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チャプター【43】

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 我が民たちよ。
 いまから話すことを、よく聞いてほしい。
 私は、2万年という長きにわたり、女王の座に就いてきました。
 我々種族の寿命は1000年ほど。
 それを、こうして2万年のあいだ生命を維持してこれたのは、クローン技術の恩恵を受けていたからに他なりません。
 これもひとえに、科学者たちの努力の賜物と感謝しています。
 けれども、2万年という歳月(とき)は、気の遠くなるほどに長い……。
 クローンからクローンへ、そしてまたクローンへと、私は19度、意識を転送(アップ・ロード)してきました。
 言うなれば、私はひとりで20世代、女王でありつづけたということです。
 これは、歴代の女王にはなかったことです。
 本来、女王は、1000年が近づくと、新たなる民となる我が子と、次代の女王を産む準備に入ります。繁殖行動を行うのです。
 そして女王は、何万という子を産み、そして最後に女王となる子を産むのです。
 歴代の女王は、そうやって種を存続させてきました。
 種の繁殖行動を許されているのは、唯一、女王のみ。
 しかし、私のこの身体は、子を成すための繁殖機能を失ってしまっていたのです。
 女王が繁殖機能を失い、次代の女王を産めぬとあらば、女王はその座を追われ、新たに女王を選出するのが我が種族のならい。
 私も当然、そのならいに従うつもりでいました。なのに、あなたたち民は言ってくれたのです。
 貴女様を措(お)いて、女王に相応しい者はおりません、と。
 そればかりでなく、わたしどもが忠義を尽くせる女王も、貴女様の他にはおられないのですと、そうも言ってくれ ました。
 そんなあなたたちに応えるべく、私は女王をつづけていくことを決意しました。
 そして、私の意識をクローンへと転送したのです。
 その後も、1000年ごとに、同じことをくり返しつづけてきました。
 1万年が過ぎたころ、私の本体(オリジナル)に異変が起きたのです。
 冷凍ポットの中で管理されていたにもかかわらず、私の本体は細胞壊死(ネクローシス)し始めたのです。
 細胞壊死は、止まりませんでした。
 壊死の部分を取り除いても、また別のところが壊死してしまい、私の本体は、為すすべもなく、ついにすべての細胞が壊死してしまったのです。
 完全な肉体の死でありました。
 科学者や医師たちは、その要因を調べ尽くしましたが一向にわかりませんでした。
 私は、己の肉体を埋葬したのです……。
 それからは、意識を転送したクローンの遺伝子細胞から、新たなクローンを培養して造るしかありませんでした。
 なぜなら、意識が転送されて空となったクローンに、本体と同じ細胞壊死がはじまってしまったからです。
 それならばと、科学者たちは、意識を転送する前に複数のクローンを造ろうと考えました。
 けれども、なぜかクローンは、一体しか造ることができなかったのです。
 その理由も、まったくわかっていません。
 そうして、クローンからクローンへと――要するに、複製からさらに複製を造るという以外に方法がなくなってしまったのです。
 私の遺伝子細胞は、複製していくにつれて弱まっていきました。
 そして19度、意識を転送してきたいまの私の肉体の遺伝子細胞からは、クローンを造ることができなくなってしまったのです。
 それは、あなたたちも同様です。
 私とともに、あなたたちもクローンからクローンへと意識を転送してきたのですから……。
 私はさきほど、2万年という歳月は気の遠くなるほど長いと語りました。
 しかし、どれほど長い歳月であっても、過ぎてしまえは過去でしかありません。
 過去とはただの記憶。
 すべては夢まぼろしでしかなかったのです。
 1万9千年前、繁殖機能を失った私は、選出された次代の女王へ速やかにその座を譲ろうとしていました。
 その私が、1000年、そしてさらに1000年という歳月を重ねていくにつれて、いつしか女王でありつづけることに執着したのです。
 クローンが造れないという現実を知ったとき、私は恐れました。
 1万年という途方もない歳月を生き長らえながら、死への恐怖に心を縛られたのです。
 そんなときでした。
 私の脳裡に、突如として遥かなる太古の記憶が甦ったのです。
 いまからおよそ21億年前、我々の祖先は単細胞として誕生し、他生物へと寄生する細胞体へと進化していった記憶がまざまざと――
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