柴犬ゴン太のひとりごと

星 陽月

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【スピン・オフ】改めて、マイケルの一日 のつづき!

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「マイケルーン。どうしてあなたは、そんなにもマイケルンなのー♥」

 わけのわからぬマイケルのご主人の言葉。
 それに辟易(へきえき)しながらも、マイケルは耐える。

「もう、こうしてやるー!」

 再び、ご主人の頬すりすり攻撃が始った。
 自分では女だと言い張っているが、やはり男なのである。
 朝の七時過ぎともなれば、ヒゲが伸びているのだ。
 その頬ですりすりされると、たまったものではない。
 毛で被(おお)われているところはいいが、毛のない鼻先にあたると、

 痛い、痛い、痛い!
 痛いってー!

 ヤスリで削られているのではないかと思うほどの痛みに、マイケルは顔をよじらせるのだった。
 ご主人は、もうウザ過ぎるくらいの抱擁を堪能すると、

「さァ、お風呂に入って、リフレッシュしよーっと。女は身体を美しくしなきゃだわ」

 さっさと脱衣所へ入っていった。
 拷問とも言える朝の抱擁からやっと解放されたマイケルは、ぐったりしながらテクテク歩いてリビングに入った。
 マイケルが寝床にしているクッションで落ち着いていると、バス・ルームからご主人の唄が聴こえてきた。
 唄っているその曲は、鳥羽一郎の「男宿」であった。
 ご主人がリラックスしているときに唄うのが、鳥羽一郎なのだ。
 ご主人は鳥羽一郎が好きなのである。
 リスペクトしているのである。
 さらに、とても近しい存在と感じている。
 恋人と想い込んでさえいる。
 その理由は、ご主人の名前に関係しているのだ。
 その名も、

 ファ……。

 そ、その名も、

 ファ、ファ、ファクション!!!

 失礼。

 ついお日様を見てしまい、その眩しさに鼻がムズムズとなってくしゃみが出てしまった。
 お日様を見ると、なぜに鼻がムズムズとし、

 ファ、クッショイ!!!

 と、くしゃみが出るのであろう。
 お日様の光の中には、コショウが混じっているのではなかろうか。
 で、えーっと、それで話はどこまで進んでいたかな。
 あ、そうか。
 マイケルのご主人の名前だったな。
 って言うか、ご主人の名前、聞きたい?
 別にいいっしょ、聞かなくても。
 この際、割愛しちゃっていいんじゃないかな。
 え? 
 聞きたいの?
 そう、聞きたいんだ。
 そこまで言うならしかたない。
 改めて、ご主人の名前は、

 ファ……。
 は、鼻がムズムズ……。

 え?
 なに?
 そこまで引っ張るなって?
 はいはい、わかりました。
 では、ドラムロール!
 ドルルルルル……。
 ご主人の名前は、その名も、

 戸羽六郎――

 でしたァ。

「…………」

 あれ? 
 どうして、シーンとしちゃうの。
 それに、なに、そのリアクション
 ここは、大爆笑!

「アー、ハッハッハッハッハッ!」

 って、笑うとこでしょうよ!
 え?
 引っ張りすぎて、笑いのツボがずれたって?
 あー、そうですか、すみませんねェ。
 どうせ吾輩は、引っ張りだこですよ。
 え?
 それは意味が違う?
 はいはい、わかりました。
 だから、もういいですって。
 やんややんや、うるさいなァ、もう!
 兎にも角にも、マイケルのご主人の名前は、戸羽六郎なのだよ。
 六郎という名だけに、六人兄弟の末っ子かと思われがちだが、実は二人兄弟の長男である。

「なんだそりゃあ!」

 と、蔑(さげす)んだツッコミがはっきりと聴こえてくるが、事実は曲げられない。
 鳥羽一郎をリスペクトし、さらに北島三郎を神と崇めるご主人。
 ちなみに、新宿二丁目のお店「ピンクロード」で働くご主人の源氏名は「百合子」であった。
 本日はここまで。


「って、コラ! これで終わりかい! マイケルの一日だってのに、朝だけじゃねェか! それもマイケルよりも、ほとんどオカマのご主人、戸羽六郎の話しになってるじゃねェかー!」
「――――」
「オイ、ゴン太! いったいどういうことか、ちゃんと説明しろー!」
「――――」
「オイ! 聴こえてるんだろー! オーイ!」
「――――」
「オーイ! オーイ! オーオ、オーイ!」
「ワン!」
「オイ!」
「ワン!」
「オイ、オイ!」
「ワン、ワン!」
「…………」
「…………」
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