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第三章 5月‐結
お姉さま、午後の部がスタートしました! 7
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「私でいいの?」
「え?」
意味が分からず聞き返すと、しのさんは口元を歪めるようにニヤリと笑った。
「後悔するかもよ?」
思わず、じゃあ止めときますと言いたくなるような笑顔に、柚鈴は一歩、後ずさった。
「冗談冗談。いや、誰とも借り物競争走ったことないから、ちょっとびっくりしちゃったのさ」
そういえば、と思い出す。
志奈さんが、岬紫乃舞さんは助言者資格を持ちながら、ペアを持たなかった、と言っていたことを。
そんな人がいるんだと驚いたんだった。
「しのさんは、ペアを作るつもりのない方、だったんですか?」
「主義だったかって聞いてるわけ?」
「まぁ、そうです」
「そんなガチガチでもないけど。結局、そういった機会がなかっただけかもねぇ」
拍子抜けするほどあっさりと言われるが、その言葉は少々怪しい。
今年だって生徒会は、ペア作りの機会を作っている。
その一環である借り物競争だってこれからだ。
助言者制度の浸透に奮闘していた生徒会の、しかも生徒会長である志奈さんの友人でありながら、機会が全くないとはとても思えない。
しかも岬紫乃舞さんは、常葉学園でも目立つ存在だったはずだ。
とすると、なぜしのさんはペアを作らなかったんだろう。
考え込もうとしたところで、タイミング良くしのさんは、柚鈴の頭に手刀をいれて来る。
「人を疑いの目で見るもんじゃないよ。特にお願いごとしているときはさ」
「い、痛いです…」
「自業自得。まったく、3年生のダンスもちゃんと見ないで、悪い後輩だよ」
にっこり笑われて、しかし言われていることはもっともなので、柚鈴は、すみませんと謝った。
3年生のダンスの演技は佳境。他の人たちの視線は完全にそっちなのに、柚鈴は今更入っていけそうになかった。
お世話になってる人たちも多いというのに申し訳ない気持ちはある。
悪い仲間になってくれてるしのさんでさえ、たまにダンスの方に視線を送っているのだ。気まずくないわけではない。
だが、別段そこまで競技に興味のない様子で、それどころか少しご機嫌で、しのさんは柚鈴を相手してくれる。
「まあ、柚鈴ちゃんの目の付け所はいいよ。相手が私じゃあ、大概の生徒は適わないからねえ」
敵わない、と自分で言ってしまう辺りが流石というか、なんというか。
まあ、実際そうなんだろうと納得しつつ、柚鈴は確認した。
「じゃあ、一緒に走ってくれるんですか?」
「私でいいならね。後で後悔するかもしれないけどさ」
ニヤニヤと笑って、2度目の後悔を口にされて、柚鈴は首を傾げた。
それは、自分は厄介だよ、という宣告なんだろうか。
どう反応すべきか迷っている間に、3年生のダンスが終了してしまう。
競技が終わったことで、流れていた曲と入れ替わるように盛大な拍手と人の声援や話し声が聞こえてきた。
「なんだかお客様が増えてきましたね」
ダンスを見ていた絵里が独り言のように呟くので柚鈴は周りを見まわした。
そういえば、たしかに観客席が増えてきている気がする。
「午後になって、体育祭に間に合う人たちが来たんじゃないの?」
しのさんは、絵里の疑問に答えるように言った。
それから柚鈴に目線を戻す。
「借り物競争、嫌でも注目競技になるねえ」
「うう…」
注目、は正直嫌だ。
言葉に詰まった柚鈴の肩をポンポンと叩くと、しのさんは少し穏やかに笑った。
「ちゃんと私の所にきたら、一緒に走ってあげるし、その後も守ってあげるよ。でも、もう少し考えてごらん」
「考える、って何をですか?」
聞き返すと、しのさんはクスリと笑った。
「私を選んだら、後悔すると思うよ」
何が言いたいのだと、聞き返しかけて。
借り物競走の集合アナウンスが流れ、柚鈴の心臓が大きく跳ねた。
いよいよだ、いよいよこの時が来てしまった。
「柚鈴さん、頑張ってね」
絵里が冷静すぎる眼差しと共に声を掛けてくれる。
「う、うん。頑張る」
何をどう、頑張ればいいのか分からない気持ちを抑えて、柚鈴は頷いた。
「気を確かに持っていってらっしゃい」
しのさんは、にやにやと笑いながら手を振ってくる。
私を最後の最後に動揺させたのは、しのさんでしょうが!
そう言いたい気持ちになりつつ。
柚鈴は集合場所に向かうために、がちがちになった体を動かして進み始めた。
「え?」
意味が分からず聞き返すと、しのさんは口元を歪めるようにニヤリと笑った。
「後悔するかもよ?」
思わず、じゃあ止めときますと言いたくなるような笑顔に、柚鈴は一歩、後ずさった。
「冗談冗談。いや、誰とも借り物競争走ったことないから、ちょっとびっくりしちゃったのさ」
そういえば、と思い出す。
志奈さんが、岬紫乃舞さんは助言者資格を持ちながら、ペアを持たなかった、と言っていたことを。
そんな人がいるんだと驚いたんだった。
「しのさんは、ペアを作るつもりのない方、だったんですか?」
「主義だったかって聞いてるわけ?」
「まぁ、そうです」
「そんなガチガチでもないけど。結局、そういった機会がなかっただけかもねぇ」
拍子抜けするほどあっさりと言われるが、その言葉は少々怪しい。
今年だって生徒会は、ペア作りの機会を作っている。
その一環である借り物競争だってこれからだ。
助言者制度の浸透に奮闘していた生徒会の、しかも生徒会長である志奈さんの友人でありながら、機会が全くないとはとても思えない。
しかも岬紫乃舞さんは、常葉学園でも目立つ存在だったはずだ。
とすると、なぜしのさんはペアを作らなかったんだろう。
考え込もうとしたところで、タイミング良くしのさんは、柚鈴の頭に手刀をいれて来る。
「人を疑いの目で見るもんじゃないよ。特にお願いごとしているときはさ」
「い、痛いです…」
「自業自得。まったく、3年生のダンスもちゃんと見ないで、悪い後輩だよ」
にっこり笑われて、しかし言われていることはもっともなので、柚鈴は、すみませんと謝った。
3年生のダンスの演技は佳境。他の人たちの視線は完全にそっちなのに、柚鈴は今更入っていけそうになかった。
お世話になってる人たちも多いというのに申し訳ない気持ちはある。
悪い仲間になってくれてるしのさんでさえ、たまにダンスの方に視線を送っているのだ。気まずくないわけではない。
だが、別段そこまで競技に興味のない様子で、それどころか少しご機嫌で、しのさんは柚鈴を相手してくれる。
「まあ、柚鈴ちゃんの目の付け所はいいよ。相手が私じゃあ、大概の生徒は適わないからねえ」
敵わない、と自分で言ってしまう辺りが流石というか、なんというか。
まあ、実際そうなんだろうと納得しつつ、柚鈴は確認した。
「じゃあ、一緒に走ってくれるんですか?」
「私でいいならね。後で後悔するかもしれないけどさ」
ニヤニヤと笑って、2度目の後悔を口にされて、柚鈴は首を傾げた。
それは、自分は厄介だよ、という宣告なんだろうか。
どう反応すべきか迷っている間に、3年生のダンスが終了してしまう。
競技が終わったことで、流れていた曲と入れ替わるように盛大な拍手と人の声援や話し声が聞こえてきた。
「なんだかお客様が増えてきましたね」
ダンスを見ていた絵里が独り言のように呟くので柚鈴は周りを見まわした。
そういえば、たしかに観客席が増えてきている気がする。
「午後になって、体育祭に間に合う人たちが来たんじゃないの?」
しのさんは、絵里の疑問に答えるように言った。
それから柚鈴に目線を戻す。
「借り物競争、嫌でも注目競技になるねえ」
「うう…」
注目、は正直嫌だ。
言葉に詰まった柚鈴の肩をポンポンと叩くと、しのさんは少し穏やかに笑った。
「ちゃんと私の所にきたら、一緒に走ってあげるし、その後も守ってあげるよ。でも、もう少し考えてごらん」
「考える、って何をですか?」
聞き返すと、しのさんはクスリと笑った。
「私を選んだら、後悔すると思うよ」
何が言いたいのだと、聞き返しかけて。
借り物競走の集合アナウンスが流れ、柚鈴の心臓が大きく跳ねた。
いよいよだ、いよいよこの時が来てしまった。
「柚鈴さん、頑張ってね」
絵里が冷静すぎる眼差しと共に声を掛けてくれる。
「う、うん。頑張る」
何をどう、頑張ればいいのか分からない気持ちを抑えて、柚鈴は頷いた。
「気を確かに持っていってらっしゃい」
しのさんは、にやにやと笑いながら手を振ってくる。
私を最後の最後に動揺させたのは、しのさんでしょうが!
そう言いたい気持ちになりつつ。
柚鈴は集合場所に向かうために、がちがちになった体を動かして進み始めた。
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