柴犬ゴン太のひとりごと

星 陽月

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【Episode 67】

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 お盆が過ぎ、八月も終わりが近づいて、ほんの少しではあるが暑さが和らいできた。
 ようやく、である。
 夏が来たー、と思ったときははしゃいでいたはずなのに、猛暑やら酷暑やらが連日猛ラッシュでつづくと、とてもじゃないがうんざりする。
 暑さが和らぐのは吾輩にとって非常にありがたい。
 吾輩には、暑さが大敵なのだ。
 それは言うまでもなく、全身毛だけだからだ。
 いっそのこと、夏のあいだだけでも、バリカンなるもので全身の毛を刈り落としてほしいとも思う。
 だが、ときどき散歩の途中で、脚やシッポなどを残して毛を刈っているプードルを見かけ、涼しそうでいいなと思ったりもするが、その姿を自分に置き換えてみてゾッとしたことがあった。
 あれはプードルだから似合うのであって、柴犬の吾輩ならばただのマヌケである。

 ならば、人間が利用するというメンズ・エステで全身脱毛なんてどうか……。

 一瞬、閃きのようにそう思ってみたが、すぐにそう思った自分の愚かさに呆れた。
 まさに愚の骨頂である。
 もしも、全身脱毛などをして河川敷の公園に行けば、みんなの笑いものになるのは火を見るよりも明らかである。
 マイケルには、

「どうした、ゴン太! ハロウィンなら、まだ先だぞ! おれたちを笑わせるために、そこまでやるか! ヒャー、ハハハハハ!」

 と笑い転げるだろうし、ドン・ビトーには、

「なんだそれは! おまえはストリッパーか! ダー、ハハハハハ!」

 と、その先もケナシにケナされつづけるだろう。
 恐るべし、全身脱毛。
 クワバラ、クワバラ。
 しかし、人間はなぜに全身脱毛などする必要があるのだろうか。
 吾輩が見る限りでは、人間の毛は髪や眉毛だけであろうに。
 人間は洋服なるものを着ているので、他に毛が生えているのかどうかは確認ができない。
 いや、待て。
 大原家の家族と海へ行ったときの記憶をたどってみれば、大ママ以外は水着というものに着替えていた。
 パパは海パン。
 ママと奈美、そして真紀はワンピースの水着だった。
 幼き頃の記憶ではあるが、パパの海パン姿を思い出せば、胸毛がチョビっと、あとは脇の下と脛(すね)の毛が多 少濃いくらいなものだった。
 他の海水浴に来ている人間たちも、やはり同じようなものであった。
 すると、あの海パンの中に脱毛せねばならぬほどの毛が生えているのか。
 しかし、それでは全身脱毛とは言えぬ。
 どういうことなのか。

 うむむ、奇怪なり……。

 人間とは、吾輩には理解できぬことが多い。
 摩訶不思議なの生き物だ。
 そう、人間とて生き物。
 動物なのである。
 元はと言えば猿だったのだ。
 猿と言えば、動物園にいるのである。
 その上、日光猿軍団なのである。
 それどころか、温泉に浸かり、赤い顔をして、

「いい湯だなー」

 と言ってる猿もいるのだ。
 それが遥か昔のある出来事を機に、いま言った猿たちとは別の猿たちが人間になったのである。
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