バタフライ~復讐する者~

星 陽月

文字の大きさ
39 / 70

チャプター【038】

しおりを挟む
「だから、無理だって言っているだろう?」

 邪蛇が言った次の瞬間、

「ぎゃあああああッ!」

 大きな悲鳴をあげていた。

「痛い痛い痛いッ! おまえェ、なにをしたァ!」

 邪蛇の身体から血が滴りだした。
 喰らいつかれた肩ではない。
 人間で言うなら下腹部のあたりだ。
 その、血が溢れだしている個所を見ると、肩に喰らいついたデイノニクスの後脚、第二指の鋭い爪が突き刺さっていた。
 デイノニクスの名の意味である、〈恐ろしい爪〉のとおり、その爪は、邪蛇の胴体の鱗を突き破っていたのだった。

「よくも、この私の身体に傷をつけてくれたねえ」

 肩に喰らいついているデイノニクスの頸(くび)を、邪蛇は片手で鷲づかみにした。
 絞めあげる。
 そのデイノニクスが、苦しさにもがく。
 だが、それが邪蛇にとってはあだとなった。
 デイノニクスがもがけばもがくほど、下腹部に突き刺さった爪がさらに肉の内部へと入りこんでいくのだ。

「ぎゃおッ!」

 その痛みに耐えきれず、邪蛇は片腕でそのデイノニクスを持ち上げると投げ飛ばしていた。
 全長2メートル以上ある巨体を片手で持ち上げるその腕力は、凄まじいものがあった。
 投げ飛ばされたデイノニクスはすぐに体制を整え、邪蛇との間合いを取った。
 先に邪蛇の尾で弾き飛ばされていた1頭も、そのときには邪蛇の隙を窺っていた。
 もう一頭だけは、邪蛇の尾に巻きつけられたまま身動きできずにいた。
 邪蛇も、デイノニクスたちも、蝶子の存在など忘れてしまっているかのように眼もくれなかった。

「私は蚊帳の外というわけか」

 蝶子は拍子抜けしてしまい、太刀を背の鞘に収めた。
 そのまま、その場から立ち去ってもよかったが、蝶子はそうしなかった。
 異形人と先祖返りが、勝手に殺し合いをするのは一向にかまわないが、蝶子には邪蛇に訊きたいことがあった。
 地を蹴って、左後方にあるコンクリートの塊の上へと跳ぶ。
 そこでしばらく、邪蛇とデイノニクスたちの様子を見ることにした。

「まったく、おまえたちときたら、いままでずいぶん可愛がってやったというのに、恩をあだで返すとはねえ」

 邪蛇の声が、おどろおどろしいものに変わった。

「シャアッ! もう、おまえたちなど、どうでもいいさね。その代りに、私の恐ろしさを存分に思い知らせてやるわさァ」

 尾に巻きつけていたデイノ二クスを、自分の貌の前に運んだ。

「まずは、こいつからだねえ」

 邪蛇の裂けた口が、さらに裂けていく。
 その口が異様なほどに大きく開く。
 と、次の瞬間、そのデイノニクスを頭から咥えこんでいた。
 邪蛇の口、そして喉がうごうごと蠢動(しゅんどう)し、デイノニクスの頭が邪蛇の口の中に入りこんでいった。
 デイノニクスは、身体を巻きつけた尾に絞めつけられ、あらがうこともできない。
 身体がみるみる呑みこまれていく。
 その身体が呑みこまれていくごとに、邪蛇の胴体が蠢動しながら膨れあがる。
 なんともおぞましい光景だった。
 仲間が呑みこまれていくその光景を、他の2頭は邪蛇との間合いの外から見つめている。
 いや、見つめているというよりは、あくまでも邪蛇の隙を窺っているだけのようだ。
 仲間とのコンビネーションによって狩りをするほどの賢さはあっても、仲間意識や感情といったものは、もともと欠落しているらしい。
 おご、おご、と邪蛇の喉が鳴る。
 見る間に、1頭のデイノニクスは、脚の先まで呑みこまれてしまった。

「さァ、次はどっちだい?」

 1頭を胃袋におさめた邪蛇は、残りの2頭を睨みつけた。
 さすがに己の危機を感じたのか、2頭のデイノニクスは後ずさりし始めた。

「いまごろ逃げ腰になったところで、もう遅いやね」

  シュッ!

 邪蛇の尾が素早く動き、1頭を捕える。

  キエッ!

 捕まえるや否や、その1頭をも呑みこみはじめた。
 1頭どころか2頭までも呑みこもうとは、いったいどんな身体の構造になっているのか。
 最後の1頭は、我関せずとばかりに、そのときにはもう闇の中へと逃げ去っていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

処理中です...