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第三章 5月‐結
お姉さま、勝負です! 8 ~小牧ひとみのやる気~
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騒がしいだけに思える周りから聞き逃すはずもない声が聞こえて、息がとまりそうになる。
「お姉さま、頑張って!!」
だが、2度目のその声が聞こえれば、息を止めている場合ではない。
声に引き寄せられてそちらを見ると、ゴール地点のすぐ隣に、花奏の姿が見えた。
その辺りが妙に華やかに見える。
そして。
「前を見なさいっ。そして勝ちなさいっ!ひとみ!」
愛らしい姿と不似合すぎる程大きな声で、遥さんの声も聞こえた。
ただそれだけだった。
でもひとみには充分な出来事だった、
走るためだけに振っていただけの手に力が宿った。
足も踏み込む力は強くなる。
心から漲るものを感じた。
はい、頑張ります。
勝ちます。
ゴールまでの距離はあと僅か。
それを冷静に感じながら、腕に、足に、そして体に力を込めた。
歯を食いしばって、一歩に力を込め、地面を思い切り跳ねる。
まだ、足りない。もっといける。
望んで貰っているのだから、脇役から主役に這い上がらなければならない。
追い越すには充分の距離。
ゴール寸前のペースアップはしんどいけど。
やる気が出たら、頑張るだけ。
心臓に大きく負担がかかるような感触を受けながら、でもこの瞬間は壊れてもいいと思った。それでも構わない。
ひとみは大きく前に出た。
最後のテープを切る最後の瞬間まで渾身の走りをくり出した。
より大きくなった歓声は聞こえた。
どうでも良かった。
ゴールしてしまって、流石に余裕などない。オーバーヒートだ。
スイッチが切れたように座り込んで、顔を伏せて体が欲するままに酸素を求めて呼吸をする。
苦しかった。
「お姉さまっ」
近くで聞こえた声に、思わず縋るように手を伸ばす。
これは、どうでもよくない声だ。
相手の手の方が先にしがみついて来る。顔を上げると、目の前にいる花奏は目を見開いてからにっこり笑った。
「お疲れさまでした」
「うん」
「格好良かったですよ」
「うん」
キラキラしている花奏がそこにいるのが嬉しくて、口元に笑みが浮かんでしまう。
だらしないと叱られそうな気もしたが、叱られてもいいか、と思った。
だってこんなに可愛いのだから。
こんなにも可愛い存在が、今独り占め出来出る。これが笑わずにいられようか。
うんうんと繰り返し頷くと、違う方向から手が伸びて来て、ひとみの頭を撫でた。
「よくやったわ」
愛らしい姿に不似合な程、不遜な物言い。
それがこよなくお似合いの遥さんの声に、目を細め、ますます顔がだらけた。
大好きな助言者に撫でてもらえたのが嬉しかった。
「1位でもなきゃ、絶対褒めなかったわよ」
にやけ顔のひとみに、くぎを刺すような少し腹立たしげな声は聞かなかったことにした。
今、褒めてもらえてるのだから、些事に気を取られる必要はない。
「1位だったので、沢山褒めてください」
「調子に乗るんじゃないわよ」
おでこをこつんと叩かれて、思わずふふっと吹き出してしまう。
「だめだわ、反省する気がない」
呆れたようなお姉さまは、ため息をついた。
乾いた笑いを花奏は漏らしてから、ふと心配そうに眉を下げた。
「遥さまに連れてこられて咄嗟に応援しちゃいましたけど、私、黄組に戻ったら怒られませんかね」
「ひとみが連帯責任で怒られればいいのよ」
「私は一緒に怒られても構わないけど…」
遥さんの言葉に頷くと、花奏は曖昧に笑って肩を竦めた。
「いや、それは結構です…」
それから、少し考えるように間を置いてから、にっこり笑いなおす。
「なんか最後に楽しかったですし、良かったことにします」
その笑顔がまぶしく感じて、思わずひとみは目を細めた。
「ひとみ、貴女が真面目にやってれば、私たちはちゃんと見てるんだから。勝手に拗ねてやる気を半減させるんじゃないわよ」
遥さんが、念を押すように言った。
ああ、そうか。
これには、ひとみも頷いた。
私が選んだ助言者とメンティなのだから、それもそうかと。
「そうですね。いつでも頑張ってれば、絶対に遥さんに撫でてもらえると思えれば、頑張れそうです」
「……貴女、わざと言ってるでしょう?」
すぐに目に険を籠めた遥さんに、にっこり笑ってから、このまま個人指導を言い渡されてもいいなあと、心のそこでこっそり思った。
確かに、ちょっと信頼が足らなかったかもしれない。
今日最後の瞬間まで、一人ひとりが主役、ではなく。
もう少し図々しく、この二人がいれば、ずっと主役でいてもいいかと思う。
面倒だし疲れるけど。
それが、ペアの翼なんじゃないかなと、ひとみは幸福感に浸りながら思った。
「お姉さま、頑張って!!」
だが、2度目のその声が聞こえれば、息を止めている場合ではない。
声に引き寄せられてそちらを見ると、ゴール地点のすぐ隣に、花奏の姿が見えた。
その辺りが妙に華やかに見える。
そして。
「前を見なさいっ。そして勝ちなさいっ!ひとみ!」
愛らしい姿と不似合すぎる程大きな声で、遥さんの声も聞こえた。
ただそれだけだった。
でもひとみには充分な出来事だった、
走るためだけに振っていただけの手に力が宿った。
足も踏み込む力は強くなる。
心から漲るものを感じた。
はい、頑張ります。
勝ちます。
ゴールまでの距離はあと僅か。
それを冷静に感じながら、腕に、足に、そして体に力を込めた。
歯を食いしばって、一歩に力を込め、地面を思い切り跳ねる。
まだ、足りない。もっといける。
望んで貰っているのだから、脇役から主役に這い上がらなければならない。
追い越すには充分の距離。
ゴール寸前のペースアップはしんどいけど。
やる気が出たら、頑張るだけ。
心臓に大きく負担がかかるような感触を受けながら、でもこの瞬間は壊れてもいいと思った。それでも構わない。
ひとみは大きく前に出た。
最後のテープを切る最後の瞬間まで渾身の走りをくり出した。
より大きくなった歓声は聞こえた。
どうでも良かった。
ゴールしてしまって、流石に余裕などない。オーバーヒートだ。
スイッチが切れたように座り込んで、顔を伏せて体が欲するままに酸素を求めて呼吸をする。
苦しかった。
「お姉さまっ」
近くで聞こえた声に、思わず縋るように手を伸ばす。
これは、どうでもよくない声だ。
相手の手の方が先にしがみついて来る。顔を上げると、目の前にいる花奏は目を見開いてからにっこり笑った。
「お疲れさまでした」
「うん」
「格好良かったですよ」
「うん」
キラキラしている花奏がそこにいるのが嬉しくて、口元に笑みが浮かんでしまう。
だらしないと叱られそうな気もしたが、叱られてもいいか、と思った。
だってこんなに可愛いのだから。
こんなにも可愛い存在が、今独り占め出来出る。これが笑わずにいられようか。
うんうんと繰り返し頷くと、違う方向から手が伸びて来て、ひとみの頭を撫でた。
「よくやったわ」
愛らしい姿に不似合な程、不遜な物言い。
それがこよなくお似合いの遥さんの声に、目を細め、ますます顔がだらけた。
大好きな助言者に撫でてもらえたのが嬉しかった。
「1位でもなきゃ、絶対褒めなかったわよ」
にやけ顔のひとみに、くぎを刺すような少し腹立たしげな声は聞かなかったことにした。
今、褒めてもらえてるのだから、些事に気を取られる必要はない。
「1位だったので、沢山褒めてください」
「調子に乗るんじゃないわよ」
おでこをこつんと叩かれて、思わずふふっと吹き出してしまう。
「だめだわ、反省する気がない」
呆れたようなお姉さまは、ため息をついた。
乾いた笑いを花奏は漏らしてから、ふと心配そうに眉を下げた。
「遥さまに連れてこられて咄嗟に応援しちゃいましたけど、私、黄組に戻ったら怒られませんかね」
「ひとみが連帯責任で怒られればいいのよ」
「私は一緒に怒られても構わないけど…」
遥さんの言葉に頷くと、花奏は曖昧に笑って肩を竦めた。
「いや、それは結構です…」
それから、少し考えるように間を置いてから、にっこり笑いなおす。
「なんか最後に楽しかったですし、良かったことにします」
その笑顔がまぶしく感じて、思わずひとみは目を細めた。
「ひとみ、貴女が真面目にやってれば、私たちはちゃんと見てるんだから。勝手に拗ねてやる気を半減させるんじゃないわよ」
遥さんが、念を押すように言った。
ああ、そうか。
これには、ひとみも頷いた。
私が選んだ助言者とメンティなのだから、それもそうかと。
「そうですね。いつでも頑張ってれば、絶対に遥さんに撫でてもらえると思えれば、頑張れそうです」
「……貴女、わざと言ってるでしょう?」
すぐに目に険を籠めた遥さんに、にっこり笑ってから、このまま個人指導を言い渡されてもいいなあと、心のそこでこっそり思った。
確かに、ちょっと信頼が足らなかったかもしれない。
今日最後の瞬間まで、一人ひとりが主役、ではなく。
もう少し図々しく、この二人がいれば、ずっと主役でいてもいいかと思う。
面倒だし疲れるけど。
それが、ペアの翼なんじゃないかなと、ひとみは幸福感に浸りながら思った。
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