幽霊になっても、俺は娘に逢いにゆく

星 陽月

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【第74話】

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 高木はカオルの視線を避けるようにうしろを向いた。
 何も言わぬその背は、「そんなの当然じゃねえか」と言っているように思えた。
 だがそうではなかった。
 肩が小刻みに震えている。
 高木は号泣していた。

「つれえな。そんなことがあったなんてよ……」

 唇をわななかせ、ダムの放水が如くに涙を流し、おいおいと泣いていてはさめざめと泣き、そしてしくしくと泣くと、洟(はな)をずるずるとやった。
 康太郎がお約束のようにうしろからハンカチを差し出し、高木はこれでもかと、これまたお約束の洟をかんだ。

「マサさん。こんなアタシのために泣いてくれるのね」

 カオルの瞳から、清らかな涙がつたい落ちる。

「うるせー。俺は泣いちゃいねえ。泣くもんかってんだ。うッ、うッ、勝手に涙が出てきやがる。チクショー!」

 高木は涙を耐えようとする。
 だが、耐えがたきを耐えることはできなかった。

「マサさんて、口は悪いけど、心根はやさしいオトコ」
「うるせえってんだ、ばかやろう」
「ウフ、あなたが生きているときに会いたかったわ」

 カオルは妖しい視線を高木の背に投げる。
 高木は背筋にぞくりとするものを感じて、それをふり払うかのようにまたも大きく洟をかんだ。
 はたして康太郎の差し出したハンカチは、ぐっちょぐちょのねっちょねちょになっていた。
 それを返そうとする高木に、康太郎は顔をしかめて、もういらないよとばかりに首をふった。

「ふたりってよく似てるね。こんな泣き虫のおとなを、ボクは見たことがないよ」

 半ば呆れながら康太郎は、秀夫へと眼を向ける。
 すると秀夫までがカオルの話しに感じ入ったとみえて、はらはらと涙を流していた。

「あーあ、先生まで泣いちゃった。おとなってほんとに勝手だね。こどもには泣くなって叱るくせにさ。おかしいよ」

 愚痴るようにそう呟くと、康太郎は大きなため息をこぼした。
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