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【第65話】
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秀夫は、やっぱり見えちゃいましたか、という表情でため息をついた。
「でも、悪い霊ではなさそうね。こんばんは、おふたりさん。アタシはカオル。ヨロピクね」
男はカオルと名乗り、口端をつり上げてウインクをした。
それは不気味以外のなにものでもなかった。
高木と康太郎は抱き合って、そのカオルを恐怖の眼で見ていた。
「あなたたちって、父子? まさか無理心中?」
イヤン、そんなの、あまりにも可哀想すぎるー、と勝手に決めつけたカオルは両手で口許を押さえ、瞳を潤ませた。
「恐いよー、オバケだよー」
「悪霊退散! 悪霊退散!」
高木と康太郎はさらにきつく抱き合い、瞼を強く瞑った。
「なによ! 失礼ね。アンタたちにオバケだの悪霊だのと言われたくないわよ。もう、頭にきちゃう! 塩撒いてやろうかしら」
フン、とカオルはふたりから顔をそむけ、秀夫に向き直った。
「っていうか、ヒデちゃん。霊に憑かれてるって言ってるのに、アンタなに呑気な顔をしてるのよ。少しは恐がりなさいよ」
「いや、その、このふたりは僕が連れてきたわけでして」
「だから、ヒデちゃんに憑いてきちゃったんでしょ」
「いえ、違うんです。僕に憑いてきちゃったんじゃなくて、ついてきたんですよ」
「なにトンチンカンなこと言ってるのよ。ちょっと、大丈夫? お祓いしてもらったほうがいいんじゃない?」
お祓いと聞いて、高木と康太郎は「いやいや、それは困る」とばかりにかぶりをふった。
「ですから、その……、なんて説明したらいいのかな」
秀夫は困り果てて、寝癖頭をなでた。
「まあいいわ。それなら、アタシが話しをつけてあげる」
カオルは高木にキッと視線を向けた。
「ちょっと、アンタ。このヒデちゃんにとり憑いたって、なにもいいことなんてないわよ。鈍感で気が弱くて貧相で、ただでかいだけのなにひとつとり柄のない男なんだから。それだから彼女だってできやしない。いいところがあるとしたら、几帳面で……、あら、他になにかあったかしら……。あ、そうそう、ネガティブではないってことくらいよ。そんな人間にとり憑いたって、なんの徳にもならないじゃないの。悪いことは言わないから、成仏なさい」
その言いように、高木はブチ切れた。
「なんだと。黙って聞いてりゃ、言いてえことを言いやがって」
カオルを睨み上げる。
「俺たちはな、こいつにとり憑いてるわけじゃねえんだ。いろいろと訳ありで、力を貸してもらっているんだよ。それをなんだってんだ。お祓いだの成仏だのと。ふざけんな、このやろう!」
「あら、威勢のいいこと。文句があるなら、いつでもかかってきていいのよ」
カオルは大胸筋をピクピクと揺らした。
小高い肩が山のように盛り上がる。
とたんに高木はちぢかまってしまった。
「まあまあ、カオルさん」
と、秀夫が止めに入った。
「この人の言うように、ふたりは僕にとり憑いたわけではないんですよ。のっぴきならない事情があるんです」
「なによ、その、のっぴきならない事情って。っていうか、ヒデちゃん。アンタにも、このふたりが見えるの?」
「あ、いえ、姿は見えないんですが、なぜか声だけは聴こえるんです。いままでこんなことはなかったんですけど」
「まあ、世の中、不思議なことがあるものねえ」
姿まで見えるおまえはどうなんだ、とはだれも言えない。
「ともかく、こんなところで立ち話をしていてもしかたがないわ。中に入りましょ」
さ、早く、とカオルは鍵を開けるよう秀夫に促す。
「どうしてカオルさんが」
「どうしてもこうしてもないわよ。この人たちの、そののっぴきならない事情を聞かなければ、話は前に進まないじゃないの。僭越ながら、このアタシが力になってあげる」
「いや、それは……」
「なによ。グズグズ言ってないで早く開けなさいってば」
「というか、カオルさん。そろそろお店に行く時間じゃ」
秀夫はカオルを部屋に入れたくなかった。
一度招き入れたことがあったが、そのとき散々な目に合わされたのだ。
「いいのよ、少しくらい遅く開けたって。どうせ、早くからお客なんて来やしないんだから。あ、でも、着替えと化粧くらいはすませちゃおうかな。じゃ、ちょっと待っててね。美しく変身してくるから」
これまた異様にでかい尻を左右にしならせつつ、カオルは自分の部屋にもどっていった。
「でも、悪い霊ではなさそうね。こんばんは、おふたりさん。アタシはカオル。ヨロピクね」
男はカオルと名乗り、口端をつり上げてウインクをした。
それは不気味以外のなにものでもなかった。
高木と康太郎は抱き合って、そのカオルを恐怖の眼で見ていた。
「あなたたちって、父子? まさか無理心中?」
イヤン、そんなの、あまりにも可哀想すぎるー、と勝手に決めつけたカオルは両手で口許を押さえ、瞳を潤ませた。
「恐いよー、オバケだよー」
「悪霊退散! 悪霊退散!」
高木と康太郎はさらにきつく抱き合い、瞼を強く瞑った。
「なによ! 失礼ね。アンタたちにオバケだの悪霊だのと言われたくないわよ。もう、頭にきちゃう! 塩撒いてやろうかしら」
フン、とカオルはふたりから顔をそむけ、秀夫に向き直った。
「っていうか、ヒデちゃん。霊に憑かれてるって言ってるのに、アンタなに呑気な顔をしてるのよ。少しは恐がりなさいよ」
「いや、その、このふたりは僕が連れてきたわけでして」
「だから、ヒデちゃんに憑いてきちゃったんでしょ」
「いえ、違うんです。僕に憑いてきちゃったんじゃなくて、ついてきたんですよ」
「なにトンチンカンなこと言ってるのよ。ちょっと、大丈夫? お祓いしてもらったほうがいいんじゃない?」
お祓いと聞いて、高木と康太郎は「いやいや、それは困る」とばかりにかぶりをふった。
「ですから、その……、なんて説明したらいいのかな」
秀夫は困り果てて、寝癖頭をなでた。
「まあいいわ。それなら、アタシが話しをつけてあげる」
カオルは高木にキッと視線を向けた。
「ちょっと、アンタ。このヒデちゃんにとり憑いたって、なにもいいことなんてないわよ。鈍感で気が弱くて貧相で、ただでかいだけのなにひとつとり柄のない男なんだから。それだから彼女だってできやしない。いいところがあるとしたら、几帳面で……、あら、他になにかあったかしら……。あ、そうそう、ネガティブではないってことくらいよ。そんな人間にとり憑いたって、なんの徳にもならないじゃないの。悪いことは言わないから、成仏なさい」
その言いように、高木はブチ切れた。
「なんだと。黙って聞いてりゃ、言いてえことを言いやがって」
カオルを睨み上げる。
「俺たちはな、こいつにとり憑いてるわけじゃねえんだ。いろいろと訳ありで、力を貸してもらっているんだよ。それをなんだってんだ。お祓いだの成仏だのと。ふざけんな、このやろう!」
「あら、威勢のいいこと。文句があるなら、いつでもかかってきていいのよ」
カオルは大胸筋をピクピクと揺らした。
小高い肩が山のように盛り上がる。
とたんに高木はちぢかまってしまった。
「まあまあ、カオルさん」
と、秀夫が止めに入った。
「この人の言うように、ふたりは僕にとり憑いたわけではないんですよ。のっぴきならない事情があるんです」
「なによ、その、のっぴきならない事情って。っていうか、ヒデちゃん。アンタにも、このふたりが見えるの?」
「あ、いえ、姿は見えないんですが、なぜか声だけは聴こえるんです。いままでこんなことはなかったんですけど」
「まあ、世の中、不思議なことがあるものねえ」
姿まで見えるおまえはどうなんだ、とはだれも言えない。
「ともかく、こんなところで立ち話をしていてもしかたがないわ。中に入りましょ」
さ、早く、とカオルは鍵を開けるよう秀夫に促す。
「どうしてカオルさんが」
「どうしてもこうしてもないわよ。この人たちの、そののっぴきならない事情を聞かなければ、話は前に進まないじゃないの。僭越ながら、このアタシが力になってあげる」
「いや、それは……」
「なによ。グズグズ言ってないで早く開けなさいってば」
「というか、カオルさん。そろそろお店に行く時間じゃ」
秀夫はカオルを部屋に入れたくなかった。
一度招き入れたことがあったが、そのとき散々な目に合わされたのだ。
「いいのよ、少しくらい遅く開けたって。どうせ、早くからお客なんて来やしないんだから。あ、でも、着替えと化粧くらいはすませちゃおうかな。じゃ、ちょっと待っててね。美しく変身してくるから」
これまた異様にでかい尻を左右にしならせつつ、カオルは自分の部屋にもどっていった。
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