柴犬ゴン太のひとりごと

星 陽月

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【Episode 68】

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 それは気が遠くなるほど昔のこと、この地上に神様が降りてきて、

「いやー、ここはアッチーぜェ。ヤバくね、この暑さはよー! 水が欲しいぜェ!」

 と言うもんだから、そこへオスとメスの猿が水を汲んでいき、

「オー、YOUたち気が利くジャン!」

 と、渡された水を、神様はゴクゴクと喉を鳴らしまくって飲み、

「助かったよ、YOUたち。お礼にさー、願いことを叶えてやっちゃうよー!」

 と軽ーいテンションで言ったのだった。
 それに対し、二匹の猿は、

「いえいえ、わたしたちには願い事などありません」

 ってなことを言うから、

「あ、そ」

 神様はあっさりと天に帰ろうとした。
 猿たちは、止めることもなく無言で神様を見送っていた。
 すると、神様はくるりとふり返り、

「いやいや、そこはさ、帰っちゃうのかよッ! ってツッコむところジャーン。たのむよ、YOUたち」

 そう言い、

「YOUたちって、ほんと欲がないジャン。そういうの、マジで気に入ったからさー、じゃ、こっちで勝手に願い事決めちゃうねー」

 さらにそう言って、

「ここって、ヤバイくらいアッチーからー、YOUたちのその毛むくじゃらな毛を失くしてあげるねー」

 またまたそう言って、神様は杖を出し、

「ナクナレーケー、ナクナレーケー」

 と呪文を唱えると、あら不思議、猿たちの全身から毛が抜け落ちたのだった。
 それが、アダムとイヴなのである。

 え?
 いったい、そんなデタラメをどこで聞いたのかって?
 
 何を言う。
 デタラメとは侵害だな。 
 これは、吾輩たち種族の中ではだれもが知っている話だよ。
 そういう言い伝えなのだからな。
 実は、猿が神様に水を汲んでいったあのとき、我が種族はそのすぐうしろにいたのだ。
 我が種族は一歩遅れてしまったというわけだ。
 我が種族のご先祖様は、

「悔しいです!」

 と、苦渋を舐めたのだ。
 そんな経験が言い伝えとして残り、我が種族と猿は、犬猿の仲と言われるようになったのである。
 とは言え、いまでは我が種族と猿の仲は、さほど悪いわけではない。
 しかし、もしもあのとき、猿よりも先に水を渡すことが出来ていれば、アダムとイヴは我が種族であり、エアコンの利いた部屋でケンタを食べることができたのも、我が種族だったに違いない。
 それを思うと、ご先祖様の悔しさが身に沁みる。
 吾輩は想像する。
 全身の毛が抜け落ちて、二本脚で立って、洒落た服を着て、マイケルとともに街へくり出してナンパをする我が姿を。
 なんとクールでイケている姿であろうか。
 名前だってそうだ。
 センスのある名にしたい。
 例えば、

 大原康太――

 なんてのはどうだ?
 いや、センスがどうというより、名がゴン太に近いから却下。
 どうせなら、姓も変えよう。
 何も大原にする必要などないのだ。
 ならば、

 犬神隼人――

 これはどうだ。
 うむ、実にいいではないか。
 クールでセンスも素晴らしい。
 どうせなら、これからはこの名で通そうではないか。
 そうだ、そうしよう。
 犬だからといって、なにも人の名をつけてはならないという法律はないはずだ。
 
 ん?
 なんだって?
 大原家に対する恩義があるだろう、だって?
 それは、確かにそうだが……。
 え?
 そんな忠義心の欠片もない犬なら、もうこの小説は読まないだと?

 いやいや、それは困る。
 って言うかさァ、冗談に決まってるじゃないか。
 この吾輩が忠義を忘れるわけがないだろう。
 吾輩には忠義しかないんだから。
 なにを隠そう、大原家に忠義を尽くす忠犬ゴン太とは吾輩のことなのだ。

 どうだ、参ったか……。
 ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、!
 う、なぜか急に睡魔が……。

 と言うことで、吾輩は昼寝をするので、この辺で。

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