生徒会席前に移動したあとに始まる。
内容はそれぞれの組で違っていて、その評価も決して少なくない体育祭の点が振り分けられるで、中々力が入るようになっている。

白組の目玉は『集団行動』
某体育大学の美しい演技で注目を集めたあの行進だ。
もちろん完全模写とは全く言えないご愛嬌的な内容ではあるが、それでも息の合った動きは観客の目の引き、音楽もなきただ動くだけであるのに興奮させた。
知った先輩では、小牧先輩、そして沢城先輩も行進に参加している。
二人とも流石にスポーツが堪能なだけあり、背筋が伸びた歩き姿が様になっていた。
合間に挟まれる応援合戦の掛け声が足音以外音がない分、グラウンドによく響きわたったのも良かった。
見応え充分なもので、惜しみない拍手が送られた。

赤組は正統派、と言うべきだろう。
どこから仕入れて来たのか黒の学ラン姿の応援団による、応援コールがメイン。
明日は喉が潰れているのではないかという団長を筆頭とした応援団のコール。
そしてそれに合わせて振られる、いくつもの赤い旗の動きが揃っていて躍動感がある。
その中でもひときわ大きな旗を振るのが薫だ。
風になびいた赤い旗が波打つように震えるのが、絵になっている。

…今日一日で薫の存在感が変わった気がする。
なんとなくよぎった思いに、柚鈴は感心すべきかどうか迷う。
幸ならば『薫、絶賛売り出しアピール中だね!』とでも言うのではないだろうか。
どこに売り出されるんだろう、わが友は…

いや、出荷先があるというならば、間違いなく『常葉学園の乙女の園』なんだろう。
それ以外あり得ない。普段仲の言い分、その乙女の仲間入りは中々出来ない心情なのだ。

終了後に拍手を送っていると
「柚鈴さん」
後ろから気配もなく呼びかけられた。

もちろん驚いたが、もうこの展開は慣れてきた。今日何度目と言うのだ。
「どう、されたんですか?小牧先輩」
心を落ちつけて振り返ると、そこにはやはり小牧先輩と、なんと沢城先輩まで立っていた。
先ほどまでの白組の応援合戦に参加していたはずなので、赤組の順番中に戻ってきて、終了した所で声を掛けた、と言うところだろうか。
ついどうしてこの人がと沢城先輩に目線を送ってしまうが、少し不思議そうにしてから微笑んだだけだった。
おそらく小牧先輩と後になんとなくついてきた、という所なんだろう。同じ白組なんだから、おかしな話ではない。

…そうだよね。私に用があるわけないか。
柚鈴は納得して小牧先輩に目線を戻した。
小牧先輩は競技中の雰囲気と打って変わって、いつも通りの重々しい口調で話を切り出した。

「昼食時間に、柚鈴さんを生徒会長が尋ねてきていたわ」
「え?凛子先輩がですか?」
「ええ。遥さんに柚鈴さんがいないか聞いていたわ」

その遥先輩の隣にいたのが小牧先輩だったんだろうな、と納得しつつ、柚鈴は応援合戦を生徒会席で見守る凛子先輩の方を見た。
勿論、視線が届くわけもなく、次の黄組の順番を見守る凛子先輩がこちらに気付くことはない。

「何の用だったんでしょう?」
「何の用だったのかしら?」
ほとんどおうむ返しの答えが重々しく返って来ただけで、そうだよね、と柚鈴は納得する。
柚鈴も分からないのだから、小牧先輩も分からないだろう。

「ありがとうございます。後で聞きに行ってみますね」
「ええ、そうして」

とは言え、応援合戦の後は3年生は創作ダンスがある。
その後は綱引きを挟んで、柚鈴はいよいよ借り物競争だ。
急ぎの用じゃなければいいなと、思わずにいられない。
なんせ本日の柚鈴のメイン、借り競走だ。

時間どころか、心の余裕に自信がなかった。
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