拝啓、お姉さまへ

一華

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第三章 5月‐結

お姉さま、午後の部がスタートしました! 6

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「誰だと言われましても」
「おやおや、私の声をもう忘れちゃったの?薄情だねえ」
揶揄うような物言いに確信しか湧かない。
柚鈴は思わずほっとしつつ言った。
「いえ、分かりますよ。しのさん」

その名前を呼ぶと目元の手が外されて、振り返るとそこには確かに岬紫乃舞が立っていた。
にっこり笑う顔は変わることなく派手だが、今日は先日に比べて随分恰好が大人しい。
見る人が見れば、きゃあきゃあ騒ぐ所なのかもしれないけれど、柚鈴はそういうタイプでもなければ、上手くお愛想が言える方でもない。
 
…この間の真美子さんの注意が効いたのかな?
などと、思う程度だった。

柚鈴の反応に、しのさんは何が面白いのかニヤニヤ笑う。
気になって見つめると、にっこり笑って話を変えた。
「いやあ、生徒会長さんに柚鈴ちゃん呼んでって頼んでいたんだけど、あんまり来ないから忘れられてるのかと思ったよ」
「凛子先輩に?」

ということは、凛子先輩がわざわざ柚鈴を探しに来たのは、しのさんの事だったのだろうか?
確認のしようはないが、柚鈴が探していたことは知っているし、それでもかもしれない。それは凛子先輩には悪いことをした気がする。

…来てみて良かった。
もし来なかったら、凛子先輩に申し訳ない。何より探していた人に会えて助かった。

しのさんは、じっと柚鈴を見て、様子を伺うように口を開いた。
「で?柚鈴ちゃん。ちゃんとまだ手付かずのノーペアかな?」
「は、はあ…」
なんか言い方がちょっと引っかかるが、その通りではあるので頷くとよしよし、頭を撫でられた。
「今日はちょっと到着が遅くなったからね。一応心配もしてたんだよ」
…そういえば、この人は全力で邪魔をするって言っていたんだったと思い出しつつ。しかし実際そんな義理もないだろうし、少々気にしている程度なのだろう、と思う。

実際しのさんが何を考えて行動しているのかは良く分からないけれど、それは柚鈴の嫌なことではない気がする。
頭を撫でられるのは慣れないけれど、志奈さんのスキンシップよりも気持ちが軽い気がするので、ちょっと嫌な顔をするくらいで済ませることが出来た。

そのちょっと嫌な顔に、しのさんはクスクス笑って離れてくれる。
やはりある程度の距離感は見てくれているのだろう。
そこに一度、テントの中に入っていた絵里が、二人の様子を気にしたのか戻ってきてくれた。
ちなみに中は仕切りがあって柚鈴には見えない。
噂の同窓会会長さんがいらっしゃるのだろうか。

絵里は見えない中に視線を送ってから肩を竦めた。
「随分、中は賑やかですね」
「久しぶりに会う方々でね。見逃してくれると助かるわ」

にっこり笑うしのさんに、一体絵里が何を見たのか気になりはするが、関係ないと言われればない。
興味本位の質問は置いておいて、柚鈴は本題を持ち出すことにした。
もちろん借り物競争についてだ。

「しのさん、お願いがあります」
「ん?」
改まった柚鈴の言葉に、少し目を見開いたが、どうぞと言わんばかりに目線で促して来る。
その目線に勇気を持って、柚鈴はお願いを口にした。
「私、借り物競争にこの後出るんですが、お題として一緒に走ってくれませんか?」
「え?私と?借り物競争?」

意外な言葉であったのか、一瞬ぽかんと口を開けた。そんなしのさんの表情はきっとレアなものな気がする。
貴重な体験が出来ている気がしつつ、柚鈴は頷いた。

「しのさんであれば、卒業生だし問題ないかと思いまして」
「ははあ…。柚鈴ちゃん、借り物競争に出るわけ。なるほどねえ」
なにがなるほどなのか。
しのさんは、何か考え込むように頬杖をついた。嫌そうではないけれど、妙な間があり、どんな返事が来るのかと柚鈴はどきどきしてしまう。
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