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チャプター【038】
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「だから、無理だって言っているだろう?」
邪蛇が言った次の瞬間、
「ぎゃあああああッ!」
大きな悲鳴をあげていた。
「痛い痛い痛いッ! おまえェ、なにをしたァ!」
邪蛇の身体から血が滴りだした。
喰らいつかれた肩ではない。
人間で言うなら下腹部のあたりだ。
その、血が溢れだしている個所を見ると、肩に喰らいついたデイノニクスの後脚、第二指の鋭い爪が突き刺さっていた。
デイノニクスの名の意味である、〈恐ろしい爪〉のとおり、その爪は、邪蛇の胴体の鱗を突き破っていたのだった。
「よくも、この私の身体に傷をつけてくれたねえ」
肩に喰らいついているデイノニクスの頸(くび)を、邪蛇は片手で鷲づかみにした。
絞めあげる。
そのデイノニクスが、苦しさにもがく。
だが、それが邪蛇にとってはあだとなった。
デイノニクスがもがけばもがくほど、下腹部に突き刺さった爪がさらに肉の内部へと入りこんでいくのだ。
「ぎゃおッ!」
その痛みに耐えきれず、邪蛇は片腕でそのデイノニクスを持ち上げると投げ飛ばしていた。
全長2メートル以上ある巨体を片手で持ち上げるその腕力は、凄まじいものがあった。
投げ飛ばされたデイノニクスはすぐに体制を整え、邪蛇との間合いを取った。
先に邪蛇の尾で弾き飛ばされていた1頭も、そのときには邪蛇の隙を窺っていた。
もう一頭だけは、邪蛇の尾に巻きつけられたまま身動きできずにいた。
邪蛇も、デイノニクスたちも、蝶子の存在など忘れてしまっているかのように眼もくれなかった。
「私は蚊帳の外というわけか」
蝶子は拍子抜けしてしまい、太刀を背の鞘に収めた。
そのまま、その場から立ち去ってもよかったが、蝶子はそうしなかった。
異形人と先祖返りが、勝手に殺し合いをするのは一向にかまわないが、蝶子には邪蛇に訊きたいことがあった。
地を蹴って、左後方にあるコンクリートの塊の上へと跳ぶ。
そこでしばらく、邪蛇とデイノニクスたちの様子を見ることにした。
「まったく、おまえたちときたら、いままでずいぶん可愛がってやったというのに、恩をあだで返すとはねえ」
邪蛇の声が、おどろおどろしいものに変わった。
「シャアッ! もう、おまえたちなど、どうでもいいさね。その代りに、私の恐ろしさを存分に思い知らせてやるわさァ」
尾に巻きつけていたデイノ二クスを、自分の貌の前に運んだ。
「まずは、こいつからだねえ」
邪蛇の裂けた口が、さらに裂けていく。
その口が異様なほどに大きく開く。
と、次の瞬間、そのデイノニクスを頭から咥えこんでいた。
邪蛇の口、そして喉がうごうごと蠢動(しゅんどう)し、デイノニクスの頭が邪蛇の口の中に入りこんでいった。
デイノニクスは、身体を巻きつけた尾に絞めつけられ、あらがうこともできない。
身体がみるみる呑みこまれていく。
その身体が呑みこまれていくごとに、邪蛇の胴体が蠢動しながら膨れあがる。
なんともおぞましい光景だった。
仲間が呑みこまれていくその光景を、他の2頭は邪蛇との間合いの外から見つめている。
いや、見つめているというよりは、あくまでも邪蛇の隙を窺っているだけのようだ。
仲間とのコンビネーションによって狩りをするほどの賢さはあっても、仲間意識や感情といったものは、もともと欠落しているらしい。
おご、おご、と邪蛇の喉が鳴る。
見る間に、1頭のデイノニクスは、脚の先まで呑みこまれてしまった。
「さァ、次はどっちだい?」
1頭を胃袋におさめた邪蛇は、残りの2頭を睨みつけた。
さすがに己の危機を感じたのか、2頭のデイノニクスは後ずさりし始めた。
「いまごろ逃げ腰になったところで、もう遅いやね」
シュッ!
邪蛇の尾が素早く動き、1頭を捕える。
キエッ!
捕まえるや否や、その1頭をも呑みこみはじめた。
1頭どころか2頭までも呑みこもうとは、いったいどんな身体の構造になっているのか。
最後の1頭は、我関せずとばかりに、そのときにはもう闇の中へと逃げ去っていった。
邪蛇が言った次の瞬間、
「ぎゃあああああッ!」
大きな悲鳴をあげていた。
「痛い痛い痛いッ! おまえェ、なにをしたァ!」
邪蛇の身体から血が滴りだした。
喰らいつかれた肩ではない。
人間で言うなら下腹部のあたりだ。
その、血が溢れだしている個所を見ると、肩に喰らいついたデイノニクスの後脚、第二指の鋭い爪が突き刺さっていた。
デイノニクスの名の意味である、〈恐ろしい爪〉のとおり、その爪は、邪蛇の胴体の鱗を突き破っていたのだった。
「よくも、この私の身体に傷をつけてくれたねえ」
肩に喰らいついているデイノニクスの頸(くび)を、邪蛇は片手で鷲づかみにした。
絞めあげる。
そのデイノニクスが、苦しさにもがく。
だが、それが邪蛇にとってはあだとなった。
デイノニクスがもがけばもがくほど、下腹部に突き刺さった爪がさらに肉の内部へと入りこんでいくのだ。
「ぎゃおッ!」
その痛みに耐えきれず、邪蛇は片腕でそのデイノニクスを持ち上げると投げ飛ばしていた。
全長2メートル以上ある巨体を片手で持ち上げるその腕力は、凄まじいものがあった。
投げ飛ばされたデイノニクスはすぐに体制を整え、邪蛇との間合いを取った。
先に邪蛇の尾で弾き飛ばされていた1頭も、そのときには邪蛇の隙を窺っていた。
もう一頭だけは、邪蛇の尾に巻きつけられたまま身動きできずにいた。
邪蛇も、デイノニクスたちも、蝶子の存在など忘れてしまっているかのように眼もくれなかった。
「私は蚊帳の外というわけか」
蝶子は拍子抜けしてしまい、太刀を背の鞘に収めた。
そのまま、その場から立ち去ってもよかったが、蝶子はそうしなかった。
異形人と先祖返りが、勝手に殺し合いをするのは一向にかまわないが、蝶子には邪蛇に訊きたいことがあった。
地を蹴って、左後方にあるコンクリートの塊の上へと跳ぶ。
そこでしばらく、邪蛇とデイノニクスたちの様子を見ることにした。
「まったく、おまえたちときたら、いままでずいぶん可愛がってやったというのに、恩をあだで返すとはねえ」
邪蛇の声が、おどろおどろしいものに変わった。
「シャアッ! もう、おまえたちなど、どうでもいいさね。その代りに、私の恐ろしさを存分に思い知らせてやるわさァ」
尾に巻きつけていたデイノ二クスを、自分の貌の前に運んだ。
「まずは、こいつからだねえ」
邪蛇の裂けた口が、さらに裂けていく。
その口が異様なほどに大きく開く。
と、次の瞬間、そのデイノニクスを頭から咥えこんでいた。
邪蛇の口、そして喉がうごうごと蠢動(しゅんどう)し、デイノニクスの頭が邪蛇の口の中に入りこんでいった。
デイノニクスは、身体を巻きつけた尾に絞めつけられ、あらがうこともできない。
身体がみるみる呑みこまれていく。
その身体が呑みこまれていくごとに、邪蛇の胴体が蠢動しながら膨れあがる。
なんともおぞましい光景だった。
仲間が呑みこまれていくその光景を、他の2頭は邪蛇との間合いの外から見つめている。
いや、見つめているというよりは、あくまでも邪蛇の隙を窺っているだけのようだ。
仲間とのコンビネーションによって狩りをするほどの賢さはあっても、仲間意識や感情といったものは、もともと欠落しているらしい。
おご、おご、と邪蛇の喉が鳴る。
見る間に、1頭のデイノニクスは、脚の先まで呑みこまれてしまった。
「さァ、次はどっちだい?」
1頭を胃袋におさめた邪蛇は、残りの2頭を睨みつけた。
さすがに己の危機を感じたのか、2頭のデイノニクスは後ずさりし始めた。
「いまごろ逃げ腰になったところで、もう遅いやね」
シュッ!
邪蛇の尾が素早く動き、1頭を捕える。
キエッ!
捕まえるや否や、その1頭をも呑みこみはじめた。
1頭どころか2頭までも呑みこもうとは、いったいどんな身体の構造になっているのか。
最後の1頭は、我関せずとばかりに、そのときにはもう闇の中へと逃げ去っていった。
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