拝啓、お姉さまへ

一華

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第四章 6月

体育祭のあくる日は 1

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「黙っていて、どうもすみませんでした!」
清葉寮の寮長である市原遥の部屋で、迎え入れられて開口一番、柚鈴は謝り頭を下げた。
今日は、体育祭あくる日。
体育祭の次の日とあって、学校は休校。一日羽を伸ばしていいことになっている。
本当は昨日のうちにしておきたかったのだが、片づけだなんだとバタバタして、寮に帰り着いたのも中々遅い時間になっていた。

なによりも昨日柚鈴が遥先輩の元にたどり着かなかった理由と言えばあれだろう。
志奈さんとの賭けの結果だ。

片付けも終わり、部屋に戻ってから見た携帯に表示された志奈さんからメッセージが最後の気力を奪った。
「今日はお疲れさま。お願いごと、じっくり考えたいからちょっと時間を下さい」とハートマーク付きで。
…以前、薫のことでお礼を申し出た時は遠慮してもらえたので、もしや今回もなどと都合よく期待したりもしたが
淡い期待は裏切られた。自業自得なのだけど。

だが、しかし。
体育祭の組対抗リレー最後の結果は、柚鈴には衝撃的だったと言っていい。
絶対に薫がアンカーなら赤組か勝つと確信して疑わなかった。
まさか小牧先輩がゴール寸前、急にピッチを上げて追い抜いてくるとは思っていなかったのだ。
そもそも存在感が無さ過ぎて、薫しか見ていなかったから余計だ。
後で花奏に聞けば、小牧先輩は何故新体操部にいるのかが分からないほどの記録を持っているらしい。
昨年までの体育祭ではそれはそれは大活躍だったらしく、最後の大歓声はそれを知っている生徒達によってだったらしい。
『ひとみお姉さまって、ちょっと存在感に問題ありだもんねえ』
思わぬ伏兵の勝利に茫然自失になったままの柚鈴を、閉会式後に気付いた花奏が明るく笑いとばした。
『まあ、柚鈴ちゃんの秘密には私もびっくりしたから、おあいこってことで』

そう言われて気づいて、どうにか花奏にはお詫びを言った気がする。
まあま気にしないで、と花奏はあっさりした様子で、ほっとした。
自身の助言者メンターである小牧先輩のどこか異質な存在感もまるっと受け入れている花奏には、さほど問題でもなかったのかもしれない。
ほっとしたら、そのまま魂の抜けたような状態に戻ってしまった。
勝てたはず…勝ててたはずなのに…と。

『ちょっと柚鈴さん?しっかりして』
明智絵里が心配そうに声を掛けてくれたが、何と答えたやら。とりあえず指示されるがまま、片づけをしたことは覚えている。

それくらい志奈さんの「何でもお願い事を聞く」の意味は、じんわりのしかかって憂鬱だった。
…賭けなんて気軽に受けるんじゃあなかった。
あの人の何でも、って何なのか想像もつかない。

本当なら体育祭が終われば、色々問題事が片付いてる気がしていたけれど、このざまはどうだ。
問題の東郷先輩は、一難去ったとは言え、どうやらまだ諦めていないらしい。
志奈さんが義姉であることを皆に黙っているという悪事は、志奈さんによってばらされたが、遥先輩にはまだお詫びもしておらず、そのほかの方々の反応はこれからだろう。
そして志奈さんとの賭けに負け、何かお願い事を聞くことになる…
片付いてないどころか、なにやら荒波と化している気がする。
そんなこんなで夜寝て起きるまで、気持ちが落ち着かないまま過ごしてしまったのだ。

もちろん朝になれば気持ちも多少は整理が出来る。そうだとりあえず出来ることからやろうと思い至って、朝食後にまず向かったのが遥先輩の部屋だった。

遥先輩はいつもどおり、フリルの可愛いワンピースとツインテールが良くお似合いのお姿で、謝られたことがどこか不思議と言わんばかりに小首を傾げた。
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