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チャプター【064】
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蝶子は、地下二階にある実験室を目指した。
「やっぱり、嘘だったのか。市川……」
市川は、美鈴を救うと言った。
遺伝子の暴走を止める治療薬が開発されたと。
だが、現実は蝶子が危惧していたとおりだった。
守衛室のモニターには、手術用のベッドに全裸で拘束されている美鈴の姿が映っていた。
その美鈴の顔は苦痛にゆがみ、涙を流していた。
治療薬を試したのならば、あんなに苦しみ方をするはずがない。
「許さない!」
怒りに、蝶子の瞳に炎が燃えていた。
それは赤い炎ではなく、蒼白き焔だった。
廊下に出る。
廊下を照らす非常照明は、電力の消費を抑えられているために薄暗かった。
蝶子は走った。
非常階段へつづく廊下を右に曲がると、守衛のひとりと鉢合わせになった。
守衛の男は、すぐさま腰のホルスターから銃を抜いて、蝶子に向けた。
「いまの私は、気が立ってるんだ。邪魔をするなら、斬るよ」
蝶子は背の太刀を抜き放った。
すると、守衛の男はとたんに銃を廊下へ落し、ホールド・アップした。
「それが利口な選択だ」
守衛の男の横を通り過ぎ、蝶子は廊下正面の非常階段に通じるドアのノブに手をかけた。
と、そのとき、
ダァンッ!
銃声の音が、廊下にこだました。
蝶子は脇腹に火傷を負ったような痛みを覚えて、指先をあてた。
アーマー・スーツに小さな穴が開いている。
その穴から、生暖かいものが溢れ出している。
指先を見ると、それは血だった。
視線をわずかにそらして廊下の床に眼を落とすと、そこに一発の銃弾が落ちていた。
蝶子はふり返った。
そこには、廊下に落したはずの銃を手に、守衛が立っている。
向けている銃口からは硝煙が消えずに揺れていた。
守衛が放った銃弾は、蝶子の背から脇腹に抜け、鉄のドアにあたったのだった。
「どうやらあんた、利口じゃなかったようだね……」
蝶子の蒼く光る眼が、守衛の男を睨む。
「あわ、あわ、あわわわ……」
守衛の男は、たちまち腰を抜かして尻もちをついた。
蝶子は守衛の男をそのままにし、うしろ手でドアを開けると、非常階段へと出ていった。
「クソッ! 余計な真似を……」
撃たれた脇腹を押さえながら、蝶子は階段を下りていく。
建物の中ではコートは動きづらいと考え、身に着けてこなかったのがまずかった。
非常階段で地下二階へと下りると、実験室に向かった。
そのときにはもう、銃弾を受けた傷の出血は止まっており、アーマー・スーツの穴も完全に塞がっていた。
実験室の前に立つと、蝶子は右の太腿のホルスターから銃を抜いた。
ドアのセキュリティ・ロックに銃口を向ける。
ダン、
ダン!
2発の銃弾を撃ちこむと、セキュリティ・ロックがショートし、ドアが開いた。
すぐには入らずに、室内の様子を窺った。
手術台の上には、美鈴の姿があった。
「美鈴!」
呼んだが、美鈴の反応がない。
それもそのはず、美鈴は耳が聴こえないのだから当然であった。
蝶子は警戒しながら中へ入った。
と、
「心配はありませんよ。眠っているだけですから」
室内の物陰から、人影が現れた。
「市川ッ!」
その人影――市川に、蝶子は銃口を向けた。
「やっぱり、嘘だったのか。市川……」
市川は、美鈴を救うと言った。
遺伝子の暴走を止める治療薬が開発されたと。
だが、現実は蝶子が危惧していたとおりだった。
守衛室のモニターには、手術用のベッドに全裸で拘束されている美鈴の姿が映っていた。
その美鈴の顔は苦痛にゆがみ、涙を流していた。
治療薬を試したのならば、あんなに苦しみ方をするはずがない。
「許さない!」
怒りに、蝶子の瞳に炎が燃えていた。
それは赤い炎ではなく、蒼白き焔だった。
廊下に出る。
廊下を照らす非常照明は、電力の消費を抑えられているために薄暗かった。
蝶子は走った。
非常階段へつづく廊下を右に曲がると、守衛のひとりと鉢合わせになった。
守衛の男は、すぐさま腰のホルスターから銃を抜いて、蝶子に向けた。
「いまの私は、気が立ってるんだ。邪魔をするなら、斬るよ」
蝶子は背の太刀を抜き放った。
すると、守衛の男はとたんに銃を廊下へ落し、ホールド・アップした。
「それが利口な選択だ」
守衛の男の横を通り過ぎ、蝶子は廊下正面の非常階段に通じるドアのノブに手をかけた。
と、そのとき、
ダァンッ!
銃声の音が、廊下にこだました。
蝶子は脇腹に火傷を負ったような痛みを覚えて、指先をあてた。
アーマー・スーツに小さな穴が開いている。
その穴から、生暖かいものが溢れ出している。
指先を見ると、それは血だった。
視線をわずかにそらして廊下の床に眼を落とすと、そこに一発の銃弾が落ちていた。
蝶子はふり返った。
そこには、廊下に落したはずの銃を手に、守衛が立っている。
向けている銃口からは硝煙が消えずに揺れていた。
守衛が放った銃弾は、蝶子の背から脇腹に抜け、鉄のドアにあたったのだった。
「どうやらあんた、利口じゃなかったようだね……」
蝶子の蒼く光る眼が、守衛の男を睨む。
「あわ、あわ、あわわわ……」
守衛の男は、たちまち腰を抜かして尻もちをついた。
蝶子は守衛の男をそのままにし、うしろ手でドアを開けると、非常階段へと出ていった。
「クソッ! 余計な真似を……」
撃たれた脇腹を押さえながら、蝶子は階段を下りていく。
建物の中ではコートは動きづらいと考え、身に着けてこなかったのがまずかった。
非常階段で地下二階へと下りると、実験室に向かった。
そのときにはもう、銃弾を受けた傷の出血は止まっており、アーマー・スーツの穴も完全に塞がっていた。
実験室の前に立つと、蝶子は右の太腿のホルスターから銃を抜いた。
ドアのセキュリティ・ロックに銃口を向ける。
ダン、
ダン!
2発の銃弾を撃ちこむと、セキュリティ・ロックがショートし、ドアが開いた。
すぐには入らずに、室内の様子を窺った。
手術台の上には、美鈴の姿があった。
「美鈴!」
呼んだが、美鈴の反応がない。
それもそのはず、美鈴は耳が聴こえないのだから当然であった。
蝶子は警戒しながら中へ入った。
と、
「心配はありませんよ。眠っているだけですから」
室内の物陰から、人影が現れた。
「市川ッ!」
その人影――市川に、蝶子は銃口を向けた。
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