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【第15話】
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「どうしてですか、神様仏様」
高木は穢れなき少年のように、純粋無垢な瞳をきらきらと潤ませる。
「それは、宿命(さだめ)だからです」
どこかで聞いたセリフである。
「その宿命(さだめ)というのを、ちょっとばかり融通を利かせて……」
「いえ、融通など利きません」
「どうあってもですか」
「どうあってもです」
「そうですか……」
高木はがっくりとし、深いため息をついた。
と、気づけば、目の前には、白い聖衣をまとった天使がたたずんでいた。
「――って、おい、じいさんかよ!」
頭上には、ごたいそうに天使のリングまでが浮いているが、先ほどの老人だった。
「なんだよ、人が真剣に願ってるっていうのによ。ふざけんな、このやろう!」
高木はブチ切れて、勢いよく立ち上がると拳をふり上げた。
だが年寄りを殴るわけにはいかない。
「クソッ!」
高木は拳を握りしめ、空を殴るようにして下ろした。
「まァまァ、そう怒らずに」
落ち着き払ったその態度が忌々しい。
フン、と高木はそっぽを向いた。
そんな彼に、老人はやさしく話しかける。
「あなたが死にたくないというお気持ちや、その事情もよくわかります。ましてやあなたは、突発的な不慮の事故で死んだわけですから、それを受け入れたくないのもお察しします。ですが、そういう事故で亡くなる方はたくさんいらっしゃるのです。その方たちにだってそれ相応の想いはあるでしょう。しかし、だからといって、その想いを聞き入れ再生させることなど不可能なのです。高木さん、わかっていただけませんか」
「そうは言うけどよ、三途の川まで行って生き返った人間はいくらだっているだろうがよ。あ、ってことは、そうか。三途の川を渡らなけりゃいいってことなんだな。だったら俺は絶対に渡らねえよ」
どこまでも頑なに、高木は自分の死を認めたくなかった。
「またそんな、子供のように。その方たちの定めは、まだ先だったのですよ」
「その宿命(さだめ)ってのもよ、もういいかげん聞き飽きたよ。それにしたって、歩道橋から転げ落ちて死んだなんて、カッコ悪すぎじゃねえか」
「ご愁傷さまです」
「ケッ、やめてくれ。死んだのはこの俺だぜ。それは肉親のだれかが死んだときに言うセリフだっての」
「いやはや、これは失礼しました」
「まったくよ」
素直に謝罪する老人を、高木は思い出したように窺い見た。
「ところでさっきも訊いたが、じいさん。あんたはいったい何者なんだ? いままでの会話からすると、ボケて死んだじいさんではなさそうだな」
「はい。確かに、わたしはボケて死んだわけではありません」
「ということは――もしかしてじいさん、俺のお迎えか?」
「まァ、そんなところです」
「って、冗談で言ったつもりなのに、マジかよ」
高木は品定めでもするかのように、老人に視線を這わせた。
「でもよ。どうして佐代子じゃないんだよ。お迎えってのは、会いたいと思ってる人が来るもんじゃねえの。そうじゃないにしても身内じゃねえか、ふつうは。じいさん、俺の身内じゃねえよな」
「確かに、はい。わたしはあなたの身内ではありません。ですが、これには色々と事情がありまして」
「事情? なんだそれ」
「あなたもいらっしゃればわかると思いますが、あちらの世もなにかと大変なのですよ」
「ふーん、そうか。それで身内でもない見ず知らずのあんたが、俺をお迎えにきたってわけだ」
「はい。そういうわけです」
「だがよ。それにしたって、どうしてあんたのようなじいさんなんだ?」
それは疑問である。
だが老人からすれば、そこを問われるとは思いもよらない。
「そう言われましても、その、それにも色々と事情があるわけでして」
そう答えるのがやっとであった。
高木は穢れなき少年のように、純粋無垢な瞳をきらきらと潤ませる。
「それは、宿命(さだめ)だからです」
どこかで聞いたセリフである。
「その宿命(さだめ)というのを、ちょっとばかり融通を利かせて……」
「いえ、融通など利きません」
「どうあってもですか」
「どうあってもです」
「そうですか……」
高木はがっくりとし、深いため息をついた。
と、気づけば、目の前には、白い聖衣をまとった天使がたたずんでいた。
「――って、おい、じいさんかよ!」
頭上には、ごたいそうに天使のリングまでが浮いているが、先ほどの老人だった。
「なんだよ、人が真剣に願ってるっていうのによ。ふざけんな、このやろう!」
高木はブチ切れて、勢いよく立ち上がると拳をふり上げた。
だが年寄りを殴るわけにはいかない。
「クソッ!」
高木は拳を握りしめ、空を殴るようにして下ろした。
「まァまァ、そう怒らずに」
落ち着き払ったその態度が忌々しい。
フン、と高木はそっぽを向いた。
そんな彼に、老人はやさしく話しかける。
「あなたが死にたくないというお気持ちや、その事情もよくわかります。ましてやあなたは、突発的な不慮の事故で死んだわけですから、それを受け入れたくないのもお察しします。ですが、そういう事故で亡くなる方はたくさんいらっしゃるのです。その方たちにだってそれ相応の想いはあるでしょう。しかし、だからといって、その想いを聞き入れ再生させることなど不可能なのです。高木さん、わかっていただけませんか」
「そうは言うけどよ、三途の川まで行って生き返った人間はいくらだっているだろうがよ。あ、ってことは、そうか。三途の川を渡らなけりゃいいってことなんだな。だったら俺は絶対に渡らねえよ」
どこまでも頑なに、高木は自分の死を認めたくなかった。
「またそんな、子供のように。その方たちの定めは、まだ先だったのですよ」
「その宿命(さだめ)ってのもよ、もういいかげん聞き飽きたよ。それにしたって、歩道橋から転げ落ちて死んだなんて、カッコ悪すぎじゃねえか」
「ご愁傷さまです」
「ケッ、やめてくれ。死んだのはこの俺だぜ。それは肉親のだれかが死んだときに言うセリフだっての」
「いやはや、これは失礼しました」
「まったくよ」
素直に謝罪する老人を、高木は思い出したように窺い見た。
「ところでさっきも訊いたが、じいさん。あんたはいったい何者なんだ? いままでの会話からすると、ボケて死んだじいさんではなさそうだな」
「はい。確かに、わたしはボケて死んだわけではありません」
「ということは――もしかしてじいさん、俺のお迎えか?」
「まァ、そんなところです」
「って、冗談で言ったつもりなのに、マジかよ」
高木は品定めでもするかのように、老人に視線を這わせた。
「でもよ。どうして佐代子じゃないんだよ。お迎えってのは、会いたいと思ってる人が来るもんじゃねえの。そうじゃないにしても身内じゃねえか、ふつうは。じいさん、俺の身内じゃねえよな」
「確かに、はい。わたしはあなたの身内ではありません。ですが、これには色々と事情がありまして」
「事情? なんだそれ」
「あなたもいらっしゃればわかると思いますが、あちらの世もなにかと大変なのですよ」
「ふーん、そうか。それで身内でもない見ず知らずのあんたが、俺をお迎えにきたってわけだ」
「はい。そういうわけです」
「だがよ。それにしたって、どうしてあんたのようなじいさんなんだ?」
それは疑問である。
だが老人からすれば、そこを問われるとは思いもよらない。
「そう言われましても、その、それにも色々と事情があるわけでして」
そう答えるのがやっとであった。
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