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第三章 5月‐結
お姉さま、勝負です! 4 ~小牧ひとみのやる気~
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「花奏!中西花奏はどこ?!」
借り物競争も終盤、という頃に、黄組の待機場所に現れたのは、市原遥だった。
愛らしい見た目とは裏腹に、いざというときには遠慮なく強い物言いをする遥さまのことを、花奏はとても好きだと思っている。
かっこいい3年生だ。
その3年生の家系に入れたことは誇りであるし、寮長として人の上に立ち、キリリとした姿を見るとほれぼれする。
誰かを指導している時の姿勢も大好きだ。
その視線が自分に向いてさえいなければ。
だから今、自分を呼ぶその声の勢いに、何事かと目を剥いた。
「花奏!」
「は、は、はいぃ!遥さま!?どうされました??」
事態が飲み込めないまま、慌てて小走りに近寄ると、遥さまは花奏の手を掴んだ。
「捕まえたわよ…」
「一体どうしたって言うんですか!?」
「どうした?」
ふっと吐き出すように笑った遥の様子に、妙に恐ろしさを感じつつ、花奏は慎重に様子を伺った。
わ、私、何かしたっけ…?
思い出せない。どうしても。
いや、何もしていないとは言わないけれど、体育祭中にこんな風に押し掛けてこられるような悪さをした覚えはない。
しかし明らかに相手は苛立っている。花奏の目線は思わず泳いだ。
「ちょっといらっしゃい」
「な、なんでですか?」
動揺して引き腰の花奏に、遥さまは不機嫌そうに眉を顰めた。
そしてじっと睨むように見つめながら、一段低い声で問いかけてきた。
「花奏。あなたは私の何なの?」
「え?」
「言ってごらんなさい」
「も、もちろん、それは家系の先輩です。ひとみさまの助言者ですから。私にとっても特別な、人ですよ」
精一杯ベストな答えを探して、へらりと笑って答えると、へええと言った冷めた眼差しを向けられる。
「特別な、人ねえ。私が特にそれを望んでいなくても?」
「え、ええ」
花奏は頷いた。
遥さまが特に家系にこだわってないことは知っているが、それと花奏が慕う気持ちがあるのは別問題だ。
普段からそう思って懐いているし、それを邪険に扱われたこともない。
黙認されているのだから、受け入れられているはずだ。
だから迷うこともなくそう答えたのだが、遥さまはそんな答えなど、百も承知だったのだろう。
軽く頷いてから、口元だけ笑ってみせた。
悪役じみた笑い方だった。
「ならこういう場合、いらっしゃい、と言われたら?」
「え?」
「いらっしゃい、と言われたら。私が特別だと思っている貴女はなんと言うべきなの?」
「ええと…かしこまりました?」
誘導尋問としか思えない問いに、深く考えずに答えると。
「分かっていればいいのよ」
遥さまは、花奏の手を掴んだまま、歩き出した。
「えええ!?なんかおかしいですよ?!」
「お黙り!」
ぴしゃり!と言った様子で一喝されれば、もう口を閉ざすしかない。
後は黙々と進む背に、一先ず逆らわずについていく。
言いたいことがないわけではない。
しかし、これだけ強く言う遥さまは異常事態。
ここは家系の末子として、大人しく言うことを聞くべきなのだろう。
それが信頼の証。け、決して恐ろしいから素直に言うことを聞いているわけでは、ない。
妙に言い訳がましいことを考えつつ、遥に従って歩いていると。
しばらくしてから、ぽつりと遥は呟いた。
「バカなのよ、あの子は」
あの子、と言われて。
花奏に思いつくのは1人しかいなかった。
…お姉さま、何したんだろう?
借り物競争も終盤、という頃に、黄組の待機場所に現れたのは、市原遥だった。
愛らしい見た目とは裏腹に、いざというときには遠慮なく強い物言いをする遥さまのことを、花奏はとても好きだと思っている。
かっこいい3年生だ。
その3年生の家系に入れたことは誇りであるし、寮長として人の上に立ち、キリリとした姿を見るとほれぼれする。
誰かを指導している時の姿勢も大好きだ。
その視線が自分に向いてさえいなければ。
だから今、自分を呼ぶその声の勢いに、何事かと目を剥いた。
「花奏!」
「は、は、はいぃ!遥さま!?どうされました??」
事態が飲み込めないまま、慌てて小走りに近寄ると、遥さまは花奏の手を掴んだ。
「捕まえたわよ…」
「一体どうしたって言うんですか!?」
「どうした?」
ふっと吐き出すように笑った遥の様子に、妙に恐ろしさを感じつつ、花奏は慎重に様子を伺った。
わ、私、何かしたっけ…?
思い出せない。どうしても。
いや、何もしていないとは言わないけれど、体育祭中にこんな風に押し掛けてこられるような悪さをした覚えはない。
しかし明らかに相手は苛立っている。花奏の目線は思わず泳いだ。
「ちょっといらっしゃい」
「な、なんでですか?」
動揺して引き腰の花奏に、遥さまは不機嫌そうに眉を顰めた。
そしてじっと睨むように見つめながら、一段低い声で問いかけてきた。
「花奏。あなたは私の何なの?」
「え?」
「言ってごらんなさい」
「も、もちろん、それは家系の先輩です。ひとみさまの助言者ですから。私にとっても特別な、人ですよ」
精一杯ベストな答えを探して、へらりと笑って答えると、へええと言った冷めた眼差しを向けられる。
「特別な、人ねえ。私が特にそれを望んでいなくても?」
「え、ええ」
花奏は頷いた。
遥さまが特に家系にこだわってないことは知っているが、それと花奏が慕う気持ちがあるのは別問題だ。
普段からそう思って懐いているし、それを邪険に扱われたこともない。
黙認されているのだから、受け入れられているはずだ。
だから迷うこともなくそう答えたのだが、遥さまはそんな答えなど、百も承知だったのだろう。
軽く頷いてから、口元だけ笑ってみせた。
悪役じみた笑い方だった。
「ならこういう場合、いらっしゃい、と言われたら?」
「え?」
「いらっしゃい、と言われたら。私が特別だと思っている貴女はなんと言うべきなの?」
「ええと…かしこまりました?」
誘導尋問としか思えない問いに、深く考えずに答えると。
「分かっていればいいのよ」
遥さまは、花奏の手を掴んだまま、歩き出した。
「えええ!?なんかおかしいですよ?!」
「お黙り!」
ぴしゃり!と言った様子で一喝されれば、もう口を閉ざすしかない。
後は黙々と進む背に、一先ず逆らわずについていく。
言いたいことがないわけではない。
しかし、これだけ強く言う遥さまは異常事態。
ここは家系の末子として、大人しく言うことを聞くべきなのだろう。
それが信頼の証。け、決して恐ろしいから素直に言うことを聞いているわけでは、ない。
妙に言い訳がましいことを考えつつ、遥に従って歩いていると。
しばらくしてから、ぽつりと遥は呟いた。
「バカなのよ、あの子は」
あの子、と言われて。
花奏に思いつくのは1人しかいなかった。
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