拝啓、お姉さまへ

一華

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第四章 6月

お姉さま、心から大切にしたいものって、何ですか? 4

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だがおかげで、さっきよりは気持ちが軽い。
内容が内容なので遥先輩の耳に入ってはまずいが。

熱心に幸の原稿を読んでいる遥先輩の耳に入らないよう、柚鈴は幸の側に座りなおしてから、出来る限り小さな声で言われたことを話した。

一通り話すと。
「それ、本当の話?」
声が大きくなった幸に慌てて、人差し指を立てて静かにするように促す。
それから遥先輩の様子を見た。
聞こえてないわけではないだろうが、遥先輩は変わらず原稿を目を通している。
それだけ話が面白いのか、もしくは一年生の話の邪魔をしないように気を使ってくれているのか、その両方か。
判断はつかないが、ひとまず聞かれていないということにする。

「わかんない」
柚鈴がそう答えると
「う~ん…」
幸は大げさに考え込んで見せた。

「ネタ元を東郷先輩だと思うと、少々疑わしい気もする」
「え、ええと。でも、その東郷先輩が立てた噂と言うわけでもないだろうし」
「あ、そっか。ふむ」
中々、幸にとっての東郷先輩の評価は低いようだ。
もちろんその言い方のわけには、柚鈴の悩みを軽くしようとする幸の気遣いも入っているのだろう。
そして東郷先輩自身の、今までの柚鈴へのアプローチの強さを考えれば仕方ない面もあるのも事実だ。

だが、柚鈴の方は何故かフォローする側になってしまう。
助けてもらった事実もある。
東郷先輩の言葉をまるっと受け入れているわけでもないのだけど、跳ね除けるほど強くも思えない。

それも柚鈴の個性なのだろう。いいのか悪いのかは…おいておくとしても。
自分自身に少し呆れていると、幸は何かを思いついたようだった。

「ね。もしそれが本当の話だとしたらね」
「したら?」
「…」

幸は言いにくそうに一度言葉を詰まらせた。
それから柚鈴だけに聞こえるようにこそこそと声を落とす。
「あの話が良いって凛子先輩が言ったのって、柚鈴ちゃんのお姉さんが主役やった話と似てたから、とかなのかな?」
「え?」
「私としてはね、なんで凛子先輩、完成してないあの話が良かったんだろうって気になってるんだ」
「…」

完成してない幸の作品。
その考えを否定しきれない、と思った。

幸の作品を選ぶと『また噂が広まる』ことになると、生徒会の先輩方は言っていた。
そして凛子先輩と志奈さんの『噂』があると東郷先輩は言ったのだ。
これらの話が一つの話になると、確かにそう繋がってしまう。

つまり…

「面白かったわ。何、あなたたち。なんだかどんよりしちゃって。疲れてるの?」

作品を読み終わったらしい。
遥先輩はからりと明るい声で言った。
こちらの様子など、まるでご存じない、と言った様子だった。

「まあ、そこそこに」
「凛子がどうしてもやりたいって言った話だって聞いたから、どんなものかと思っていたのよ。なるほどねぇ、面白いわ」
凛子先輩の言葉に、幸ははっとした様子になる。

「遥先輩!」
「何かしら?」
「…遥先輩はどうして凛子先輩がその話が良いと思ったか理由をご存じなんですか?」
「え?理由」
「理由です」
繰り返された幸の質問に、遥先輩は小首を傾げてから答えた。
「どうしてって…何かそんなに気になるの?面白いからでしょう?」

その言葉に他意はなさそうだ。
不思議そうな顔を返されれば、幸は言葉を失う。
遥先輩が柚鈴に目線を移した。
「どうかされたの?」
もちろん、この件に悩んでいるのは本当は柚鈴の方なのだから。うっと言葉に詰まる。

「いえ、あの…」
「はっきりおっしゃい。気持ち悪いわ」
怪訝そうな顔で、しかしどこか指示のし慣れた言い方に、柚鈴は屈した。
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