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第三章 5月‐結
お姉さま、勝負です! 7 ~小牧ひとみのやる気~
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『ひとみの出場競技が一つ!?何、バカなことを言っているの!今から1番走者代わり!?あなた今日一日体力使わず元気なんて有り余ってるでしょう!アンカーで走りなさい!そして一滴も余力を残さずやり切りなさい!』
『元気は有り余ってますけど、やる気が欠片もなくて…』
本当は遥さんの逆鱗に触れ、やる気は出てきていたのだが、欲が出た。
もう少し堪能したくなって口が勝手に動いていた。
思った通り、遥さんはますます激情を募らせたようだった。
『私を怒らせて、やる気がないですって?!』
『遥さんのおかげで、急激にテンションは上がってます。今、半分くらいまできてます』
『全力以外あり得ないですしょう?!』
遥さんこそ、今この時全力だ。
構ってくれることが嬉しくて、ひとみはつい欲を出した。
『全力で頑張ったら、何かご褒美を下さいますか?』
『あげるわけがないでしょう!?1位とれたら、それだけでご褒美と知りなさい!』
あげるわけがない、と断言されてしまった。ショックだった。
…我ながら、失言だったとは思う。どさくさに紛れてご褒美を強請ってしまっったのが裏目に出た。
思い出してみると、昨年の体育祭では、ペアなり立てだったこともあってか、遥さんは軒並み良い結果を出したひとみを、随分褒めてくれた。
『すごいのね。びっくりしたわ』
そうして違う組だというのに、良くやったと言わんばかりに頭を撫でてくれた。とても嬉しかった。
普段、ひとみの高身長もあってか、平均よりも背の低い遥さんがそんなことをしてくれることはほぼない。
それだけに嬉しくて、あの感動をもう一度得たいと思いついたのだが。
遥さんに叱ってもらったのは嬉しかったが、ご褒美がないとしればやる気は半減だ。
自業自得と言われても、再びなくなったやる気は戻ってこない。
しかも花奏は別の組。
応援ももらえない。
…適当に流して終わろう。
そうひとみは思った。
良い具合に、3組目の走者に入ったリレーの1位は黄組。2位が赤組でその僅差で3位が白組。
そのまま現状維持程度に走れば、なんとなく仕方ないと思って終われるだろう。
いつも気配のないと言われる状態から、更に覇気をなくしていく。
もしかしたら人によっては、そこにひとみがいることが分からないかもしれない。
ひとみは空気のように静かだったが、体育祭は最終競技ということもあり、大いに盛り上がっている。
…騒がしくて、なんかよその世界みたい。
どこかシュールな感覚に陥りながら、スタート地点に立って後方からやってくるバトンに集中した。
黄組のアンカーが走りだし先頭でバトンパスをする。
少し間を置いて赤組のアンカーが走り出す。
それに呼吸を合わせるように、ひとみも助走に入った。
ほどなく後方に伸ばしていた手にバトンの感触があり、しっかり握りしめると赤組の選手に呼吸を合わせて走り出す。
この人に適当についていこう。
ペースメーカーに合わせて走ればいいやという軽い気持ちで、ひとみはそう選択をした。
力強い走りに巻き込まれるようにペースが上がり、その選手が速いことにはすぐに気づいた。
ああ…でも疲れてるかな。
呼吸を合わせているので、その乱れに気付くのは早かった。
全力の時なら、付いていくのは難しかったかもしれない、と思う。
まあ、いいか。
思ったより早めだが、やる気のない体でもギリギリついていけないわけではない。
そうして走っていると、なんとなく黄組の選手を抜いてしまう。
ひとみも徐々に呼吸も荒くはなるが、冷静にそのままの調子で。
ぴったりと影のように赤組のアンカーの後ろをついていった。
最後のコーナーを曲がり終えて、直線ライン。
ゴールが見えた瞬間も、特に感動はなかった。
これは作業なのだ。
体育祭というイベントを終えるため。
ひとみにとって、そのことはあまり意味がなく、だが終わらせないわけにはいかなかった。
だからゴールまで走れば、役割は終わる。ただそれだけのことだ。
それだけのことだった。
「お姉さまー!」
その声が聞こえるまでは。
『元気は有り余ってますけど、やる気が欠片もなくて…』
本当は遥さんの逆鱗に触れ、やる気は出てきていたのだが、欲が出た。
もう少し堪能したくなって口が勝手に動いていた。
思った通り、遥さんはますます激情を募らせたようだった。
『私を怒らせて、やる気がないですって?!』
『遥さんのおかげで、急激にテンションは上がってます。今、半分くらいまできてます』
『全力以外あり得ないですしょう?!』
遥さんこそ、今この時全力だ。
構ってくれることが嬉しくて、ひとみはつい欲を出した。
『全力で頑張ったら、何かご褒美を下さいますか?』
『あげるわけがないでしょう!?1位とれたら、それだけでご褒美と知りなさい!』
あげるわけがない、と断言されてしまった。ショックだった。
…我ながら、失言だったとは思う。どさくさに紛れてご褒美を強請ってしまっったのが裏目に出た。
思い出してみると、昨年の体育祭では、ペアなり立てだったこともあってか、遥さんは軒並み良い結果を出したひとみを、随分褒めてくれた。
『すごいのね。びっくりしたわ』
そうして違う組だというのに、良くやったと言わんばかりに頭を撫でてくれた。とても嬉しかった。
普段、ひとみの高身長もあってか、平均よりも背の低い遥さんがそんなことをしてくれることはほぼない。
それだけに嬉しくて、あの感動をもう一度得たいと思いついたのだが。
遥さんに叱ってもらったのは嬉しかったが、ご褒美がないとしればやる気は半減だ。
自業自得と言われても、再びなくなったやる気は戻ってこない。
しかも花奏は別の組。
応援ももらえない。
…適当に流して終わろう。
そうひとみは思った。
良い具合に、3組目の走者に入ったリレーの1位は黄組。2位が赤組でその僅差で3位が白組。
そのまま現状維持程度に走れば、なんとなく仕方ないと思って終われるだろう。
いつも気配のないと言われる状態から、更に覇気をなくしていく。
もしかしたら人によっては、そこにひとみがいることが分からないかもしれない。
ひとみは空気のように静かだったが、体育祭は最終競技ということもあり、大いに盛り上がっている。
…騒がしくて、なんかよその世界みたい。
どこかシュールな感覚に陥りながら、スタート地点に立って後方からやってくるバトンに集中した。
黄組のアンカーが走りだし先頭でバトンパスをする。
少し間を置いて赤組のアンカーが走り出す。
それに呼吸を合わせるように、ひとみも助走に入った。
ほどなく後方に伸ばしていた手にバトンの感触があり、しっかり握りしめると赤組の選手に呼吸を合わせて走り出す。
この人に適当についていこう。
ペースメーカーに合わせて走ればいいやという軽い気持ちで、ひとみはそう選択をした。
力強い走りに巻き込まれるようにペースが上がり、その選手が速いことにはすぐに気づいた。
ああ…でも疲れてるかな。
呼吸を合わせているので、その乱れに気付くのは早かった。
全力の時なら、付いていくのは難しかったかもしれない、と思う。
まあ、いいか。
思ったより早めだが、やる気のない体でもギリギリついていけないわけではない。
そうして走っていると、なんとなく黄組の選手を抜いてしまう。
ひとみも徐々に呼吸も荒くはなるが、冷静にそのままの調子で。
ぴったりと影のように赤組のアンカーの後ろをついていった。
最後のコーナーを曲がり終えて、直線ライン。
ゴールが見えた瞬間も、特に感動はなかった。
これは作業なのだ。
体育祭というイベントを終えるため。
ひとみにとって、そのことはあまり意味がなく、だが終わらせないわけにはいかなかった。
だからゴールまで走れば、役割は終わる。ただそれだけのことだ。
それだけのことだった。
「お姉さまー!」
その声が聞こえるまでは。
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