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チャプター【10】
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「セリアンにやられたか……」
久坂はそう呟いて、ふと、左側の首のつけ根に視線を移した。
そこで、ハッとして視線を留めた。
「これは――」
そには、細い突起物で刺されたような丸い傷がふたつあった。
(どういうことだ……)
久坂は胸の中で呟き、眉根をよせた。
丸いふたつの傷は、他の傷とはまったく違うものだった。
何者かに咬まれたようなその傷は、他の傷よりも過去に負ったもののようだった。
傷口は塞がり、治りかけているからだ。
久坂には、どのようにしてその傷を負ったのかも、知っているようだった。
「セリアンが感染者を襲うことなど、なかったはずだ……」
久坂は、険しい表情で、丸いふたつの傷を見ていた。
翌朝――
眼を醒ました女に、久坂は紅茶を差し出した。
「さあ、どうぞ。わたしの淹れた紅茶は、上手いと評判なんだ」
言うと久坂は、テーブルを挟んで、女の向かい側にある一人掛けのソファに坐った。
その久坂に女は眼をやり、テーブルに置かれた紅茶に眼を落した。
だが、カップに手を伸ばそうとはしなかった。
「紅茶は嫌いかい?」
久坂が訊くと、女は首を横にふり、遠慮がちにカップを手に取って口に運んだ。
「どう?」
そう訊かれて、女は、小さく口許で、「美味しい」そう呟くと、ほっとしたような顔をして、リビングを見渡した。
「ここは……」
女はカップを置き、久坂に眼を向けて、そう訊いた。
その瞳には、昨夜見た金碧色の耀きはなかった。
「わたしの家だ。古い家だろう? わたしの父が建てた家だからね」
久坂は、柔和な笑みを浮かべると、
「傷の痛みはどうかな? 抗生物質と鎮痛剤、それにビタミン剤を投与したんだが」
そう言った。
「痛みは、さほど感じない。ただ、身体が熱い」
「その熱は、傷のせいじゃない。君の体内で起きている症状だ。しかし、それだけの傷を負って、もう起き上がることができるとは、すごい回復力だ」
その言葉に、女は自分の身体に眼を落した。
そのときなって、自分がパジャマを着ていることに気づいた。
「ああ、それは、わたしのパジャマだよ。傷の手当てをするために、衣服を脱がせたからね。だが、下着はそのままだ。触れてもいないよ。誓ってね」
久坂は、言い繕うように言った。
女は、そのことを別段気にしている様子も見せずに、左腕の袖をめくった。
腕には包帯が巻かれていた。
女は、その包帯をほどきはじめた。
包帯が肘のあたりまでほどけたとき、
「オォ!」
久坂が声をあげた。
女のその左腕には、セリアンから受けた深い傷があった。
その傷が、ほとんど塞がり、治りかけている。
久坂は、驚きの眼で、その傷を見ていた。
そのとき、ふと、女が立ち上がった。
と思うと、女はパジャマを脱ぎはじめた。
「え? なな、なにを……」
久坂が止める間もなく、女はアンダーウェアだけとなり、全身に巻かれた包帯をすべてほどいていた。
女の身体中にあった傷は、左腕の傷と同様に、やはり治りかけていた。
久坂は、女の身体の傷を、と言うよりは胸を、呆けたように見つめていた。
すると、
「おまえ!」
女が、怒声を放った。
「やや、す、すまない。あまりにも、その、魅力的な胸だったので、つい見惚れてしまって……もう見ません。だから、許してください」
久坂は、おたおたとしながら謝罪した。
「そんなことは、どうでもいい!」
女は、テーブルを乗り越え、
「おまえ、医師ではないと言ったな。そのおまえが、この私になにをした!」
久坂の胸ぐらを掴んだ。
その眼に、金碧色の光が帯びる。
「なにをって、わたしは、ただ……、き、君の傷の手当てをしただけさ」
「なら、どうしてこんなに早く、傷が治ってしまう!」
女は、掴んだ胸ぐらを絞り上げた。
「そ、それも、君の体内で起きている、症状のひとつなんだよ……」
久坂は苦しげに言った。
それを聞き、女の手の力が緩んだ。
久坂はそう呟いて、ふと、左側の首のつけ根に視線を移した。
そこで、ハッとして視線を留めた。
「これは――」
そには、細い突起物で刺されたような丸い傷がふたつあった。
(どういうことだ……)
久坂は胸の中で呟き、眉根をよせた。
丸いふたつの傷は、他の傷とはまったく違うものだった。
何者かに咬まれたようなその傷は、他の傷よりも過去に負ったもののようだった。
傷口は塞がり、治りかけているからだ。
久坂には、どのようにしてその傷を負ったのかも、知っているようだった。
「セリアンが感染者を襲うことなど、なかったはずだ……」
久坂は、険しい表情で、丸いふたつの傷を見ていた。
翌朝――
眼を醒ました女に、久坂は紅茶を差し出した。
「さあ、どうぞ。わたしの淹れた紅茶は、上手いと評判なんだ」
言うと久坂は、テーブルを挟んで、女の向かい側にある一人掛けのソファに坐った。
その久坂に女は眼をやり、テーブルに置かれた紅茶に眼を落した。
だが、カップに手を伸ばそうとはしなかった。
「紅茶は嫌いかい?」
久坂が訊くと、女は首を横にふり、遠慮がちにカップを手に取って口に運んだ。
「どう?」
そう訊かれて、女は、小さく口許で、「美味しい」そう呟くと、ほっとしたような顔をして、リビングを見渡した。
「ここは……」
女はカップを置き、久坂に眼を向けて、そう訊いた。
その瞳には、昨夜見た金碧色の耀きはなかった。
「わたしの家だ。古い家だろう? わたしの父が建てた家だからね」
久坂は、柔和な笑みを浮かべると、
「傷の痛みはどうかな? 抗生物質と鎮痛剤、それにビタミン剤を投与したんだが」
そう言った。
「痛みは、さほど感じない。ただ、身体が熱い」
「その熱は、傷のせいじゃない。君の体内で起きている症状だ。しかし、それだけの傷を負って、もう起き上がることができるとは、すごい回復力だ」
その言葉に、女は自分の身体に眼を落した。
そのときなって、自分がパジャマを着ていることに気づいた。
「ああ、それは、わたしのパジャマだよ。傷の手当てをするために、衣服を脱がせたからね。だが、下着はそのままだ。触れてもいないよ。誓ってね」
久坂は、言い繕うように言った。
女は、そのことを別段気にしている様子も見せずに、左腕の袖をめくった。
腕には包帯が巻かれていた。
女は、その包帯をほどきはじめた。
包帯が肘のあたりまでほどけたとき、
「オォ!」
久坂が声をあげた。
女のその左腕には、セリアンから受けた深い傷があった。
その傷が、ほとんど塞がり、治りかけている。
久坂は、驚きの眼で、その傷を見ていた。
そのとき、ふと、女が立ち上がった。
と思うと、女はパジャマを脱ぎはじめた。
「え? なな、なにを……」
久坂が止める間もなく、女はアンダーウェアだけとなり、全身に巻かれた包帯をすべてほどいていた。
女の身体中にあった傷は、左腕の傷と同様に、やはり治りかけていた。
久坂は、女の身体の傷を、と言うよりは胸を、呆けたように見つめていた。
すると、
「おまえ!」
女が、怒声を放った。
「やや、す、すまない。あまりにも、その、魅力的な胸だったので、つい見惚れてしまって……もう見ません。だから、許してください」
久坂は、おたおたとしながら謝罪した。
「そんなことは、どうでもいい!」
女は、テーブルを乗り越え、
「おまえ、医師ではないと言ったな。そのおまえが、この私になにをした!」
久坂の胸ぐらを掴んだ。
その眼に、金碧色の光が帯びる。
「なにをって、わたしは、ただ……、き、君の傷の手当てをしただけさ」
「なら、どうしてこんなに早く、傷が治ってしまう!」
女は、掴んだ胸ぐらを絞り上げた。
「そ、それも、君の体内で起きている、症状のひとつなんだよ……」
久坂は苦しげに言った。
それを聞き、女の手の力が緩んだ。
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