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第三章 5月‐結
お姉さま、勝負です! 2
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志奈さんは満面の笑みで、名案とばかりに続ける。
「せっかく体育祭に来たのだもの。柚鈴ちゃんと一緒に体育祭を楽しみたいじゃない」
「それで賭けですか?」
「ええ。勝った方は負けた方のお願いごとをなんでも一つ聞くというのはどうかしら?」
志奈さんの提案に、急すぎて柚鈴は困惑を隠せない。
「どうかしら、と言われても…えと、もしかして志奈さん。何か勝算でもあってそんなことを言ってるんですか?」
「勝算なんて全くないわ」
志奈さんはあっさりと答えた。
「ただ、最後に楽しみたいだけだもの。本当は私が高等部にいて、一緒に勝った負けたと言い合えるのが一番なんだけど、それは無理だし」
「まあ、そうですね」
「組分けがどうなってるかも良く知らないし、柚鈴ちゃんが選ばなかった組を適当に選ぶわ」
「はあ…」
気乗りはしないが、張り切っている志奈さんの様子を見ると断るのも気が引けた。
それに。
柚鈴はふと思う。
組対抗リレーと言えば、アンカーに高村薫が出る。
薫が最後に出る限り、赤組の勝利は間違いない。
つまり賭けるとしたら答えは分かっているのだから、この勝負をするとしたら、柚鈴は勝つに決まっているのだ。
なんでもお願い事を聞く、というのは少々引っかかるが、負けないならばアリなのかもしれない。
「…もしかしたら、組分けを知っている私の方が有利かもしれませんけど、いいんですか?」
「勿論よ」
念のため、こちらの有利を気付かせた方がいいかと聞いてみるが、乗ってきた柚鈴の反応が嬉しいとばかりに、志奈さんは目を輝かせた。
なんだか楽しそうだ。
…まあ、お願いごとを聞いてもらう権利を持っておくのもいいかもしれない…。
柚鈴に極端なお願いをするつもりはないが、この志奈さんのことだ。
今後一緒に過ごすうちに何が起こるか分からない。
毎度「お姉ちゃんと呼んで」なんて言われても柚鈴も困る。勝てる勝負ならば、損はない。
柚鈴が勝てる確率の高い、賭けをすることだけで喜んでもらえるのだから、問題点はないような気がした。
「ではそうしましょう」
柚鈴が答えると、思いのほか嫌がらなかったからか、志奈さんは驚いた表情を見せた。
「え?」
「志奈さんの言う通り、賭けましょう」
「いいの?」
志奈さんはしつこく確認をしてくるが、組対抗リレーはほどなく始まりそうだ。
待機場所に戻らなくては、と柚鈴は慌てて言った。
「ええ良いですよ。私は赤組に賭けます」
薫のいる赤組だ。柚鈴はこれ一択しか考えなかった。
志奈さんは更に意外、と言わんばかりの表情を作った。
「え?柚鈴ちゃん白組でしょう?なのに赤組なの?」
「はい。これは賭けなので、勝つと思うほうを選びます」
「そう?赤組によほどの自信があるのね。じゃあ、私は白組にしようかしら。柚鈴ちゃんの色だし」
「し、白でいいんですか?」
「ええ、私にとってこれは勝負というより、柚鈴ちゃんとの思い出作りだから」
確認する柚鈴に、あっさり志奈さんは言った。
柚鈴との思い出づくり。
その言葉が少し嬉しく感じて、思わず頬が緩みそうになり、慌てて引き締めた。
緩んだ顔を見せてはいけないわけではないのだけど。
なんだか恥ずかしかったのだ。
どうにか体裁を取り繕うと、柚鈴は引き締めた表情のまま言った。
「分かりました。じゃあ、私は戻りますね」
「お願いごと、決めておかなくていいの?」
「時間もありませんし」
どうせ勝つのは自分なのだ。
柚鈴は頷いた。
「じゃあ、あとで賭けの結果とお願い事のことでお話しましょね」
約束を得た、と言った様子で、志奈さんは嬉しそうにほほ笑んだ。
その表情に妙に胸が温かくなるのを感じつつ、柚鈴はもう一度頷いてみせた。
表情はどうにか崩れなかったと思う。
志奈さんとその周りにいるOG、そして凛子先輩に頭を下げてから、小走りに待機場所へと走り出した。
組対抗リレーのスタートの合図が聞こえたのはその時だった。
「せっかく体育祭に来たのだもの。柚鈴ちゃんと一緒に体育祭を楽しみたいじゃない」
「それで賭けですか?」
「ええ。勝った方は負けた方のお願いごとをなんでも一つ聞くというのはどうかしら?」
志奈さんの提案に、急すぎて柚鈴は困惑を隠せない。
「どうかしら、と言われても…えと、もしかして志奈さん。何か勝算でもあってそんなことを言ってるんですか?」
「勝算なんて全くないわ」
志奈さんはあっさりと答えた。
「ただ、最後に楽しみたいだけだもの。本当は私が高等部にいて、一緒に勝った負けたと言い合えるのが一番なんだけど、それは無理だし」
「まあ、そうですね」
「組分けがどうなってるかも良く知らないし、柚鈴ちゃんが選ばなかった組を適当に選ぶわ」
「はあ…」
気乗りはしないが、張り切っている志奈さんの様子を見ると断るのも気が引けた。
それに。
柚鈴はふと思う。
組対抗リレーと言えば、アンカーに高村薫が出る。
薫が最後に出る限り、赤組の勝利は間違いない。
つまり賭けるとしたら答えは分かっているのだから、この勝負をするとしたら、柚鈴は勝つに決まっているのだ。
なんでもお願い事を聞く、というのは少々引っかかるが、負けないならばアリなのかもしれない。
「…もしかしたら、組分けを知っている私の方が有利かもしれませんけど、いいんですか?」
「勿論よ」
念のため、こちらの有利を気付かせた方がいいかと聞いてみるが、乗ってきた柚鈴の反応が嬉しいとばかりに、志奈さんは目を輝かせた。
なんだか楽しそうだ。
…まあ、お願いごとを聞いてもらう権利を持っておくのもいいかもしれない…。
柚鈴に極端なお願いをするつもりはないが、この志奈さんのことだ。
今後一緒に過ごすうちに何が起こるか分からない。
毎度「お姉ちゃんと呼んで」なんて言われても柚鈴も困る。勝てる勝負ならば、損はない。
柚鈴が勝てる確率の高い、賭けをすることだけで喜んでもらえるのだから、問題点はないような気がした。
「ではそうしましょう」
柚鈴が答えると、思いのほか嫌がらなかったからか、志奈さんは驚いた表情を見せた。
「え?」
「志奈さんの言う通り、賭けましょう」
「いいの?」
志奈さんはしつこく確認をしてくるが、組対抗リレーはほどなく始まりそうだ。
待機場所に戻らなくては、と柚鈴は慌てて言った。
「ええ良いですよ。私は赤組に賭けます」
薫のいる赤組だ。柚鈴はこれ一択しか考えなかった。
志奈さんは更に意外、と言わんばかりの表情を作った。
「え?柚鈴ちゃん白組でしょう?なのに赤組なの?」
「はい。これは賭けなので、勝つと思うほうを選びます」
「そう?赤組によほどの自信があるのね。じゃあ、私は白組にしようかしら。柚鈴ちゃんの色だし」
「し、白でいいんですか?」
「ええ、私にとってこれは勝負というより、柚鈴ちゃんとの思い出作りだから」
確認する柚鈴に、あっさり志奈さんは言った。
柚鈴との思い出づくり。
その言葉が少し嬉しく感じて、思わず頬が緩みそうになり、慌てて引き締めた。
緩んだ顔を見せてはいけないわけではないのだけど。
なんだか恥ずかしかったのだ。
どうにか体裁を取り繕うと、柚鈴は引き締めた表情のまま言った。
「分かりました。じゃあ、私は戻りますね」
「お願いごと、決めておかなくていいの?」
「時間もありませんし」
どうせ勝つのは自分なのだ。
柚鈴は頷いた。
「じゃあ、あとで賭けの結果とお願い事のことでお話しましょね」
約束を得た、と言った様子で、志奈さんは嬉しそうにほほ笑んだ。
その表情に妙に胸が温かくなるのを感じつつ、柚鈴はもう一度頷いてみせた。
表情はどうにか崩れなかったと思う。
志奈さんとその周りにいるOG、そして凛子先輩に頭を下げてから、小走りに待機場所へと走り出した。
組対抗リレーのスタートの合図が聞こえたのはその時だった。
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