拝啓、お姉さまへ

一華

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第四章 6月

子羊の悩みはつきなくても 4

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「見たいよね?学校保管分の映像ディスクは貸出禁止みたいで見れないんだけど、もしかして柚鈴ちゃんのお姉さん、持ってないかな?見れたらみたいなあ」
「え、どうなんだろう」

幸の強請るような目線に戸惑いつつ、柚鈴も興味が湧いてしまう。
志奈さん主演の映画。
しかも大作と言われれば。
見てみたい…

柚鈴が素直におねだりすれば、志奈さんなら手元に持っていなかったとしても、全力でどうにか手に入れて、見せてくれる気がする。
いや。もちろん素直におねだりなんて出来ないけれど、幸の希望という建前があれば、柚鈴も頑張れそうな気がした。
素直になれない病は根が深いのだ。

「幸ちゃん、見たい?」
「見たいよ~。その作品みたら、私の貧弱な想像力もフル回転しちゃうかもしれないよ~」
柚鈴の希望通りの返事を返してくれて、嬉しくなってしまう。
建前はゲットした。
これは頑張れそうだ。

「そっか。うん、聞いてみるね」
「わ~ありがとう!」
満面の笑みが幸から零れた。
「で、その映画の原作を、幸ちゃんはどうリメイクしたの?」
柚鈴が話を促すと、幸はお味噌汁を一口食べてから、少し内容を纏めるようにしてから説明してくれた。

「時代背景は同じで、主人公はやっぱりお金持ちのお嬢様でね」と。

お嬢様は頭が良い才女。
結婚よりも優秀な大学に入って勉強がしたいと思っているが彼女の母親は女の子は結婚するから勉強なんてしなくていいと、花嫁修業をさせようとする。
お嬢様は反発して家でしてしまう。
そして逃げ込んだ場所は男子校の寮。
そこで出会った貧乏学生の生活や夢に触れるうちに、お嬢様自身も自分の夢を再確認することになる。
そうして両親に掛け合い、父親を味方につけて、とうとう海外留学することになった、という流れらしい。

「……なんか面白そう」
「本当?」
「うん、私好きだな」
ラブロマンスではなくなり、なんだか主人公も勢いのある設定になっていて、それが幸らしい気がする。
正直、柚鈴もラブよりもそういった意欲的な女の子の話の方が共感出来る気がする。

「凛子先輩もそうだったのかな」
幸のつぶやきに、柚鈴はどうなんだろう、と首を傾げた。
そういえば凛子先輩がどうして幸の作品にこだわっているんだろう、というのは謎である。
もちろん単に話の設定が好きだったという可能性もあると思うけど、どうもそれだけではない気もする。
だって作品は未完成。
文芸部からは他に完成した作品もあった中で、わざわざ未完成の幸の作品にした理由が分からない。

「しかも何かの噂の元になるんだったっけ?」
「みたいだねえ」
幸はう~んと思案してから、肩をすくめた。
「ま、いいか。分からないことを考えても仕方ないし」
「そうだね。幸ちゃんはまず完成させないとだね」
「う、うん」
「何もできないけど応援はしてるから頑張ってね」
我ながら無責任な発言だと思いつつ、柚鈴は励ました。

「うん、頑張る。でもでも難しいよ。男子学生なんて想像もつかなくて」
幸が愚痴をこぼした時。

「柚鈴、幸。一緒してい?」
大盛りのご飯を乗せたトレイを持ってきたのは薫だった。
「あ、薫。お帰り。今日の部活は終わったんだ」
「ただいま。さっき帰ってきたとこだよ。ちょうど良かった。柚鈴さ、宿題で分かんないとこがあるんだよ。後でちょっと教えてよ」
「うん、良いよ」
部活帰りで爽やかな薫の様子を幸はじ~っと見つめる。
「……」
「なに、幸。どうしたの?」
「そうか。薫だと思って書こう」
「ん?」
薫が不審そうに幸を見つめると、幸は納得したようにうんうんと、大きく頷いた。

「薫という女子に人気の少年風の存在を忘れていたよ」
「こら、ちょっと聞き捨てならないこと言い出すんじゃない。誰が少年だ」
「褒めてるんだよ」
「ほめてるように聞こえないんだよ」
「ま、まあまあ」
薫が憤って見せるのを柚鈴はどうどう、と落ち着かせた。
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