拝啓、お姉さまへ

一華

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第四章 6月

子羊の悩みは尽きなくても 3

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「頭ぱにくるぅ…」

数日たった夕食時に。
唸るように言ったのは、幸だった。
作品を完成させないと話にならないと、ここ数日は学校から寮に帰るとすぐに部屋こもって作業しているようだが、東組には山のような学校の課題もある。
あまり時間があるとは言えず、思うように話の完成も進まないようだった。
目がくるくるする、と言わんばかりに疲れた様子だ。

「やっぱり大変?」
「うんー。大筋の話は決めてるんだけど、元々選ばれることはないだろうと思って書いてたところもあったから。変えないといけないところが本当、多くて多くて」
「そうなの?」
「一番の問題は今の状態だと男性の出番が少すぎるってことかな。生徒会からももっと増やすように言われてるんだよね」
幸が書いているのは今度の常葉祭のために作成される常葉学園と尭葉学園の生徒会合同作品の元になるもの。
確かに女性ばかりが目立つ作品ではいけないのだろう。
しかし男性が苦手、という幸が男性の出番が少なかったのは仕方がない、ということかもしれない。

「それって結構話変わっちゃう?」
「そんなことはないよ。ただ男の人の会話とか想像があんまりつかなくて、自然と減っちゃったんだよね」
「ふうん」
そんなものなのかと柚鈴は相槌を打ってから、中身に興味が湧いた。

「どんな話なの?」
柚鈴が尋ねると、幸は目の前の食事を幸せそうに見つめてから教えれくれる。
「元々はね、3年前に生徒会が作った映画の原作をリメイクしたものなの」
「3年前?」
3年前の常葉祭。
今回と同じように尭葉学園との合同作品を作った年ということになる。
幸は食事を開始しつつ、その時の映画『お嬢様の休日』という話のあらすじを教えてくれた。

お金持ちのお嬢様の家出話。
そして仄かな恋愛話。
ロマンチストなお話だと思いつつ、あらすじの簡単な説明で、感想としてはそれ以上もそれ以下もない。

「先輩方が言うには、大作だったらしいよ」
「へえ」
柚鈴はピンと来ない様子で、返事をしてみせた。
すると幸はにやりと笑った。

「やっぱり知らないんだ」
「何を?」
反射的に質問すると、それを待っていたといった様子で、幸は目を輝かせた。
「『お嬢様の休日』に誰が出ていたか、とか」
「誰って…」
3年前、なんて知るわけがない。
そう思ったものの、その幸の含みのある言い方に引っかかっる。
つまり柚鈴の知っている誰かが出ていたということだ。
となると思い当たる節があった。

「まさか…」
「うん、柚鈴ちゃんのお姉さんが出てたらしいよ。しかも主役」
「し、主役ぅ?」
思わず大きな声が出た。
3年前と言えば、志奈さんは当然1年生である。
生徒会のお手伝いをしてたとはいえ、2年3年の先輩方を差し置いて、主役になるとはどういうことだ。

「私も詳しいいきさつは知らないんだけど。その映画が他の生徒の皆さんにすっごく受けたことが、小鳥遊志奈生徒会長が誕生することになる道筋を作ったとも言われているんだって」
一体だれの受け売りなのか、幸はどこか芝居がかった言い方で説明してくれた。
「そんなに面白く仕上がった映画なの?」
「残念ながら私も見たことないんだけどね。ほら大学部に言った時、陸上部の卒業生が柚鈴ちゃんのお姉さんのこと『お嬢』って呼んでたでしょう?あれも映画の影響らしいんだよね」
「え…」
確かに。
確かにそんな風に呼ばれていた気がする。
つまり志奈さんが常葉学園でカリスマ的人気を誇ったのは、本当に1年生の時のその映画主演がきっかけということだろうか。
女優・小鳥遊志奈、と言ったらいいのかなんなのか。

「どこまですごい映画だったんだろう」
思わず柚鈴から声が漏れた。
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