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チャプター【016】
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雨が降りつづけている。
その雨は、静々とかすかな雨音だけを響かせている。
ただそれだけで、薄闇をさらに闇へと近づけてしまうほどの、黒く冷たい雨だ。
アスファルトの路が延びている。
と言っても、散乱したコンクリートの瓦礫に埋めつくされ、アスファルトの路面は、ところどころに見えているだけだ。
そこにはかつて、絶え間なく車が走っていた。
その車もいまでは、瓦礫に押し潰されたものや、黒焦げになったものが点在しているばかりだった。
どれもこれもガラスが粉々に砕け、タイヤはパンクしているか失くなってしまっていた。
車としての機能を果たせるものは1台としてない。
その路を人が通るには、そういった車や瓦礫を避けるか乗り越えなければ先へは進めないのだった。
路の両側には、ビルが建ち並んでいる。
だが、かろうじて原型を留めているにすぎない。
中には、そのほとんどが崩れ、倒壊してしまっているものもあった。
そんな中を、蝶子は雨に濡れながら、瓦礫の上を跳び越えつつ進んでいる。
と、何かを察知したのか、瓦礫の上で蝶子はすっと足を止めた。
両太腿のホルスターから、素早く銃を抜く。
「さあ、出ておいで」
周囲に眼をやることなくそう言った。
ごる……
雨音の中に低い唸り声が交じった。
すると、右前方の瓦礫の上に、突如、姿を現したものがあった。
虎――
いや、違う。その外貌には、虎のような柄がない。
といって豹でもない。
ごるる……
唸りながら威嚇する口には、長く鋭い牙が2本生えていた。
長さは、20センチはあるだろうか。
それは、更新世の時代に生息していたという犬歯虎、サーベル・タイガーに酷似していた。
「チッ、このタイミングで、先祖返りに出くわすとはね」
そのサーベル・タイガーは、瓦礫の上で右に左にと動きながら、蝶子の様子を窺っている。
「餌だったら、他を捜しな。私を喰ったところで、鉛の味がするだけさ」
蝶子は右手を頭上に上げ、威嚇するためにトリガーを絞った。
ダンッ!
銃声がこだました。
一瞬、サーベル・タイガーは身体をビクンとさせた。
だが、逃げ出す様子はない。
それどころか、口をつり上げ、なおも威嚇してきた。
そのとき、蝶子は新たな気配を背後に感じた。
右手に持った銃を後方へと向ける。その銃口の先には、もう1頭のサーベル・タイガーの姿があった。
前方の一頭の毛並みは茶系だが、新たに現れた一頭は黒豹のような毛並みだった。
どうやら、挟み撃ちにしようという魂胆らしい。
蝶子は両腕を左右に開き、2頭のサーベル・タイガーに銃口を向ける形になった。
「2頭いたのか。ちょっと面倒だね」
交互に2頭を見やりながら、蝶子は背にあるビルのほうへと後ずさった。
2頭のサーベル・タイガーは動きを止め、身を低くした。
いつでも襲い掛かれる体制だった。
と思う間に、
ゴォア!
2頭は同時に、蝶子めがけて飛び掛かった。
それとまたほとんど同時に、蝶子は背後へと高く跳躍していた。
きれいな放物線を描きながら宙で後転すると、2頭に向けてトリガーを絞った。
ダン、
ダン、
ダン、
ダン!
銃弾は2発ずつ、それぞれのサーベル・タイガーにヒットした。
だが、2頭はそれを物ともせずに、さらに蝶子へと飛び掛かっていく。
「クッ、急所を外したか」
蝶子は地を蹴って、ビルの中へと走った。
2頭があとを追う。
崩れかけた階段を駆け上がる。
踊り場までくると、そこで蝶子は足を止めた。
どこから上がっていったのか、階段の終わる2階の部分から1頭のサーベル・タイガーが蝶子を見下ろしていた。
黒毛のほうだ。
茶毛は階段の途中で脚を止めている。
「また、挟み撃ちにするつもりかい? おまえたちは頭がいいね」
蝶子はすぐさま、2頭に向かって銃弾を撃ちこんだ。
だが、その弾丸は、2頭を撃ち抜くことはなかった。
蝶子がトリガーを絞る瞬間に、並外れた瞬発力で素早くその場から身を隠したのだった。
その雨は、静々とかすかな雨音だけを響かせている。
ただそれだけで、薄闇をさらに闇へと近づけてしまうほどの、黒く冷たい雨だ。
アスファルトの路が延びている。
と言っても、散乱したコンクリートの瓦礫に埋めつくされ、アスファルトの路面は、ところどころに見えているだけだ。
そこにはかつて、絶え間なく車が走っていた。
その車もいまでは、瓦礫に押し潰されたものや、黒焦げになったものが点在しているばかりだった。
どれもこれもガラスが粉々に砕け、タイヤはパンクしているか失くなってしまっていた。
車としての機能を果たせるものは1台としてない。
その路を人が通るには、そういった車や瓦礫を避けるか乗り越えなければ先へは進めないのだった。
路の両側には、ビルが建ち並んでいる。
だが、かろうじて原型を留めているにすぎない。
中には、そのほとんどが崩れ、倒壊してしまっているものもあった。
そんな中を、蝶子は雨に濡れながら、瓦礫の上を跳び越えつつ進んでいる。
と、何かを察知したのか、瓦礫の上で蝶子はすっと足を止めた。
両太腿のホルスターから、素早く銃を抜く。
「さあ、出ておいで」
周囲に眼をやることなくそう言った。
ごる……
雨音の中に低い唸り声が交じった。
すると、右前方の瓦礫の上に、突如、姿を現したものがあった。
虎――
いや、違う。その外貌には、虎のような柄がない。
といって豹でもない。
ごるる……
唸りながら威嚇する口には、長く鋭い牙が2本生えていた。
長さは、20センチはあるだろうか。
それは、更新世の時代に生息していたという犬歯虎、サーベル・タイガーに酷似していた。
「チッ、このタイミングで、先祖返りに出くわすとはね」
そのサーベル・タイガーは、瓦礫の上で右に左にと動きながら、蝶子の様子を窺っている。
「餌だったら、他を捜しな。私を喰ったところで、鉛の味がするだけさ」
蝶子は右手を頭上に上げ、威嚇するためにトリガーを絞った。
ダンッ!
銃声がこだました。
一瞬、サーベル・タイガーは身体をビクンとさせた。
だが、逃げ出す様子はない。
それどころか、口をつり上げ、なおも威嚇してきた。
そのとき、蝶子は新たな気配を背後に感じた。
右手に持った銃を後方へと向ける。その銃口の先には、もう1頭のサーベル・タイガーの姿があった。
前方の一頭の毛並みは茶系だが、新たに現れた一頭は黒豹のような毛並みだった。
どうやら、挟み撃ちにしようという魂胆らしい。
蝶子は両腕を左右に開き、2頭のサーベル・タイガーに銃口を向ける形になった。
「2頭いたのか。ちょっと面倒だね」
交互に2頭を見やりながら、蝶子は背にあるビルのほうへと後ずさった。
2頭のサーベル・タイガーは動きを止め、身を低くした。
いつでも襲い掛かれる体制だった。
と思う間に、
ゴォア!
2頭は同時に、蝶子めがけて飛び掛かった。
それとまたほとんど同時に、蝶子は背後へと高く跳躍していた。
きれいな放物線を描きながら宙で後転すると、2頭に向けてトリガーを絞った。
ダン、
ダン、
ダン、
ダン!
銃弾は2発ずつ、それぞれのサーベル・タイガーにヒットした。
だが、2頭はそれを物ともせずに、さらに蝶子へと飛び掛かっていく。
「クッ、急所を外したか」
蝶子は地を蹴って、ビルの中へと走った。
2頭があとを追う。
崩れかけた階段を駆け上がる。
踊り場までくると、そこで蝶子は足を止めた。
どこから上がっていったのか、階段の終わる2階の部分から1頭のサーベル・タイガーが蝶子を見下ろしていた。
黒毛のほうだ。
茶毛は階段の途中で脚を止めている。
「また、挟み撃ちにするつもりかい? おまえたちは頭がいいね」
蝶子はすぐさま、2頭に向かって銃弾を撃ちこんだ。
だが、その弾丸は、2頭を撃ち抜くことはなかった。
蝶子がトリガーを絞る瞬間に、並外れた瞬発力で素早くその場から身を隠したのだった。
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