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第三章 5月‐結
お姉さま、勝負です! 1
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柚鈴は、肩に両手をおいて囁いてきた、しのさんの言葉は実に楽しそうに響いた。
「柚鈴ちゃん、ご感想は如何かな?愛しいお姉さまの」
「…」
ええ。とても素晴らしく素敵でした。
と、素直には言い難く、柚鈴は口を閉ざした。
そもそも愛しいお姉さまっていうのはなんなのだ。
そんな人のことは柚鈴は知らない。
だが、口を閉ざした程度で懲りるような相手ではない。
さらに揶揄うように聞いてくる。
「恰好いいでしょう?志奈は」
「…恐ろしい人です」
ようやく柚鈴は重々しく呟いた。
「おや、恐ろしい?」
「確かに志奈さんは美人ですし弁がたちます。でも大勢の前に立つと、実物以上に大きく見えますよね」
「柚鈴ちゃんには大きく見えなかった?」
「見えなかったわけではないですけど」
見えなかったわけではない。
ただいつも通りの志奈さんでもあって、それが柚鈴にいつも通りの反応をさせるだけだ。
それ以上でもそれ以下でもなかった。
「岬先輩、志奈さんが戻ってきます。柚鈴さんを解放してください」
柚鈴から全く離れようとしない、しのさんの様子に、凛子先輩が見かねて声を掛けてくれる。
後輩がやっかいなOGに絡まれているのが不憫だったのだろう。
しのさんは、おやおやと苦笑して柚鈴からどいた。
そこに、小走りに志奈さんが戻ってきた。
柚鈴の方へ一直線にやって来た、華やかな生き物に一瞬緊張する。
だが。
「柚鈴ちゃん!どうだった?私の愛情がちゃんと伝わったかしら?」
「……」
あまりにもいつも通りの志奈さんに、柚鈴は言葉を見失った。
先ほどまでには確かに『みんなのお姉様』ではあったような気がするのだが。
今はそれすら微塵も感じない。
愛情がダダ漏れ過ぎる。
顔を引きつらせたまま。
「この人がどこのどなたか、誰かに教えてほしいです」
柚鈴が冷めた口調で言うと、志奈さんは傷ついたような顔を見せる。
「ええ!?どうして?何が問題なの?」
「愛が重すぎます」
「大丈夫!いつかは慣れるわ!」
「慣れたくありません…」
本当に正直に本音で言うと、しのさんが楽しそうにカラカラと笑った。
見ると真美子さんや凛子先輩まで、どこか面白いものを見ているという顔をしている。
…楽しまないでくださいよ。
柚鈴は心の中だけで、反発した。
志奈さんは不満そうに頬を膨らませる。
「せっかくの体育祭なんだもの。柚鈴ちゃんに少しはいいところを見せたかったのに」
「いや、志奈さんの体育祭ではないですから」
「あら観戦することも立派な参加よ」
「まあ確かに。志奈さんは観戦だけでなく、参加していましたね…」
柚鈴は呆れたように頷いた。
いつも通りの会話だが、改めて考えるとコントのようになってしまう。
このまま傍にいては、志奈さんのペースに、どんどん巻き込まれしまうのだろう。
居たたまれなくなった柚鈴は、ひとまず距離を取ったほうが良さそうだと思った。
「はい。じゃあ確かに志奈さんのいい所を見ました。素晴らしくて満足しました。それでは私も覚悟を決めて、白組の待機場所に戻ります」
柚鈴が早口に言うと、志奈さんはショックだというような表情を作った。
「ええ?!もういっちゃうの?」
「いや、もう最後の競技も始まりますし。いい加減戻らないと」
「そう…」
志奈さんは残念そうにつぶやいた。
それからふっと何かを思いついたように目を輝かせた。
「ねえ、柚鈴ちゃん」
「なんですか?」
「最後の組対抗リレー、どこの組が勝つか、私と賭けない?」
「え?」
急に言いだされた言葉に、柚鈴は目を瞬かせた。
「柚鈴ちゃん、ご感想は如何かな?愛しいお姉さまの」
「…」
ええ。とても素晴らしく素敵でした。
と、素直には言い難く、柚鈴は口を閉ざした。
そもそも愛しいお姉さまっていうのはなんなのだ。
そんな人のことは柚鈴は知らない。
だが、口を閉ざした程度で懲りるような相手ではない。
さらに揶揄うように聞いてくる。
「恰好いいでしょう?志奈は」
「…恐ろしい人です」
ようやく柚鈴は重々しく呟いた。
「おや、恐ろしい?」
「確かに志奈さんは美人ですし弁がたちます。でも大勢の前に立つと、実物以上に大きく見えますよね」
「柚鈴ちゃんには大きく見えなかった?」
「見えなかったわけではないですけど」
見えなかったわけではない。
ただいつも通りの志奈さんでもあって、それが柚鈴にいつも通りの反応をさせるだけだ。
それ以上でもそれ以下でもなかった。
「岬先輩、志奈さんが戻ってきます。柚鈴さんを解放してください」
柚鈴から全く離れようとしない、しのさんの様子に、凛子先輩が見かねて声を掛けてくれる。
後輩がやっかいなOGに絡まれているのが不憫だったのだろう。
しのさんは、おやおやと苦笑して柚鈴からどいた。
そこに、小走りに志奈さんが戻ってきた。
柚鈴の方へ一直線にやって来た、華やかな生き物に一瞬緊張する。
だが。
「柚鈴ちゃん!どうだった?私の愛情がちゃんと伝わったかしら?」
「……」
あまりにもいつも通りの志奈さんに、柚鈴は言葉を見失った。
先ほどまでには確かに『みんなのお姉様』ではあったような気がするのだが。
今はそれすら微塵も感じない。
愛情がダダ漏れ過ぎる。
顔を引きつらせたまま。
「この人がどこのどなたか、誰かに教えてほしいです」
柚鈴が冷めた口調で言うと、志奈さんは傷ついたような顔を見せる。
「ええ!?どうして?何が問題なの?」
「愛が重すぎます」
「大丈夫!いつかは慣れるわ!」
「慣れたくありません…」
本当に正直に本音で言うと、しのさんが楽しそうにカラカラと笑った。
見ると真美子さんや凛子先輩まで、どこか面白いものを見ているという顔をしている。
…楽しまないでくださいよ。
柚鈴は心の中だけで、反発した。
志奈さんは不満そうに頬を膨らませる。
「せっかくの体育祭なんだもの。柚鈴ちゃんに少しはいいところを見せたかったのに」
「いや、志奈さんの体育祭ではないですから」
「あら観戦することも立派な参加よ」
「まあ確かに。志奈さんは観戦だけでなく、参加していましたね…」
柚鈴は呆れたように頷いた。
いつも通りの会話だが、改めて考えるとコントのようになってしまう。
このまま傍にいては、志奈さんのペースに、どんどん巻き込まれしまうのだろう。
居たたまれなくなった柚鈴は、ひとまず距離を取ったほうが良さそうだと思った。
「はい。じゃあ確かに志奈さんのいい所を見ました。素晴らしくて満足しました。それでは私も覚悟を決めて、白組の待機場所に戻ります」
柚鈴が早口に言うと、志奈さんはショックだというような表情を作った。
「ええ?!もういっちゃうの?」
「いや、もう最後の競技も始まりますし。いい加減戻らないと」
「そう…」
志奈さんは残念そうにつぶやいた。
それからふっと何かを思いついたように目を輝かせた。
「ねえ、柚鈴ちゃん」
「なんですか?」
「最後の組対抗リレー、どこの組が勝つか、私と賭けない?」
「え?」
急に言いだされた言葉に、柚鈴は目を瞬かせた。
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