236 / 282
第三章 5月‐結
思い出は輝いて 6
しおりを挟む
『この春に、彼女は私の妹になりました。私の家族構成につきましては。文芸部の雑誌にも取り上げて頂いたことがございますので、妹になったとお話しすれば、その意味が分かる方も多いのではないかと思います』
爆弾発言、ではあるのだろう。
グラウンドは戸惑いを表現するかのように、急にしんと静まり返っていた。
でも志奈さんは何もに気にならない様子だ。そのままの調子で話を進めていく。
『妹が出来ると分かった時、私は真っ先に、常葉学園の助言者制度のことが頭に浮かびました。この高等部では、以前は姉妹制度、そして現在は助言者制度という、先輩後輩の間に存在する一対一のペアの関係があります。既にペアをお持ちの方は、もうその相手との間に強い絆を感じている方も多いのではないでしょうか?私は高等部生徒会長として、たくさんのペアの絆を感じてきました。とてもとても素敵で、ずっと羨ましかった』
「……」
羨ましかった。
以前にも志奈さん自身から聞いたことのある言葉だ。
本当にどこまでも本心なのだろう。
その響きは、妙に胸に響いた。
『この高等部において生徒会長として、沢山の絆を見てきたことは私にとって誇りです。だから妹が出来ると聞いたとき、不安は一切なく、とても嬉しかった』
志奈さんは、自分の胸に手を重ねて、ほほ笑んでいた。
芝居がかって見えそうな仕草であるが、白けた気持ちにはならなかった。
こころなし、グラウンドの静けさもどこか和らいでいくような気がする。
志奈さんの柔らかな様子に、そんな気持ちになってしまうのだろう。
『私は知っています。相手と向き合い、しっかりと心を通わせることが出来れば、深い結びつきが生まれるだけではなく、そこから明日が、未来が育まれることを。それを教えてくれたのは、この常葉学園高等部で出会ってきた、沢山のペアたちです』
話は、柚鈴のことから、常葉学園の助言者制度を中心とした内容が盛り込まれている。
プライベートな話から、元生徒会長として相応しい内容。
上手に話をまとめ上げていく志奈さんの会話の流れは見事で、それをごく自然に行っている。
真美子さんの言葉を借りれば、それも全て志奈さんが思っていること、ということなのだろう。
最初のように、なんだか恐ろしいと思うこともなく、柚鈴は自然に受け止めていた。
志奈さんらしい、と言えば志奈さんらしい気がする。
そして、この人はこんな風に生徒会長でいたんだ、と見れたような気がした。
昨年までの様子を見ることは出来ないけれど、きっとそうなんだろう。
志奈さんは、言葉を続ける。
『私の思い出は輝いています。その思い出があるからこそ、私ははっきりと言います。彼女は私にとって、とても大切な妹です』
再び、自分の話が出て、柚鈴は少し頬を赤らめた。
公衆の面前で、こう何度も語られるのだ。
多少は仕方ないと思ってほしかった。
『皆様も、輝ける思い出作りをされてください。それは勿論、ペアを作ることだけではありません。学園生活を楽しみ、周りの支えられながら助け、助けられ、情熱を注ぐことが大切なのだと思います。そうすれば私のようにペアがいなかった生徒でも、結びつきは生まれ、明日が育まれるのだと思います』
志奈さんは、にっこり笑って締めの言葉を口にした。
『今日の体育祭の主役は、あなたたち一人ひとりです。忘れ物のないよう、最後の一瞬まで、今日の主役を忘れないでください。ご活躍を見守らせて頂きます』
にっこりと笑ったから、最後に深々とお礼をする。
するとグラウンドかは当然のように、沸き上がるような大きな拍手が鳴り響いた。
爆弾発言、ではあるのだろう。
グラウンドは戸惑いを表現するかのように、急にしんと静まり返っていた。
でも志奈さんは何もに気にならない様子だ。そのままの調子で話を進めていく。
『妹が出来ると分かった時、私は真っ先に、常葉学園の助言者制度のことが頭に浮かびました。この高等部では、以前は姉妹制度、そして現在は助言者制度という、先輩後輩の間に存在する一対一のペアの関係があります。既にペアをお持ちの方は、もうその相手との間に強い絆を感じている方も多いのではないでしょうか?私は高等部生徒会長として、たくさんのペアの絆を感じてきました。とてもとても素敵で、ずっと羨ましかった』
「……」
羨ましかった。
以前にも志奈さん自身から聞いたことのある言葉だ。
本当にどこまでも本心なのだろう。
その響きは、妙に胸に響いた。
『この高等部において生徒会長として、沢山の絆を見てきたことは私にとって誇りです。だから妹が出来ると聞いたとき、不安は一切なく、とても嬉しかった』
志奈さんは、自分の胸に手を重ねて、ほほ笑んでいた。
芝居がかって見えそうな仕草であるが、白けた気持ちにはならなかった。
こころなし、グラウンドの静けさもどこか和らいでいくような気がする。
志奈さんの柔らかな様子に、そんな気持ちになってしまうのだろう。
『私は知っています。相手と向き合い、しっかりと心を通わせることが出来れば、深い結びつきが生まれるだけではなく、そこから明日が、未来が育まれることを。それを教えてくれたのは、この常葉学園高等部で出会ってきた、沢山のペアたちです』
話は、柚鈴のことから、常葉学園の助言者制度を中心とした内容が盛り込まれている。
プライベートな話から、元生徒会長として相応しい内容。
上手に話をまとめ上げていく志奈さんの会話の流れは見事で、それをごく自然に行っている。
真美子さんの言葉を借りれば、それも全て志奈さんが思っていること、ということなのだろう。
最初のように、なんだか恐ろしいと思うこともなく、柚鈴は自然に受け止めていた。
志奈さんらしい、と言えば志奈さんらしい気がする。
そして、この人はこんな風に生徒会長でいたんだ、と見れたような気がした。
昨年までの様子を見ることは出来ないけれど、きっとそうなんだろう。
志奈さんは、言葉を続ける。
『私の思い出は輝いています。その思い出があるからこそ、私ははっきりと言います。彼女は私にとって、とても大切な妹です』
再び、自分の話が出て、柚鈴は少し頬を赤らめた。
公衆の面前で、こう何度も語られるのだ。
多少は仕方ないと思ってほしかった。
『皆様も、輝ける思い出作りをされてください。それは勿論、ペアを作ることだけではありません。学園生活を楽しみ、周りの支えられながら助け、助けられ、情熱を注ぐことが大切なのだと思います。そうすれば私のようにペアがいなかった生徒でも、結びつきは生まれ、明日が育まれるのだと思います』
志奈さんは、にっこり笑って締めの言葉を口にした。
『今日の体育祭の主役は、あなたたち一人ひとりです。忘れ物のないよう、最後の一瞬まで、今日の主役を忘れないでください。ご活躍を見守らせて頂きます』
にっこりと笑ったから、最後に深々とお礼をする。
するとグラウンドかは当然のように、沸き上がるような大きな拍手が鳴り響いた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
光のもとで2
葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、
新たな気持ちで新学期を迎える。
好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。
少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。
それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。
この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。
何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい――
(10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる