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追跡車

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 三宅と酒井はそれからすぐレストランに向かいイタリアンのフルコース料理をゆっくりと楽しんだ。お宝探しの機器を抱えて三時間も歩き回った後の食事だったのでとてもお腹が空いていたからだった。ついつい追加料理まで頼んでしまったので店を出る頃には五時近くになってしまっていた。
 「今日は有難うな」
 三宅は酒井のアパートの前まで送って行くと、車を停め酒井に宝探しに付き合ってくれたお礼を言った。
 「こちらこそ有難うございました。私も、実は結構楽しかったです。それにお食事もとっても美味しくって大々満足でした」
 「そう、それなら良かった。じゃあ、後はゆっくり休んで、」
 「はい、そうします。あっ、でもっ、その、次は普通のデートが良いかなあ」
 「分かった、そうするよ。じゃあ、また」
 「はい、また、」
 酒井はそう言うと小さく手を振り車から降りていった。
 ブウゥーン
 三宅は酒井に手を軽く上げ挨拶すると車を発進させた。
 バックミラーに映る酒井の姿はすぐに小さくなっていった。
 でもそれに合わせるように突然バックミラーに変な車が入ってきた。まるで割り込まれないようにしてるようにすぐ後ろにピタリとくっついてきていた。
 しかもいつまでも後ろに着いたまま走り続けていた。
 三宅は車を停めて様子をみることにした。気味が悪いし、変に気を使いすぎて事故でも起こしたら大変だと思ったからだった。
 三宅は見晴らしの良い通りで路肩に車を寄せゆっくりと停車していった。
 すると、後ろの車も三宅の車の動きに合わせるようにゆっくりと後ろに停車してきた。
 そして車を停車させると、助手席のドアが開き一人の女が降りて三宅の方に歩いてきた。
 ウイーン
 三宅は窓を開いて女の方に顔を向けた。
 「こんにちは」
 女は微笑みを浮かべ三宅の目を見ながら話しかけてきた。とても身だしなみの良い美しい女性だった。
 「何か用ですか」
 三宅は女に聞いた。用事があるなら早く聞きたかったからだった。
 「ええ、ちょっと」
 「何ですか」
 「少し時間がかかるかもしれないの。隣に座らせてもらっても良ろしいかしら。ここでは交通の迷惑になりますから」
 女はそう言うとまた優しく微笑んだ。
 「そうですね。じゃあ、どうぞ」
 「ありがとう」
 そう言うと女は助手席の方に回り車に乗ってきた。
 「話ってなんですか」
 「失礼ですが、三時間くらい前、城山の昭和塾堂の敷地内に入りましたね」
 「えっ、あっ、はい」
 「侵入禁止のガードフェンスが立っていたと思いますが」
 「えっ、ああ、そうでしたね」
 「許可は取られていませんね」
 「はい、取ってません」
 「それじゃ管理している都合で伺わなくてはいけません、どう言う目的で敷地内に入られたんですか」
 「いや、そう言うことなら、ちょっと、話が長くなるかもしれませんけど」
 「聞かせていただきます」
 「あ、ええ、良いですけど」
 「お願いいたします」
 「分かりました。実は、家の物置からある古文書が見つかったんです」
 「古文書、」  
 「ええ、これなんですけど」
 三宅はスマホに撮った古文書の写真を女に見せた。
 「ちょっと見せてもらっても良ろしいですか」
 女はそう言うとスマホを受け取り古文書を読み始めた。
 「あの、読めるんですか」
 「ええ、少しなら」
 「すごいな」
 「そうでもないですわ。それより、この古文書は本当にあなたのお家に保管されていたものなんですか」
 「はい、」
 「もしかしたら新発見かもしれないわ」
 「城山八幡宮でも神官さんにそう言われました」
 「すると、あなた方はこの古文書に書かれていることを確かめに昭和塾堂の敷地に入ったと言うことなのかしら」
 「そうです」
 「でも、そうなら、中に入らなくても分かったと思うんですけど、あそこは大規模に整地されてるし、建物は古いけど地下階まである建物なのよ。お宝が埋蔵されたまま残っているとはとても考えられないわ」
 「確かにそうでしたね。僕もそうは思いましたけど、何もしないで帰りたくはなかったんです」
 「そう、気持ちは分からなくもないわ。では、今後は許可なくあの敷地に入らないと約束はいただけますね」
 「約束します」
 「よろしくお願いします。それじゃ、私はこれで失礼します」
 そう言うと女はドアを開け外に出て行ってしまった。
 「あ、あの、」
 「あっ、もう後を着いていったりしませんから大丈夫ですよ」
 「あっ、はい、分かりました」
 「では、お気をつけて」
 女はそう言うとドアを閉め後ろの車に戻って行ってしまった。
 「うーん、まあ、良いか」
 三宅は本当は女の連絡先を聞きたかったのだが諦めることにした。どうせあそこにはもう宝探しに行くつもりはないからだった。
 ブウゥーン
 三宅はバックミラーを見ながら車を発進させた。
 後ろの車は女が言っていたようにパーキングランプをつけたまま停まったままだった。着いて来る気配はないようだった。
 三宅はスピードを上げ走り始めた。
 
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