拝啓、お姉さまへ

一華

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第三章 5月‐結

お姉さま、借り物競争はご一緒に 2

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ただ目的の相手がいても見つからない、ということはあるようだ。
探しにいった場所にはおらず、そこにいた人達に聞いて別の場所を探しにいったりしている様子の人もいれば、皆で相手を探していたりもする。
それがリアルに真剣さを感じさせて、見ている方も感情が入っていくのだろう。
一人ひとりの様子が見守られているのが分かった。

その中でもいち早く目的の人物を見つけた生徒が現れたらしい。
波打つような騒ぎが起きて、注目が集まった。
競技に出場している一年生が、相手の先輩に勢いよく頭を下げるのが見える。
柚鈴はその一生懸命さに、なんだか、ずきりと胸が痛むような気がした。

理由ははっきりとは言えない。でも。
嘘は少ない方がいい。
そういった小牧先輩の言葉が妙に思い出された。

そのままその生徒が、相手と一緒にゴールすると盛大な拍手で迎えられる。ゴールした2人の嬉しそうな表情が周りにもうつるようで、華やいだ雰囲気になる。

そして、2組目のスタートが切られた。
その音にハッとしてしまう。

…今更、悩む時間なんてないのだ。
2組目の誰かがゴールしてしまえば、柚鈴の順番が来る。
そうして走り出したら、止まることなんて出来ない。

妙に泣き出したい気持ちに襲われながら、でも逃げ出すことも出来ずに、柚鈴はいつでもスタートが切れるように実行委員に促されてスタンバイをした。

この妙な焦りは、緊張と言うのだろうか。
そうなのかもしれない、と思った。
そうすると原因は、準備不足、なのかもしれない、とも思う。

焦りは妙に自己嫌悪のような感情を柚鈴にもたらして、飲み込んでしまいそうになっていた。

しかし、だと言うのなら。
するべき準備とはなんだったんだろうか?
借り物競争に出ることを選んだのがそもそもの間違いか。
それとも一緒にゴールするべき相手の選び方か。


『私でいいの?』
思い出される、しのさんの言葉に八つ当たりしたくなった。
じゃあ、と思ってるんですか、と言いたくなる。
いや、しのさん相手なら、その誰は別に難しくもなんともなのだろう。
答えは簡単。柔らかく美しく微笑む柚鈴の義姉以外のあり得ない。

そんなこと言われても、今更じゃないか。だって……

柚鈴は頭を振って、所在なさげに視線を彷徨わせた。
その時、保護者席の方に、見たことのあるシルエットを見つけた。
…あれ、確か。幸ちゃんの…?

距離もあるし、はっきりと覚えているわけでもない。
目を凝らして、妙に覚えがあるその姿を確認しようと目を凝らしつつ、無意識にもしそうならと考えてしまい、なんとなくデジャヴのような感覚に陥った。
そわそわとした気持ちになりながら、自分の妙な感覚の正体はなんだろうかと考える。

もしそうなら、幸が嫌がるだろうな。
あの時と同じように、大慌てで、あの時と同じように。
あの時は、確か……

そんな既視感の理由を探していると。
実行委員から「位置について」の声が掛かった。
どうやら二組目でも誰かがゴールを決めたらしい。
大きな歓声が耳に入って来て、柚鈴は現実に引き戻される。

スタートの合図があり、ほとんど条件反射のように走り出した。

何かを思い出しそうな、デジャヴの正体がもう少しで分かりそうなのに、体は勝手に動いた。
スタートダッシュは、素早いとは言えなかったが。
それでも真ん中くらいの位置について平均台に上って一気に降りた。
ボールのシュートは残念ながら一回では決まらない。
外したボールを拾っては投げて、集中できない頭の中をどうにか整えながら、ゴールを見つめた。

ああ、でもなんだっけ。
何かに思い出しそうなんだけど。
幸ちゃんが嫌がって、それでなんだっけ。
もやもやしながらも、どうにかシュートを決める。ようやく先に進むと机の上のお題へたどり着いて、出遅れた分あわあわしながら、ひっくり返した。
勿論書いてあるのは「ペアになりたい人」だ。

とりあえず先に進もうと、ぐるぐると回転する頭を振り払うように、しのさんの方向を向いた。
場所はそう、先ほどまでの同窓会用のテントだ。
悠々とこちらを向いているしのさんが見えて、柚鈴は走り始めた。

そう、しのさんと一緒に走ってしまえばいいのだ。
計画通り、そうしてしまって後で考えれば良い。
そう思っていたのに。
しのさんのニヤリと笑った顔が見える位置まで来て、そうか、と気付いてしまった。

デジャヴ
いないはずの幸ちゃんの従姉。
いないはずの柚鈴の義姉。

まさか、と思う時には、その人はいるのだ。
つまり、まさか。

とうとうしのさんにたどり着いて、その両腕を柚鈴は勢いよく掴んだ。
「しのさんっ」
「ど、どした」
借り物競争に誘いに来たというよりも、詰め寄って来たような柚鈴の様子に、しのさんは余裕の笑顔を消して、驚いている。
だが柚鈴は構わずに叫んだ。
「志奈さんが、来ているんでしょう!?」
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